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第7話「魔法少女殲滅戦線」

 本作はフィクションです。

 登場する人物・制度・社会状況はすべて架空であり、現実とは無関係です。

 これは誰かを傷つけるための物語ではなく、“理不尽な世界”を問い直すための物語です。

 ──“年収制限審査法案”、本日ついに可決。


 緊急特番のアナウンサーが、抑えきれない興奮を滲ませながら宣言する。テレビ画面の右上では、真紅の速報テロップが躍り続けていた。


「この法案により、年収一千万円を超えるすべての国民は、社会的責任と倫理性を精査される義務が生じます」


 かつて魔法少女ノゾミを“テロリスト”と糾弾していたニュース番組は、今や彼女の“正義”を当然のように引用している。

 視聴者コメント欄は「最初からこうすべきだった」「高所得者は反省すべき」といった書き込みで埋め尽くされていた。


 ──羽田空港、関係者専用ゲート前。


「海外逃亡は認められていません! やましいことがあるから逃げるのでは!?」


 記者がマイクを突きつける。黒スーツの男、年収3.2億円。無言でフードをかぶり、黒塗りの車に乗り込む姿が、各局で繰り返し放送された。


 ──数日後、都内ホテルの白い会見場。


「全財産を福祉団体に寄付します。……年収九百万円もあれば、十分幸せに暮らせますから……」


 かつて傲慢に振る舞っていた著名投資家・綾小路あやのこうじ 宗一郎そういちろうが、憔悴しきった顔で深々と頭を下げる。

 カメラのフラッシュが無慈悲に彼を照らし続けた。


 ──そしてついに、初の国家逮捕者が出る。


 “年収制限審査法案”違反による強制逮捕。

 現場は港区・麻布十番の高級住宅街。


「来た! 今、逮捕された白鳥大悟しらとり だいご氏が出てきました!」


 報道ヘリが上空からその瞬間を捉える。

 白いスーツに身を包んだ男が、プラスチック拘束具で両腕を縛られ、黒服の特殊局員に囲まれながら玄関を出てくる。


 サングラス越しの顔は無表情。だがその口元はわずかに震えていた。


 国税庁と、新設された【審査監査局】による合同調査の結果──

 申告された所得と、実際の資産保有に 三億円 以上の乖離が判明した。

 “所得の独占”および“虚偽報告”の罪により、逮捕状は即日発行される。


「資産を隠し持っていただけで……何が悪いんだよ!」


「──あのね。あなたが独占してたら、低所得層が“死ぬ”の。解る?」


 白鳥は最後に怒鳴り声を上げたが、警官に頭を押さえつけられ、装甲車へと押し込まれた。

 その一部始終は全国放送され、SNSでは 「#税逃れ富裕層の末路」 がトレンド入り。

 ネット世論は、まるで祝祭のような歓声に包まれた。


 ──某企業のCEO、樫村誠司かしむら せいじ


「資本は……資本は社会のものです……ッ!」


 声を震わせ、涙を流しながらの辞任会見。

 彼の顔は“真の社会人”の象徴としてスタンプ化され、SNSで爆発的に拡散された。


 日本中が、“納得”と“安心”という名の沈黙に染まっていた。


 ──摩天楼の屋上。


 ノゾミとカレンが肩を並べ、眼下に広がる夜景を見下ろしていた。

 無数の車が蟻のように行き交い、光の粒が川のように流れていく。


「最初からこうすればよかったですわね」


 カレンが呟くように言う。黒銀の髪が夜風に靡く。


