意を汲む
オリビン家で行われる演習はテールの指揮能力を見極める為のものでもあった。最近の領内で起きている事件を気にして僕はテールの指揮する部隊にコールの編入をオリビン卿に提案し、オリビン卿から許可をもらうと僕はコールに声をかける。
「ごめん、コール、勝手に決めてしまって」
「何をおっしゃいますか、ニック様のご命令とあらばお安い御用ですよ」
「ありがとう、コール」
「だけど、連絡係なら元々テール様の部隊にいる誰かにお願いしてもいいんじゃないっスか、どうして俺なんです?」
コールは僕の従士ではあるけど、テールの従士ではないし、身分上の上下関係はあるが、指揮系統からしてもテールには本来コールへの命令権はない。お互いの部隊にそれぞれ伝令係はいるだろうが、それでも僕がコールをあえて連絡要員にした理由を話した。
「コール、領主の嫡子とはいえ、僕にはまだオリビン卿やその指揮下にある兵に対する指揮権はない、それは分かるね」
「はい」
「そして、今日この人達と会うのは初めてだし、信頼関係以前の問題だ」
コールが何かを察した表情をしたが、それでも彼は僕の言葉を待っているようだし、僕は強くコールに告げた。
「コール、君ならば僕の意思を汲んでくれる、そう思ったからこそ、伝令係とは別に神速のスキルを持つ君に連絡要員を任せようと思ったんだ」
「分かりますよ、ニック様はテール様が初めて大部隊を指揮するから心配なんですね」
「ああ、テールは僕達にとっては先生だけど、まだ未熟な部分もあるだろうし、僕達で助けられるところは助けたい」
「まあテール様には俺達も世話になっていますし、ニック様のご命令だけでなく、俺のすごさも少しはテール様に見せないとですね」
コールはこういう時にこそ力を発揮するからな。スキルだけでなく、こういう部分があるからこそ信頼して任せられるんだ。
「それじゃあニック様、テール様の部隊に行ってくるっス」
「ああ、頼んだよ」
「姉上、ニック様をお願いします、ホップンも頼んだぞ」
「ええ、あなたがいない分は私が力を尽くしますので、テール様をお願いしますね」
「キュン!」
そう言って、コールはテールの部隊への合流に向かった。コールが見えなくなったのを確認するとオリビアが声をかける。
「ニック様、テール様をお助けしたいと思うお気持ち、とても感激しました」
「オリビア」
「ニック様は下の者への気遣いも素晴らしいとお屋敷にいるときにミアさんから聞きましたが、それは間違いないですし、私達の事もご友人のように扱っていただき恐縮な面もありますが嬉しく思っています」
オリビアの率直な発言に僕は少し照れてしまいそうだった。