側近Bと凍菓子7
「え? 簡単じゃないですか?」
あたしが首を振るとオニキスは不思議そうな顔で首をかしげる。
「だって、氷魔法に風魔法に重力魔法だよ!? そもそもあたし魔法得意じゃないし、出来ないよ」
さすが、魔王様が「食べたい」と仰る「かきごおり」。恐ろしいお菓子だ。これはそれぞれの魔法が得意な魔物に協力して貰うところから始めなくちゃいけないのか。
ただの氷にシロップかけただけかと思いきや、とんでもないよ。
「そうかな? サフほどの魔力もなければアルビア姉さんみたいに頭も良くない俺でも出来るんだから、練習すれば簡単だと思いますよ」
いやいやいや。簡単とか言わないで。
普通は新しい系統覚えるには一月くらいその素体と触れ合って馴染まないといけないんだよ。
あたしが使えるのは風魔法くらいだ。あと氷・・・は作ったこと無いけどそれくらいなら出来る気がする。
最初の一歩だけど。
あたしがうんうん唸って悩んでいると、オニキスに手を取られた。
そして魔王様に似ている黒い瞳があたしの目をのぞき込んで言う。
「でも、ここまで必死で覚えたいと仰るんだから、食べさせたい人がいるんでしょう?
大丈夫。絶対出来ますから。出来るまで俺が隣にいますから、一緒に頑張りましょう?」
と、優しい笑顔付きで。
言われてあたしもハッとした。
魔王様のお口に入るものを他人に作らせようだなんて、あたしはなんてことを考えたんだ!
あたしでも出来るっていうなら、やってやろうじゃないか。
そして魔王様に笑っていただいて誉めて頂くんだ!
あたしはコクリと深く頷いた。
○○○○○○○○○○○○○○○
「ではまずは氷から。ちょっと作ってみて下さい」
「んー・・・!」
両手を掲げて魔力を練る。
冷やして、冷やして、凍らせ、よし氷出ろ!
ガコン!!
と、台の上に氷が落ちた。
でも手にとって見てみると中に白い筋が出来てしまっていて、明らかに品質が悪い。これならば水を普通に凍らせた方がマシだ。
オニキスはそれを見て、ちょっと考えてから口を開く。
「想定した温度が低すぎたようです。このくらいの温度で、外側からではなく満遍なく冷やすイメージでやってみて下さい。
一気に氷にするのではなくて、ゆっくり凍るように」
ガコべしゃ!
このくらい、と腕を触られた温度を参考にやってみたけれど、今度は完全には氷になっていないものが出てきた。
凍りかけた液体と小さな小さな氷が一緒に落ちてきたのだ。小指の先ほどしかないその氷は、けれどさっきオニキスが出したのと同じくらい透明で綺麗な出来だった。
ということは、長時間維持すれば大きな氷が出来るってことか。
「あ、良いですね。今度はそれを時間短縮して下さい。ゆっくり凍らせた状態を続けて、二日後くらいから持ってくるイメージで」
「は!?」
何言ってるのか分からない。
あたしの戸惑いが如実に伝わって、オニキスは失敗作の氷を手を振って消しながら、もう一度言い直してくれる。
「このまま凍らせ続ければ、純度の高い氷が使える量できるのは二日後くらいになります」
そうだね。そのくらいかかると思う。
「ですがそれならば水を凍らせるのと違いはありません。その時間を短縮してこそ魔法です」
「えー・・・」
魔法に期待しすぎだよ。
やってみて下さい、と言われたのでやってみる。
ゴトン、と音を立てたのはーーー最初の荒い氷だ。
きっとオニキスもがっかりしたろう、と思って見たら、彼はキラキラと輝く空気を纏って言った。
「大丈夫、絶対に出来るようになります! 俺がついてますから! ――――――いつまでも」
「ひっ!」
言葉って不思議! たった一言付け加えただけで、すごく怖いよ!!
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
そして一生懸命頑張って頑張って頑張ったあたしは、半分死にかけていた。
冗談とか比喩とかじゃない。
魔力って魔族にとっては血液とか空気とかと同じなんだよね。命そのものって習ったことを唐突に思い出したよ。
「は、ひ、っひ、ふ、ぅ。ぅー・・・・・・。も、だめ」
ふっと気が遠くなって、目の前が真っ暗になる。
「―――――っ!!」
オニキスが何か叫んで、体を支えてくれたのは分かる。
でももう見えないし聞こえない。
ちょ、休む。…おやすみなさい。