側近Bと側近A
あたしは魔王様の側近Bだ。その2でも女の方、でも良い。
でも魔王様の女といわれるととりあえず半殺すことにしている。そんなの魔王様に失礼だろうが。
今日もそんな阿呆を一匹、ずるずる引きずって長い長い石柱の廊下を歩いていた。なめらかで光沢のある廊下はあまり音を立てない。
「メイ、お疲れ」
「ユーディット」
振り返ると、や、と片手をあげて挨拶する男がひとり。
側近A、側近その1、男の方、と呼ばれても良いはずなのに絶対に『ユーディット様』としか呼ばれない、側近仲間の男だった。
恐れられてるのだ。反対にあたしは舐められてるから名前は滅多に呼ばれない。
にこやかなユーディットに何となくイラッとして顔をしかめた。
「なんでここにいるの。魔王様のお側に控えてないで何かあったらどうするの」
側近は2人しか居ないのだ。なのに側近Bは雑魚締め、側近Aは散歩では何かあった時対処ができない。
不満をぶつけるとユーディットはくすくすと笑った。
「あの方はお強いから何かあっても大丈夫だよ」
当たり前だ。魔王様は魔物を統べる世界最強のお方であることに一辺の疑いの余地もない。
とはいえもし万が一勇者が紛れ込んでいて、魔王様お一人で倒してしまっては側近がいる意味がないじゃないか。
それに、だ。
「何を言う。魔王様の喉が乾いてしまったら誰が水を用意するの。眠ってしまわれたら誰が毛布をおかけする。体調を崩されたら大変なことでしょう!」
最近は勇者の活動も活発化してきているので、中等位のダンジョンが良く壊滅される。そのせいで魔物の入れ替えやダンジョンの修復の指示などで、魔王様はご多忙なのだ。
ご負担を少しでも軽くして差し上げるのが側近としての務めだろうに!
だが、ユーディットは苦笑する。いらっとした。何か言いそうに唇がもごもごしたのに、何も言わずに弧を描くのだ。ほろ苦い笑みを浮かべても品が良いのは崩れない。そんなことにもいらっとする。
「メイ、魔王様がお呼びだよ」
「なんでそれを早く言わないのよ!」
さけんだ。ゴツンと音がした。下を見るとさっきまで引きずっていた阿呆が、石柱の床に半分埋まって死にかけていた。
まあいいかと思った。
「すぐに参ります魔王様!」
はたはたとマントを翻して駆け出すと、ユーディットが後ろでくつくつ笑っているのが分かった。
でももう気にしない。
「ユーディット、ソレを医務院に運んで、床直しておいてね!」
置きみやげに仕事を押しつける。
あたしは魔王様の側近B。その2でも女の方でも好きに呼んで構わない。
でも左腕って呼んでくれたら、結構嬉しい。