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側近Bと反省会

連続更新はそろそろ息切れしてきました…。

お気に入り登録ありがとうございます。

あたしは魔王様の側近B。

主な仕事は、魔王様の日常生活のサポート。魔王様が快適に過ごされるために大切な仕事であると自負している。



と言うわけで、今日は魔王様に三時のおやつを差し入れするために朱惚(しゅこつ)の廊下を歩いていた。

ここは石柱の廊下とはまた違う、魔王様のお部屋に直結する廊下だ。

毛足の長いクリムゾンディアの毛皮を隅から隅まで敷き詰めた廊下は、去年訪れた勇者一行を

「端切れで良いから持ち帰りたい。勿体無くて踏みたくない」

と泣かせるほどの高級品なのだ。


もっともそれも、魔王様に言わせれば「先代の道楽だから全部持って帰ってもかまわん」程度のものなのだけど!

魔王様は本当に器が大きくていらっしゃる。浮世の価値観なんぞに左右されない、どっしりと構えた素晴らしい方なのだ。

そんな魔王様にお仕えできることが幸せで、幸福感に酔いしれながら歩いていると、ひょい、と両手に持っていたお盆から今日のお三時である七色ドーナツが奪われてしまった。


「誰!?」


と、びっくりして振り返るが、こんな時は間違いなく犯人は決まっている。

そもそも、朱惚の廊下に来れる魔人は限られた極一部なのだ。


「油断しすぎだよ、メイ」


勿論、それはユーディットだ。

お盆に乗った七色の七つあるドーナツをひとつ手に摘んで珍しげに眺めまわす。

「それは魔王様のおやつ!! 手を離して!」

「まあまあ。メイがきちんと質問に答えてくれたら七つ揃って返してあげるよ」

「分かったから…!」

「そう? じゃあ、この間の勇者一行が城内に侵入した件についてなんだけどね」


びく。

あたしは肩が引きつるのを感じた。

勇者の件からはもう数日過ぎている。その間特に何もなかったものだから、全てあやふやに流れてしまったと思っていたのに。


「調査に時間が掛かってねー。ま、メイからの報告待ちでもあったんだけど、全然報告ないしね。メイが事の重大さを全く分かってないようだったから、こうして説明に来たんだよ」

ここなら魔王に害意有るものが来たら一発で分かるし、事前に排除できるから問題無いでしょ?

と小首を傾げて笑うユーディット。

ユーディットが勿体つけて話す時ほど、碌な事にならないんだ。

しかも、怒ってる時ほど、優しげに微笑むからタチが悪い。

この言い方で、この笑顔。絶対、すごく、怒っている…!


「まあ、説明って言うかね、反省会だよ。ほら、立ってていいの?」

「はい、すいません!!」


シュパっと床に正座する。

前に吸血一族の宝を壊した事があって、その時にさせられた足が痛い座り方が正座だ。それ以来、ユーディットはあたしを叱る時はこの座り方を強要する。痛い。


「反省する点はいっぱいあるよね? はい、自分で一つずつ言ってみようか」


やっぱり最上級に怒っている…!

これは、あたしが誰にも言わずに森に散歩に行って、自分のダンジョン作って来ちゃった時レベルの怒りだ。あの時は部屋を鳥かごに変えられそうになって、魔王様が説得して下さったから何とかなったのだけど…。


「早く言わないと一個ずつ食べていっちゃうよ」

にっこりと笑って緑のドーナツを手に取るユーディット。


あ、あ、それは!!


樹齢一万年の深海樹にしか生えない深苔を入れた緑ドーナツ!!

消化に良いし、甘くないしょっぱい系のお菓子だから、他のドーナツの合間に食べるのにかかせない大事なやつ!!

深苔はドワーフのお土産に貰ったやつだから数が少ないし、水に浸けて塩抜きするのに1ヶ月もかかるから

「食べちゃ駄目…!!」


あたしがだらだら汗を流して叫ぶと、ユーディットはとても楽しそうに微笑んだ。

「じゃあ早く言ってよ。このドーナツにちなんで、反省を7つ。言えなければ食べちゃうよ?

はい、ごー、よん、さん、にー」



「ちょ、ま」


あたしは急いで今回の事を思いつくまま喋っていった。

「サロメルの学塔に行かなかった点」

「負傷者の回収をしなかった点」

「勝手に戦った点」

「それなのに惨敗した点」

「吸血一族の次男を戦闘に巻き込んだ点」


ふんふん、と頷いてユーディットはドーナツを皿の左から右に移動させていく。

よし、緑と紫と赤と黄色と橙色は守られた!