「……いや。今がベストだった」


 ノゾミは視線を落とし、わずかに笑った。


「魔法少女の知名度は今がピーク。

 チープルの回収した高所得者の悪銭の“ばらまき”が庶民に希望を与えた。

 カレンという“仲間”も得た。私ひとりじゃここまで流れは作れなかったよ」


「まぁ……なんて嬉しいお言葉」

 カレンがくすりと笑う。


「わたくしの名前を、きちんと呼んでくださるなんて」


「勘違いすんな。お前が使える駒だから呼んでるだけだ」


 ノゾミがわざとらしく鼻を鳴らす。


「……にしても、その顔はやめろ。ゾワッとすんだよ、マジで」


「まぁ、ひどいですわ。素直に照れてくださってもいいのに」


 冗談とも本音ともつかない会話が、夜のビル風に溶けていった。


 ──翌日。


 都心部の交差点で、奇妙なデモが発生していた。


「“年収制限審査法案”に反対するぞーッ!」


 スピーカーから喚き散らす声。しかし、その声に呼応している群衆の顔ぶれ──

 スウェット姿にペラペラのウインドブレーカー。見るからに生活に余裕がなさそうな中年男女ばかり。


 ノゾミが、ビルの屋上から人波を見下ろしていた。


「……なんで“あいつら”が反対してんだ?」


 目を細めながら呟いたノゾミの隣で、チープルがぽんと肩を叩く。


「チープルの分析によると……」

「ほとんど、年収300万以下チー。お金もらって動員されてるチー!」


 ノゾミの顔がぐっと曇る。


「……なるほどな。“盾”に使ってきやがったか」


 優雅に浮遊していたカレンが、眼鏡を押し上げながら言う。


「“雇われた低所得者”ですわ。高所得者たちが、自ら表に立つ度胸もなく──

 お金で下層を買い叩いた。それだけのことですわ」


「……性根の腐った金持ちは、やることが分かりやすいな」


 ノゾミはステルス・インカムスコープを起動。

 視界に青く浮かぶ数値が、低年収層で埋まる中──

 スピーカーを握る男の頭上に、異質な数字が現れる。


 ──【年収:1億4200万円】


 ノゾミの口元が歪む。


「いたな、“焚きつけ役”。こっちは、正確に刺せる」


 彼女の手に現れたのは、紅に染まるマネーバランサー・スピア。

 その穂先が、拡声器の男へと真っすぐ向けられる。


「“努力を否定するなァーッ!”」


 男の叫びと同時、空を切る音が響く。


 ズブッ──ッ!


 腹部を突き破られた男が、スピーカーごと地面に崩れ落ちる。

 赤黒い血がアスファルトに広がり、群衆の歓声が一気に悲鳴へ変わった。


「年収一億越えの“努力”ってのはなァ……」


 ノゾミは低く言い放つ。


「誰かを搾取してねじ曲げたもんを、“正当な努力”って言わねぇんだよ」


 ざわめきが広がる中、数名のデモ参加者が逃げ出そうとする──


「ま、魔法少女だ……!」

「違うんだ! お、おお、オレたちは雇われただけで……」

「俺たちは反対してない! ただ、日当が……」


「待て」


 ノゾミが跳躍し、逃走経路を塞ぐ。

 彼女の背後に魔法陣が開き、風が渦を巻く。


「お前らがどれだけ苦しかろうが、どれだけ生活がしんどかろうが……

 こうして“嘘”の旗を振るなら──その選択の代償を見てもらうしかねぇな」


 ノゾミの声と同時、彼女の背後に巨大な魔法陣が開く。

 赤と黒に染まる空間から、異様な風が吹き抜け──


 バサァアアアアッ!!


