側近Bと吸血城2
さてそんな訳で、最初の難関、湖の橋は見事クリア!
お次は城への侵入。
橋を渡りきった先、城の入り口には身の丈の3倍以上ある巨大な扉がある。
このやたらと精緻な細工が彫り込まれ、白い石の中に青い宝石を埋め込んで銀と金で装飾した大扉は、ゆっくりとしか開けられない細工がされている。
侵入者は開けている間に気づかれて、コウモリに攻撃されるか、駆けつけた吸血鬼と戦うことになる。
けれど毎回開け閉めするには手間なので、前回の整備の時にあたしたち作業者用に小さな扉を作った。
もちろん城の管理人には一声かけて許可をもらっている。
確か、「勝手にしろ、今忙しいんだ」だったかな。
だからあたし達、勝手にさせてもらった。
大扉の模様にそって、一部を開けるように改造したのだ。前回の整備で一番気合を入れて時間をかけて丁寧に処理したから、全く分からない。当然気づかれているはずもなく、手をかければ問題なく開いた。
オニキスの手を引いて、静かに扉を閉める。
はい、城のへの侵入もクリアー。
人間だったら、ほとんどがここまで辿り着けないんだっけ?
確か10人に1人とか言っていた気がする。
で、目の前に広がるのは巨大な玄関ホール。
天井には巨大なシャンデリアが垂れ下がり、足元は真っ青な絨毯。
天窓からの光をシャンデリアが七色に反射して、まるで海の中のように、絨毯に様々な青が揺れる。
奥には、先が見えないほどに長い廊下が伸びている。天窓の光はそこまで届かず薄暗いのだけれど、廊下に立てられた水晶の柱の中に光る青い宝玉が埋めてあって、誘うように幻想的に輝いているのだ。
「なんて・・・綺麗なんだろう・・・」
オニキスはため息と共にふらふらと歩きだしてしまいそうになる。
それをあたしは慌てて引き止める。立ち止まっても、オニキスは廊下の奥から目を離さない。
うん、まあね。
綺麗なのは認めるよ。手前は明るい海、奥は深海の荘厳さ、とかドワーフの棟梁が褒めてたし。
だから、青い宝玉が本当はボーンフィッシュの卵で、柱の近くを通りがかった人間をランダムで丸呑みして、栄養を得て生体になって、天窓から外に飛んでいって湖に帰るなんて現実は、黙っててあげよう。
ちなみに吸血鬼でも食料になるから、奴らはこの柱から離れた所を全力で駆け抜けている。
「オニキス、こっちだよ」
あたしは扉のすぐそばの壁に彫り込まれた紋章に触れる。
ポイントは右の端を思い切り押すことだ。
すると壁がぐるりと回転して、壁の中に入れるようになる。一瞬でも目を離した隙に何が起こるか分からないのがダンジョンなので、あたしはオニキスと一緒に固まって通った。
扉は回転を終えると元どおりになる。
壁の中は、荘厳だった城とは違い、何もない無機質な狭い通路が、ずっとずっと奥に伸びているだけ。
明かりは無いけれど、壁の向こうの城の光が所々から射し込んでいて、前は見える。
振り返ればオニキスが、何とも言えない表情でこちらを見て、通路を指さしている。
「これは?」
と聞くので、あたしはそのまま答えた。
「工事用の通り道」
「え?」
「でも、普段は通風口として使うんだ。だから、目立たないように全ての部屋の穴と繋がってる」
「え?」
オニキスは全く分からないという顔でポカンとしている。
「吸血鬼って、淫魔や腐食鬼とか以外にも、骨騎士とかゾンビとかも使役するんだ。で、腐りかけのも多いから、臭うの。自分で使役しといてバカだなあとは思うんだけど、吸血鬼の美意識的には許せないらしくて、何とかしてって魔王様に嘆願が来たんだよね。だから作ったの。通風口。おかげで臭く無いでしょ?」
「あの…ダンジョン、なのに?」
「ダンジョンだけど家でもあるから。戦ってる時は封鎖して匂わせて雰囲気出したりしてるみたいだよ」
吸血鬼って、魔王様の仰ることに反抗的な割に、時々妙にノリが良いことがあるんだよね。それも美意識らしいけど。
「そろそろ一旦外に出よう」
あたしがそう言って部屋の壁に手を掛けると、オニキスに待ってと止められる。
「誰かいます」