「まあ吸血鬼は…」と小さく呟いたが、城の戦闘員じゃないものが戦ったのはルール違反だ。


「勇者を確保しなかった点」

んー、とユーディットは首を傾げて

「別に勇者なんて捕まえてもいらないよ。帰せる時に帰しちゃうのはナイス判断。さすがスフィロク・タランテペアだよね」

と良いながらも青が移動される。


ところが、あと1つなのに思い付かなくて頭を絞る。

「うー、あー…」

他に何かあっただろうか?

魔王様にご迷惑を…おかけしたのは、あたしの仕事を全うしなかった点だし…。


「ヒント。勇者に?」

「魅了をかけた」

思いつくまま口にだしても、

「おしいなぁ」

ユーディットは楽しそうだ。


「石にした?」

「それはメイじゃないでしょー」


駄目だ。考えても考えても出てこない。


ユーディットはにこにこ笑いながら、とんとん、と自分の唇を叩いてみせた。

くちびる? 

「勇者にキスをされそうになった…こと?」

いやしかし、キスをすれば魅了は解除されるんだし…? 

半信半疑に言ってみたが、

「正解☆」

合っていたらしい。


キスをしそうになったことが、反省点?

ああ、抑え込まれて情けなかったってことかな?


首を傾げながらも頷くあたし。


「メイ、分かってないよね?

淫魔にとって最初の口づけは重要な意味があるものなんだよ?

簡単に許すと痛い目みるんだから気をつけてね」


「ええ!? でも、魅了を解くには切り裂くかキスだってユーディットが言ったのに!?」


「ごめん。あれ嘘。

キスなんて絶対しないだろうから言ってみたんだ。困る姿が見れるかなーと思って。

ほんとはキスしても魅了解除にならないんだよ。無駄骨にならなくて良かったね?」


ふんわり、小首を傾げるユーディット。

さらりと薄い金の髪が光に溶けるように揺れる。


「まあ正しい反省としては、男に近づかない。油断しない。だね。気が抜けてるからあんなことになるんだよ。気をつけてね?」



あたしはポカンとした。

―――嘘? 騙された?


「はあああ!?」


なにそれ!あたしがあのチャームアイ騒動の時、どれだけ大変だったと思ってるの!!

キス効かないならそもそも騙さないでよ! 気持ち悪いの我慢してうっかりキスしたらどうなってたの!?


愕然としてかぱりと口を開けていると、ユーディットはさも不思議そうな表情をした。

一見人畜無害そうに見えて本当に詐欺だと思う!

「文句あるの? ああ、もしかして…誰かにする予定が?」

と言いながら、最後の1つ、七色の中でも一番苦労した桃色を食べようとする。


ちょ、ちょちょ!!


桃は!!

少し前の季節にしか咲かない琥珀苺をなんとか見つけて取り寄せて作ったやつで、魔王様が一番お好きな味のドーナツ!! 今年最後の琥珀苺だからもう作れないんだから本当に止めて!!


「しない! しないから!!」

必死で宥めると、ユーディットは頷いた。

「そう? それなら良いんだ」

皿に戻されてほっとする。


ああ、理不尽だ!

ユーディットにとってあたしって一体何なんだろうと時々思う。普段は全く気にしてないんだけど、こう悪質に騙されたり遊ばれたりすると、喋るおもちゃか何かと勘違いされてるんじゃないだろうか? と思えてしょうがない。


「まあそんな訳で、1個もらうね」

ぱくっ。


と、食べ、た。

「あ、何で!?」


「ひとつ抜けてたでしょ。勇者は確保しなくて問題なし。

それで、最後の1つはすぐにこっちに報告をしなかった点。

まあまあ。そんな食屍鬼が生魚口に突っ込まれたみたいな顔しなくても、青ドーナツは地下の水晶硬花(すいしょうこうか)を練り込んでるだけなんだから、すぐに作れるでしょ? ケチケチしないで一個くらいちょうだいよ」


なんて言いながら、もぐもぐと青色ドーナツを食べていく。

あまりの暴挙にあたしはわなわなと両手を握りしめて震わせた。

けれど、

「心配したんだよ?」

と眉を下げて言われると、色々やらかした身のこちらとしては何も言えなくなってしまう。

もちろん魔王陛下もね、と付け足されると自然と拳は解かれていた。


理不尽だ。いつもいつもやり込められてくやしい!

あたしはユーディットから6つに減ってしまった七色ドーナッツを取り返し、涙を散らしながら走り去った。

とにかく急いで作り直さなくちゃいけない!!


「おやつは時間が重要なのよ、ばかー!!」



あたしは魔王様の側近B。

同僚のイジメが酷い場合はどうしたらいいんですか!?

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