それだけだ
最近は世界がおかしいらしい。
なんだか、ご飯が食べられなくなっているらしい。
俺たちには関係ないな。
自給自足しているからな。
芋や、キャベツ。
色んなものを家の庭で作っている。
しばらくはそれを食べて生活できそうだ。
でも、尽きたら?
種がなくなったら?
どうしよう。
母さんに聞いたことがある。
でも、お国が終わらない限り無くならない。
その一点張りだ。
俺は国を信じきれない。
世界がおかしいから。
この国はアメリカと戦っている。
どんな状況かは知らないけど。
ラジオが放送してくれないから知れない。
知ってもどうしようもないけどな。
母さんは日本信者だ。
理由は、今で言うところのソビエトに勝った時にこの国は終わらない。
負けない。
そう強く思ったから。
らしい。
何年前の話だよ。
もう三十年以上も昔のことだ。
現実を見てほしい。
母さんは強者必衰という言葉を知らないのか?
まあいいや。
俺が言ったところでなにも変わらないのだから。
夕方になると時間を知らせるために国家が流れる。
母さんは国家が流れると、取り憑かれたように手を合わせて目をつぶる。
俺も手を合わせるが目はつぶらない。
いつもこの時間は料理をしている。
火が周りに移ったら大変だ。
どうせ目をつぶっていても、つぶらなくても母さんには分からないのだから関係ない。
国家に尽くすより、火事の方が大変だから。
そろそろ夏が終わる。
蒸し暑いあの小屋から少しずつ解放される。
まだ銃は怖いけど、慣れてきた。
この暮らしにも、周りの状況にも。
周りは狂気だ。
先生の言うことは必ず聞いて、熱心に愛国心を語り合う。
そんなこと昔の一郎でもしないぞ。
最初に始めたのは一郎なんだが。
皆最初は一郎に驚いていたのに、今では日常だ。
慣れって怖いな。
洗脳かもしれない。
そんなことはどうでもいいか。
今をどう生きるか。
それが重要だ。
銃で打たれない方法。
周りに合わせる方法。
今まで培ってきた十五年の知識を全て使い、今を生きる。
俺に出来るのはそれだけだ。