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側近Bと凍菓子8

「・・・・・・。」


「・・・・!?」


「――――!」



段々と体に魔力が戻ってきたみたいで、あたしはゆっくりと目を覚ました。

「うーーー・・・」


だるさとかは特にない。

ぼんやりと見渡すと、こちらをじっと凝視している顔と目があった。


「!?」

誰!?


思わずがばっと起き上がると、その顔がぱぁぁっと輝くように笑って、あたしに飛びついてきた。

「おねえちゃん、おきたーーー!!」

「えっ? 何?!」


本当にだれっ!?


あたしに飛びついてきたのは、小さな子供だった。

薄茶の髪を生き物のしっぽみたいに跳ねさせて、とても嬉しそうに抱き付いている。

「パルは、パルだよ! あ、じゃなくて、オパールです。オニキスおにいちゃんの妹です」

「オニキスの?」

思わず繰り返すと、えへへ、と笑って下から見上げてくる。

確かにオニキスの家族紹介の中にいた気がする。

『かわいい一番下の妹オパール5歳』

「兄がおせわになっています。パルともおともだちになってください!」

そう言ってキラキラした目で見上げてくる。

……確かに、可愛い。


「いいよ。あたしはシェリーメイ」

「しぇりーめいさん」

「メイでいいよ」

「メイ…めーちゃん?」


かくっと首を傾げて聞いてくるので頷く。

あたしの名前はちょっと長いから言いづらいらしい。


そういえば、と思って周囲を見渡してみると、そこは最初に召喚されたオニキスの部屋だった。

部屋中に本が散乱していて、読みかけなのか落としたのか、開いたままの形で床に残されている本も結構ある。

本好きのウチの司書とかが見たら青くなって絶叫しそうな光景だ。

ただ、その持ち主は部屋のどこにもいなかった。


「オニキスは?」

「オニキスおにいちゃんは、おとなりのへやなの」


隣?