 マジカル現金ポケットが開かれる。

 そして次の瞬間──札束の嵐が、空から地面へと容赦なく降り注いだ。


「か、金……!? 本物かよ……!?」

「え、なんで……?」

「こんな量……人生で見たことねぇ……!」


 誰かが地面に膝をついて震えながら手を伸ばす。

 他の者たちも、戸惑いながらも必死に札を拾い始めた。


 ノゾミの声が、そのざわめきの中を真っ直ぐに貫く。


「この金は──お前らが“奪われてきた”金だ」


 群衆が、金を手にしたまま顔を上げる。

 目の奥に、欲と、怒りと、気付きが滲んでいた。


「本当の敵は、私たちじゃない」

「お前らの首に鎖を巻いてる“上”の連中だ」


 チープルが横で跳ねながら、語尾を響かせた。


「そうチーそうチー! チープルたちは味方チー!」


「惑わされないでくださいまし」

 カレンも静かに前へ出る。


「わたくしたちは、富の正当な再配分を実行しているだけ。

 むしろこの国で唯一、“あなた方の味方”と断言できますわ」


 地面に散らばったプラカード。

 札束を握りしめた男が、涙を流す。女が、子どもを抱いてしゃがみ込む。


「……そうか、俺たち……ずっと……」


「知らないうちに、飼われてたんだな……」


 そのときだった。


 ──キィィィィン……ッ!


 甲高いサイレンが突如として都心を包み込む。空は黒く染まり、雲の隙間から数百機の軍用ドローンが姿を現した。

 機体に搭載された魔力感知センサーが赤く点滅し、ノゾミとカレンを中心に包囲網を形成する。


「市民の皆さまにお知らせします──直ちに地下施設またはシェルターへ避難してください」


 無機質な女声のアナウンスが、全方向スピーカーから繰り返される。だがその指示に従う前に、閃光が走った。


 ──ドォォンッ!!


 爆音と共に、ビルの屋上が粉砕される。ノゾミは即座に跳躍し、かわしながら笑みを浮かべる。


「……あぶねぇ。殺す気まんまんだな」


「ノゾミは最強だから、あの程度の攻撃が当たっても死なないチー」


「へぇ……じゃあ、ちょっと“遊んで”やるか」


 空中を埋め尽くすドローン。機動部隊が地中から出現し、銃火器と魔力妨害装置を展開する。

 装甲車が突進し、空ではヘリが追跡ミサイルを連射──まさに、国家総動員体制。


 ノゾミはスピアでミサイルを斬り払い、カレンは銀の魔法陣から“判決”の雷撃を放つ。敵は次々と爆散していく。


 ──だが。


 その最中、ひとつのミサイルが標的を外れ──


「やめ──ッ!」

 ノゾミが手を伸ばすより早く、ミサイルは地上へと突き刺さる。


 ──ドゴォァァンッ!!!


 爆風が、群衆の中央を薙ぎ払った。吹き飛ばされる低所得者たち。炎に包まれ、悲鳴が上がる。


「な、なにが起きて──」

「誰か助けてくれッ……!」

「子どもが……っ、子どもが……!」


 ノゾミの目が見開かれる。視線の先、焦げたプラカードの傍で、小さな子どもが泣いていた。

 その身体をかばうように、チープルが地面を転がる。


「ケホッ……これは“無差別掃討モード”チー! 魔力を感知したら、敵味方かまわず殲滅するアルゴリズムチー!」


「おい……まだ避難してない市民がいるのに、撃ってきやがるのかよ」


 ノゾミの声は低く、静かだった。だが、その静けさは嵐の前触れ。


 カレンが目を伏せて言う。


「……地上に残っているのは、逃げ遅れた低所得者ばかりですわ。

 高所得者は、政府の優遇でシェルターに退避済み。

 ……だから、“構わず撃てる”のでしょうね」


 ノゾミはスピーカーを拾い上げ、壊れた部品を蹴り飛ばす。そして、魔力で声量を増幅し、咆哮した。


「ふざけんな!! ここは戦場じゃねぇ! 生きてる人間が、まだ山ほどいるんだぞ!!」


 キイイィィィインッ!!


 地面が震える。一瞬だけ、攻撃が止む。


 ノゾミはチープルを片腕で抱え、人々の前へ降り立つ。


「こっちだ! ついてこい! 安全な場所に誘導する!」


 彼女が先導し、群衆が走る。カレンも黙ってその後に続いた。


「っつっても、どこに行っても、日本じゃ人がいるだろ」


 と、ノゾミが言ったそのとき──


「だったら、いい場所があるチー!」


 チープルが腕を上げた。


 ──そして、数分後。


 到着したのは、港区の高級住宅街。緻密に整備された街並みと、無人の豪邸群が静まり返っていた。


「ふうん……なるほど。ここなら、一石二鳥だな」


 再び迫るドローンの影。ノゾミは魔法陣を背負い、赤く光る瞳で天を睨んだ。


「なら──迎え撃つか」


 空中の武装ヘリへ向かい、ノゾミが槍を放つ。


 ──ズギャアアアンッ!!


