側近Bと吸血城1
前回までのあらすじ:人間からの召喚にうっかり返事してしまったメイは、人間オニキスの家族の呪いを解くため、吸血鬼の生爪を剥ぎに行くことにした。
あたしは魔王様の側近B。
側近になる前の仕事は、ドワーフと一緒に建築業。
なので、迷宮踏破は得意です。
吸血鬼の城は、全てが白い石で出来た巨大で派手な城だ。
幾つもの棟に分かれていて、それを廊下や空中回廊で繋いでいる。そして庭は無く地面に水が張られていて、華美な橋が四方に掛けられている。まるで湖の上に建てたかのような城なのだ。
巨大な城の屋根は高く伸びて鋭く尖り、天の星を刺し貫くように細く長い。
威風堂々、絢爛豪華、とか何とか。
色々言われているけれど、あたしからすれば、ひたすらに整備が面倒な城、でしかない。
魔王様のお城の方が何倍も素敵だもん。
「これは…これほど、とは」
それでも初めて見ると驚くもののようで、オニキスはぽかんと口を開けたまま放心した様子で城を見上げていた。
「じゃあ、さくっと攻略するよ!」
そんなオニキスを置き去りにして、あたしはさくっと宣言する。
手を引っ張れば何も言わずに付いてくるけれど、吸血鬼の城に見とれているのだと思うと何だかむっとするよね。
まあ、この城は、人間が普通に攻略するのは難しい城だと思う。
まず、建物の外は全てコウモリが見張っている。少しでも異変があれば下位の吸血鬼を呼ぶために凄い声で鳴く。しかもその鳴き声には麻痺の効果があり、あっという間に飛んできた吸血鬼に人間は干物のように血液を搾り取られてしまうのだ。
かといって、城の周りの湖を泳いで渡るのはもっとオススメしない。
一見コウモリに見つからない良い手に思えるけど、水の中にはもっと恐ろしいボーンフィッシュがいる。
その名の通りに骨だけの魚で、人間の子供なら丸飲み出来るくらい巨体なのに、軽いから凄く早い。しかも食欲旺盛で、水に落ちたものは何でも鋭い刃で噛み砕いて食べ尽くしてしまうのだ。
うっかり落ちた吸血鬼さえカジられて、号泣しながら水から逃げていたのを見たことがある。
「う……」
実際にオニキスも、跳ねたボーンフィッシュを見てしまって顔をひきつらせている。
骨だけで泳いでるって気持ち悪いよね。あれを、純白で美しいとか言う吸血鬼意味わからない。
まあそんな感じで最初の進入さえ難しいこの城だけれども、あたしに掛かれば簡単に侵入できる。
なんたってあたしは魔族!
しかも、この城を定期的に整備してるのはあたし!(と、ドワーフ達)
だからオニキスの手を掴んだまま、ただ橋を渡ればいいのだ。
どう見ても淫魔なあたしが人間の若い男を連れていたら、吸血鬼への貢ぎ物だとか勝手に解釈してくれるのだ。
「オカエリナサイ、マセ」
きぃ、とコウモリが鳴いて、またどこかに飛び立っていく。
ほらね、ちょろい。
湖の橋を渡りながら、小さくなっていくコウモリの影にべーっと舌を出していると、オニキスが不安げにあたしの手を引いた。
「・・・あの、本当に良いんでしょうか?」
「何が?」
「あなたは淫魔なのでしょう? こんなことをして・・・」
「良いんだよ。あたし吸血鬼、嫌いだし」
鼻息も荒く言い切ると、オニキスは何とも言えない顔をして、黙る。
どうしたのか急に暗い顔になってしまった。
まあ、あたしが吸血鬼の爪を取りについて行くって言い張った時から何か言いたそうにしていたけどね。
良いんだよ。
だって一回やってみたかったんだもん。
裏側からのダンジョン攻略!!
よそのダンジョン見学するのだって必要って、ユーディット言ってた気がするし。
その結果ちょっとばかり備品が壊れたって、お金持ちな吸血一族だもの。
全然問題ないに決まってるじゃない。
ね?