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側近Bと凍菓子4

ようやくオニキスが明るい表情をしてくれて、彼の悩みは一応解決したようだ。

けれど、彼の願いはあくまでも『殺してほしい』なので、あたしはまだ帰ることは出来ないみたいだ。


「本当に…申し訳ありません」

その状況にあたしよりもヘコんでいるオニキス。

「別にいいよ。すぐに帰れなくても、歩いて帰ればいいし。…ここ、魔の森までどのくらいなの?」

真の森とは魔王城がある所のことだ。

「距離としては、7日ほどです。人族の中では最も森に近い国なので。

でも、途中に竜の山や毒の沼など、危険なポイントは沢山あります。たどり着くのは…難しいはずです」


そうか?


山は竜族が住んでいて、この間ダンジョンの工事にドワーフ達が行ったばかりだから、あたしに危害を加えたりはしないだろう(再度の工事は怒られるという理由で)

というか、彼らは頑固で、言うことを聞いてもらうのは難しいけど、それだけだ。ちょっと領土の隅を通るくらいで文句は言ってこないはず。


沼は、片隅にあたしの隠しダンジョンがあるから、むしろそこまで行けば安心できる。

…ユーディットに怒られるのが一番怖いかなぁ。あたしの部下たち、口裏合わせてくれないだろうか。


ただ、吸血一族が住んでいる死者の谷は駄目だ。あいつら陰険で陰湿でどうしようもないから。

淫魔なのに自分達の一族に入らないあたしの事が気に入らなくて仕方無いみたいだし。

絶対邪魔してくるに違いない。


なら、どこかのダンジョンで保護してもらって、迎えに来て貰って…駄目だ。そんなことしたら絶対ユーディットに外へ出たことが知れてしまう。


これは確かに、案外…


「帰るの大変かもしれない」

思わず腕を組んで考え込んでしまった。

「本当に…申し訳ありません」

すると、がっくりと頭を下げるオニキス。

「もうそういうの、いいよ」


ふうとため息をついて手元のお茶を飲み干して、残り少なくなった茶菓子を手で摘む。

これは多分クッキーなんだけど、爽やかな風味があってとてもさっぱりしていて食べやすいのだ。

これは何のお菓子なんだろう。ふと気になったので聞いてみる。


「これ美味しいけど、何のお菓子?」

ひらひら、と手を振ってみると、オニキスがぼんやりと顔を上げる。

「…それは甘夏を入れたクッキーです」

「あまなつ?」

「柑橘系の…ああ、これです」

と、ぽん、とテーブルの上に置いたのはオレンジに似た、でもそれよりずっと大きな果物だった。

「これの果汁を入れるの?」

この食べやすさなら、魔王様も喜んで下さるかもしれない。

「いえ、最初に果汁を生地に混ぜて、落ち着いてから砂糖と一緒に刻んだ皮を混ぜるんです。そうすると触感も出て美味しいんですよ」

「へー。それは良いことを聞いた。二度に分けて入れるとは…。」

ふむふむ、とあたしは頷く。

魔王様、暑い時期も寒い時期もお好きじゃなくて、食が細くなりがちだから。飽きずに食べられる変わった触感や味は大切だ。

魔王様に満足して頂くため、もっとレパートリーを増やさなければ!


「オニキスもお菓子づくりするんだ」

褒めてるのに、オニキスの顔はまた暗くなる。

「変ですよね、男なのに…。俺細かいことするのが好きで。それに、お菓子はアルビア姉さんが喜んでくれるので…」

「じゃあ良いじゃん。あたしだって同じ。暗くならないでよ」

だんだんイライラしてきたので、叩きつけるように言ってみる。 

そうやって強く言ったのに、「はい」とオニキスは嬉しそうに笑った。


人間って良く分からないなぁ。

人間? ああ!

そうだ。あたし、人間に聞きだいことがあるんだよ。


「かきごおり」


うん。メルト様が人間が知ってると仰っていたから。

知ってる? とオニキスに聞く前に、彼はきょとんと目を瞬かせた。

 

「食べたいんですか?」


「知ってるの!?」


がば!!とオニキスの肩を掴む。

「そ、そりゃ、知ってます、けど…」

なんだ妙に途切れるな、と思ったらあたしが思いっきり揺さぶっていたので慌てて手を離した。


「教えて! 作り方!!」

「えっ! あっ! はい!」





○○○○○○○○○○○





「それでは、ここでは汚れるので厨房に行きましょうか」


と、オニキスが席を立ったのであたしも立ち上がる。

その動作で魔王様から頂いた深紅のマントが揺れて太ももが覗くのを見て、オニキスが固まった。


「それ…」

「これ?」

あたしの服装を指さして、

「上から何か着たら、体調悪くなったりしますか?」

「いや別に」

「では、何か着るもの取ってきますので待ってて下さい。それは…目の毒です」

と言い残し、そそくさと自分だけ出て行ってしまった。

「毒なんて持ってないのに…」

オニキスには、あたしが毒カエルや毒カタツムリみたいに、触れると毒に汚染する魔物に見えるのだろうか。ひどい。





○○○○○○○○○○○





それからしばらく待ってみたけど、オニキスはなかなか帰ってこなかった。

その間、部屋の中に積み上がっていた本を勝手に見ていたのだけれど、これが凄いのだ。


ユーディットが良く使うような高度な魔法や、魔王城に組み込んでいるような複雑な魔法陣が載っている古そうな手記。

見たことが無いような美味しそうな料理やお菓子が絵付で載っているレシピ。

半分以上も知らないものが書かれていた、薬草・毒草が網羅されてる分厚い植物図鑑。


思わず持って帰りたくなるほどだ。

特にレシピ。


と言うわけで手が伸びるけれど、あたしは泥棒ではない。そんなことをしてはいけないことくらい知ってる。

でも負けそうになる。


仕方ないので、オニキスを追って部屋を出ることにした。



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