 マネーバランサー・スピアが回転しながら突き刺さり、爆風が邸宅ごと焼き払う。


「ふふ……“高所得者の城”が崩れ落ちていく音、なんと心地よいですわ」


 カレンがギロチンの魔法陣を展開し、空から銀の枷を落とす。


「逃げ遅れた高所得者は──始末しておきますわね」


 男の身体に枷が食い込み、空中で宙吊りになる。その頭上に、年収が表示される。


 ──【年収:2億3800万円】


「有罪ですわ」


 ──ズシャアッ!!


 幻影の刃が振り下ろされ、映像は即座に全国ネットで放映された。


 その頃、永田町・官邸地下シェルター。


「内閣官房長官! このままではまずいです!」


「……核兵器の使用を検討すべきでは?」

「日本は保有していませんが……アメリカに要請すれば、“共有”は可能かもしれません」


「だめです。爆心地が東京なら、日本が住めなくなります。残存政府機能も消滅します」


「だとしても……彼女たちをこのまま放置すれば──」


 議論は紛糾するが、結論は一つ。


 ──核兵器の使用、断念。


 そして──数時間後。


 すべてのドローンは撃墜され、機動部隊は壊滅。

 破壊された東京の上空に、二人の魔法少女がゆらりと浮かんでいた。


 ノゾミのドレスが風に揺れ、彼女はゆっくりと呟いた。


「……つまり、今の日本には、私たちを止める手段がないってことだな」


 カレンもまた、静かに答える。


「この国……案外、もろいのかもしれませんわね」


 ──永田町・官邸地下シェルター。


 張り詰めた空気の中、誰もがモニター越しの映像を凝視していた。

 炎に包まれた東京。宙に浮かぶ二人の魔法少女。壊滅した部隊と無力な国家。


「……これまでか」


 誰かが呟いた、そのとき──


 ──ゴォォ……ンッ!


 空間が歪み、モニターの裏側、シェルターの中に異様な光が差し込んだ。


「な、なんだ……!?」


 回転する金の魔法陣。重厚な装飾と高密度魔力で編まれた転移ポータル。

 それは、低所得者たちの使うそれとは異なる、美しく高級感あふれる輝きを放っていた。


 ──《セレブリティ・ゲート》


 そこから、ふわりと浮かび上がるように現れたのは──

 キラキラと金色に輝く、小さなマスコットだった。

 ティアラを乗せたような頭部。まつ毛が長く、微笑みだけで「高そう」な雰囲気を纏っている。


「こんにちプラ~。お困りの皆さん、ごきげんようプラ~」


 あまりに突然の登場に、シェルター内が騒然となる。


「な、なんだこいつは……!?」

「敵か!? 魔法少女側の──」


「おちつけプラ、おちつけプラ。セレプラはお前らの味方プラ~」


 マスコットはくるくると宙を舞いながら、やけに落ち着いた声でそう告げた。


「セレプラは、“選ばれし者”の導き手プラ。あなたたち“優良所得者”の価値、ちゃんと分かってるプラよ」


 怪しい、だが──その場にいた者たちは、なぜかその言葉にほんの少しだけ救われたような顔をした。


「さあ、準備するプラ。魔法少女候補を連れてくるプラ」


 金色の瞳が静かに輝く。


「この世界を“正しく”救うために──プラ」


 その声は、夜の底に、確かに響いていた。


【第7話:終】

 今後も公開までに多少お時間をいただくことがあるかもしれません。

 もし「待ってられるか!」という方がいらっしゃいましたら、BOOTHの方もご覧ください。

 リンク↓

 https://natsuhikari3.booth.pm/items/7205748

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