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側近Bと凍菓子3

あたしは焦った。

たった今魔王様に似てると気付いた少年が、泣いているのだ。

しかも、泣かしたのはあたし! なんてこと!!


あたしは慌ててオニキスの肩を掴んだ。

「な、泣かないで!」

それなのに彼はさらに泣き出す。

「すいません…。本当に情けないです。俺…」

「そんなことないから! ねえ!」

「いいえ。こんな俺なんて、いない方が…」

なんてぐずぐず鼻を鳴らす。

泣いた人間を慰めたことなんてないから、どうしたら良いか全く分からない。

というか、魔王様に似てなかったらこんなのポイなのに、どうにも罪悪感が胸を覆う。どうしよう辛い。


もう私の頭もいっぱいいっぱいになって、とりあえず物理的に黙らせることに決めた。

「お願いです。俺をころぶふっ…」

といっても殴り倒すとかは出来ないので、この無駄に量だけはある胸を押し付けて黙らせた。

涙が冷たいけど我慢しよう。

「!? !??」

オニキスはよほどびっくりしたのか、目を見開いて眼球だけでこちらを見上げる。

手をバタバタさせて、モガモガ何か言っている。

意外に力が強く、あたしを引きはがそうとするので、逆に頭を両腕で抱き込んで防ぐ。

「泣き止むまで離さないから」

「!?」

屈辱なのか怒りなのか顔は真っ赤で、涙が光る大きな目は絶望に睫毛を揺らしたけど、それだけだ。

にやりとあたしが笑うと、観念して身動きをやめた。


しばらくそのままでいると、オニキスが手を伸ばしてあたしの肩を掴み、顔を上げた。

少し赤いが、その目は湿ってはいない。表情も暗くてうじうじした感じが吹き飛んだみたいで、あたしは安心した。

ほっと息をついて、しがみついていた腕を放す。

「殺すことは出来ないけど、取りあえず理由を聞かせてよ。駄目ってどういうことなの」

「……はい。ご迷惑お掛けしてすいません」

そういって、オニキスは弱弱しく笑った。




○○○○○○○○○○○




「俺の家族は、とても優秀なんです」


「まず一番上のリドー兄さんは、並ぶ者が無いほどの剛力を持っています。

信じられますか?兄の手に掛かれば、見上げる大岩も拳を振り下ろすだけで粉々になるんですよ。その上、真眼を持っていて、聖者の資格を持っています」


「そして一番目の姉のエメロード姉さんは、誰もが見惚れる美貌の持ち主です。いつでも自信に満ちていてとても魅力的で、自分の思っていることをしっかりと伝える強さがあります。とても強い聖の力を持っていて、教会では最高位の聖女をしているんですよ」


「二番目の姉、アルビア姉さんは、とてもしっかりしていて頭が良いです。

周囲から頼りにされていて、いつも誰かに相談されています。家を仕切っているのもアルビア姉さんです。

母は武力の達人で武者修行に出たまま長く帰ってきていませんので、アルビア姉さんはいつも母親のように俺たちを見守っていてくれるんです。とても優しくて暖かい人です」


「三番目の姉は、俺と双子です。サフィアと言います。

双子なのに、俺とは比べ物にならないほど凄いんです。百年に一度と言われるほどの魔力の持ち主で、転移魔法だって使うことが出来るんですよ! そのせいで小さい時から何かと苦労をしていて大変な思いをしたのに…最近は克服して、姉たちと一緒に頑張っているんです。本当に凄いと思います」


「そして末の妹オパールは、目の中に入れても痛くないほど可愛らしいのです。

エメロード姉さんの華やかな美貌とは違って、花のような可愛らしさは、今から婚約者候補になりたいと希望する若者が殺到するほどです。まだ5歳なのに、身の回りの事は自分で出来てしまうし、物おじせずに誰とでも話します。そして必ず好かれるんです。

俺が5歳の時なんて…何にも出来ない子どもだったでしょうね」


「そんな家族の中で、俺だけが駄目なんです…。

兄のように力強くもありませんし、姉たちのように美しさも素晴らしい頭も抜きんでた魔力も持っていません。もちろん、聖者の資格もありませんし、人から頼りにされる人格者でもありません。こんなふうに毎日閉じこもって、自分の不甲斐なさを嘆くしか出来ないんです」


「俺は駄目な人間です。俺がいるせいで完璧な家族に泥を塗っているようで…俺なんて、いない方が良いんです」




○○○○○○○○○○○




そんな話を、オニキスは語った。


ちなみにその間に、床の一部にしいてあったカーペットの上に座らせてもらい、柔らかいクッションをもらい、とても美味しいお茶とお茶菓子を出してくれて、あたしが話で分からない部分があると、いったん止めて分かりやすく説明してくれた。

お茶を飲み終わりそうになると気づかない間に入れてくれるミラクルが起きている。


あたしは首を傾げた。

「駄目、って何? あたしには良く分からない」


えっ、とオニキスが言う。

「だって、家族はオニキスのこと、駄目だっていうの? 迷惑って?」

オニキスは目線をそらす。

「いいえ。家族はいつも、優しいです。でも…」

と言ったきり言葉を止めてしまう。

あたしには何となく、でも、の続きが分かる。

いつだって無責任で酷いことを言うのは、全然関係ないどうでも良い奴らだ。


「オニキスは、周りの人間の言うことを優先するの?

あたしは、あたしを大切にしてくれる主人や同僚や友人を優先するよ。

その他はどうでも良いの。あたしの邪魔をする奴は蹴散らすだけ」

「でも、それでは、家族に迷惑が掛かります」

「そうかもしれない。あたしも、悪口言うやつぼこぼこにして、よく同僚に怒られてる。

でもね、もう二度とやるな、とは言われないんだよ。場所を選べとか言われるけど。

オニキス、我慢しなくて良いよ。オニキスは十分素敵だ。

少なくとも、オニキスの髪と目の色が黒いってだけで、あたしにとっては人間族の中で一番大切」


そう言うと、オニキスはきょとん、と意表を突かれた顔をした後、じわじわと赤くなって、照れたようにはにかんで笑った。

「ありがとうございます」




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