あたしは起き上がってベッドから降りた。

オパールがそんなあたしの手を引いて、壁際に連れて行く。

そこでやっと気づいたけれど、壁には目立たないようにして扉があった。

普段は鍵が掛かっているらしいけれど、今はその鍵穴に鍵がさしっぱなしになっている。


「めーちゃん、しーっだよ」


と言ってオパールは口元に指を一本当てて神妙な顔をする。

静かにって意味だよね。よく分からないけれど、あたしは頷く。

オパールはそれを見てから、そっと扉を開けた。



○○○○○○○○○○○




「アル姉さん、やっぱり倉庫にあるだけの材料じゃ足りないよ」

「そうかぁ…。うーん困ったな。ちょっとひとっ走り!って取りに行けるものじゃないんでしょう?」

「魔界にしか無いんだ」

「そうだよねぇ。でもウチの最大戦力3人がこんなんなっちゃって、勇者様も相変わらず石だしねぇ。頼りになる戦力が…あ、きーくん一人で行ってみない?」

「姉さん俺を殺す気!?」


まず目に入ったのはそう会話する二人だった。

片方はオニキスで、もう片方は栗色の髪をポニーテールにしている女の人だ。

“アル姉さん”て呼んでたから、二番目の姉の『しっかり者で頭のいいアルビア姉さん』だろう。

二人は部屋の中央のベッドの前で、ベッドの中を気にしながら話していた。


というか今、『勇者』って言った? 石にされた勇者様ってすごく身に覚えがあるんですけど。

…なんて思う暇も無く、あたしの目は『勇者』を見つけてしまった。


それはベッドのすぐ横で仰向けになって倒れていた。

いや倒れてはいない。肩の所と腰の所に紐が掛けられて、背負われていた。

その背負っている人が床にしゃがみ込んで泣いているので、勇者も低い位置で上向きになって小刻みに上下しているのだ。

ああ何か、最後に見た時よりも細部に傷が増えた気が。

髪の毛とか肩とか多少欠けてる気が。……あたしの言えたセリフじゃないが、大丈夫なんだろうか。


というか部屋の雰囲気がまず全然大丈夫じゃなかった。

なにせ勇者を背負っている男と金髪の女が床にしゃがみ込んで大泣きしているのだ。

「吾輩が居ながら…なんてことだ…。サフィアが何でこんな目に…吾輩のせいなのだ…」

「わたくしの威光が届きませんでしたわ…。わたくしの美しさに平伏さないなんて…」

そしてベッドの上には黒髪の少女が眠っているが、顔色がとても悪い。


床にいる二人と立って話している二人のテンションの違いがまず変だ。

オパールを見下ろすと、彼女はまだ唇に指を当てている。

そして手を引かれて、部屋の中へとトコトコ連れていかれた。


「あっ」

すぐにオニキスがこちらに気づき顔を綻ばせた。

「起きたんですね」

「うん…。かきごおりできなくてゴメン」

「謝るのはこちらです。慣れない魔術は消費が激しいのに気づかなくて申し訳ありません。具合の悪いところはありませんか?」

「大丈夫。 ・・・ところで、これはどういう事態?」

あたしが首を傾げると、オニキスは申し訳ないと頭を下げる。

「すいません。本来ならすぐにでも帰る方法を探さなければいけないのに。こんな状態なので、今しばらくお待ち頂けますか」

それは良いけど、と言おうとした所で、金髪の女性の泣き声がさらに大きくなった。



「わたくしの、何が不満なんですのぉ、勇者様ぁ!!!」


勇者は多分ずっと石だったと思うのだけど。

随分思い入れが強い…と思ったら、その顔に見覚えがあるのを思い出した。


一瞬で蒸発させられそうになった、聖女だ。


「っ!!」

慌ててオニキスの袖を掴み、影に隠れる。


え、何で? 何で聖女がここに??

どうしよう。今は魔王城の皆がいないんだから、あたし1人なんだから、簡単に殺されてしまう!

「どうしました!?」

オニキスが慌てあたしの顔をのぞき込んでくるけれど、なにもいえないで震えるしかない。


「オニキス、この方、えっちゃんが怖いみたいだわ」

「え? エメロード姉さんを?」


聖女がお姉さん!!?

ああ、『ものすごい美貌の姉』!確かに最高位の聖女って言ってた。

…言ってたけど、まさか勇者一行の聖女だなんて思わないでしょ!?


「なんだかとても申し訳ない事の予感がするわ。ただでさえきーくんを引き籠もりから救って下さった恩ある方なのに…。

えっちゃん、何をしたのかしら。

でも、とにかく今は大丈夫よ。えっちゃんは、あの私たちの姉で第一王女で、今の教会で最も高位の聖女としてイケイケだったエメロードも、今はあのていたらく。嘆くことに一杯一杯でこちらに気付いてもいないわ」

ね? とアルビアが慈愛の微笑みを浮かべながらあたしの肩を叩く。

言われてみれば確かに、聖女は周囲は全く見えてないようで、まだぶつぶつ呟きながら床に涙を落としている。

異常だ。けれど、害が無いと知って、ほっと身体の力が抜けた。


「本当にご迷惑ばかりお掛けしてごめんなさいね。

改めましてはじめまして、オニキスの二番目の姉、アルビアです」

そう言って手を差し出してきたので、よくわからないながらもそれを握る。

アルビアは緋色の目を嬉しそうにほころばせた。

「あ…。シェリーメイ、です」

「まあ良い名前! めーちゃんとお呼びしても良いかしら?」

「めーちゃんは、めーちゃんだよ!」

と、あたしの裾を握ったままのオパールが言う。

「あら、さすがパルねぇ。良いセンスよ」

それに気づいたアルビアは、目を細めてオパールの頭をかき混ぜるように撫でて、オパールは嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃいだ。




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