第8話:魔王との遭遇
険しい山道を越え、森を抜けた先に、ついに魔王城が姿を現した。
黒い石造りの城壁は異様な存在感を放ち、空はどんよりと暗く、冷たい風が吹き荒れていた。
「ここが…魔王城か…」正一は思わず息を呑む。
アルトは剣を握りしめ、気合を入れる。
「正一さん、行きましょう!僕たちで魔王を倒すんです!」
「まあ…やるしかないな」正一も覚悟を決め、仲間たちと共に城門へ歩を進めた。
その時、城門がゆっくりと開き、漆黒の甲冑に身を包んだ魔王が現れた。
「フフフ…ついに来たか。面白い奴らだ」
魔王は冷たい笑みを浮かべ、巨大な剣を肩に担いで立つ。
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朝日が森を照らす。
最底辺パーティは、今日も依頼に向かって歩いていた。
「……今日も全員生きて帰れるか?」
女剣士が笑う。
「生きるための判断なら、心配いらないわ」
盾役も魔術師も、頷く。
そして、俺も静かに息を吐いた。
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今回の依頼は、これまでで最も危険だった。
中規模の魔物討伐。
複雑な地形と、狡猾な敵。
上位パーティでも数人の犠牲は避けられないと予想される。
「……でも、俺たちは違う」
俺の心の中で、静かに決意が生まれる。
勝つためではない。
称えられるためでもない。
生きて帰るために動く。
―――――
森の奥、魔物たちは待ち構えていた。
数は多く、威圧感がある。
女剣士が前に出る。
盾役が防御。
魔術師が魔法で援護。
俺は、全体を見渡す。
危険を察知し、退路を確保する。
倒れた仲間を助け、道を作る。
戦わず、前に出ず、ただ生き延びるために動く。
「撤退!」
合図一つで、パーティは動く。
敵に追われず、混乱せず、無事に出口へ。
―――――
森を抜け、依頼を終えた時、四人は息を切らしながらも笑っていた。
「……やっぱり、あんたはすごいな」
女剣士が言う。
「何がですか?」
俺は照れくさく答える。
「全員を生かす判断を、迷わずできること」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……まだ名前には及ばないけど」
そう言って、剣を鞘に戻す。
―――――
ギルドに戻ると、報告書はこう記されていた。
「討伐成功。死亡者ゼロ。被害最小」
かつては皮肉でしかなかった二つ名が、
少しずつ現実の評価に追いつき始めている。
受付嬢が微笑む。
「本当に、生存率だけは英雄級ね」
俺は静かに頷いた。
自分自身に、少しだけ自信が湧く。
―――――
夜、焚き火を囲むパーティ。
「結局、俺たちは何者なんだろうな」
盾役が呟く。
女剣士が答える。
「すごい最底辺冒険者」
皆が笑う。
「派手じゃない。勝たない。
でも、生きて帰る」
その言葉が、この冒険者たちの強さを表していた。
勝てなくても、英雄級の価値はある。
最弱でも、生き残るだけで、十分すごい。
俺たちは今日も、
笑いながら森を後にする。
“生存率だけは英雄級”
最底辺だけど、世界にとっては、確かに英雄だった。
ーー戦闘開始。
アルトは勇者らしく剣を振るが、魔王の圧倒的な力の前に押される。
「うわっ…強すぎる!」
正一は、いつものように体が自然に動く。
・ 落ちていた岩を盾代わりに使う
・ 森の枝を武器に変え、魔王の攻撃をかわす
・ 偶然のタイミングで魔王の足元を崩す
「ちょ…俺、また勝っちゃうのか?」
正一は自分でも信じられない動きで、魔王を圧倒する。
魔王は怒りの咆哮を上げる。
「なんだと…!おっさんが、俺を!?まさか…!」
アルトは後ろで驚愕しながらも、正一の無双ぶりに圧倒される。
「お、おっさん…最強すぎます…」
戦いの末、魔王は地面に膝をつき、絶句した。
「…これは…面白い…いや、参った…」
正一は汗だくで立ち尽くす。
「偶然と経験の結果だ…俺は勇者じゃない」
それでも、異世界の人々にとって、彼の姿はまさに“伝説の勇者”だった。
その夜、仲間たちと焚き火を囲み、アルトがぽつりと言った。
「正一さん…やっぱり、あなたがいないとダメですね」
正一は微笑み、空を見上げる。
「そうか…俺の人生経験も、役に立つのか…」
こうして、魔王との初遭遇は終わり、正一の無自覚無双は異世界に深く刻まれた――
だが、魔王はまだ諦めていない。
「フフフ…次はもっと面白くしてやろう…」




