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とりあえず、雨宮さんと

突然だが、春にどんなイメージと思うか。


暖かい季節、彩り花が咲く季節、あるいは別れの季節。答えは全部だ。大学生なら就活も準備しているだろ。


 この通学路は一年くらい歩いていた。今日の通学路はいつもよりにぎやかである。コンビニの前に立つ学生達は冬休みを話し合っていて、歩いている人は未来への楽しみや不安を語っている。


 今日は入学式、新学期の始まり。俺が所属している文芸部は自分も含めて四人しかいない。同級生は一人だが、どっかで消えたみたい、部活には二度と来なかった。先輩二人は今日からも三年生、部長は自分の仕事を俺に押し付けた。もちろん受けてないが、学校側として、文芸部の部長はすでに僕になったということ。これは実に悲しい事実であり喜べない話だ。


 活動している部員は俺一人けど、それなり良いところある。何せ学校の中に自分専用のスペースがある。いつも一人ぼっちの俺としては最高だ。


 こう考えながら、学校に着いた。


 入学式は特に面白くない。何かあったかと言えばホームルームが終わった後、担任の(いち)()(しずか)先生に「職員室に来い」と言われ、そして今は職員室の前に立っている。今日は初日だけど、俺は変なことしていないはず。


 ドアを開けると、すぐ窓側の席にいる一ノ瀬先生が見えます。一年前入学する時からこの人はいつもスーツの姿で、黒くて、腰までの髪を持つ、クールで、穏やかな雰囲気、知らない人なら、何処からのヤクザの(あね)()に勘違いかもしれない。


「なんだその目、元気ないようだが、相変わらずだな」


先に声掛けたのは一ノ瀬先生だ。


「目が小さいだけです」


 俺に言わせればそれは偏見だ。目が小さいのは元気ないに限らない。むしろ目が大きいなら人に圧迫感が感じられる。


「まあそれはそれとして、今日は文芸部について話したい」


話聞いた後、俺は悪いことをした子供のように緊張し始めた。一ノ瀬先生は文芸部の顧問で、文芸部の状況はもちろん、俺以外の部員は幽霊部員の事もわかるはず。


「今の部活は君一人しかいないよね」


 この流れによると、絶対何処かの部活動に協力するつもりだ。俺は自分の安らぎの為に一人部活動の重要性を説明し始めた。


「活動している部員は俺一人でも、文化祭の部誌の準備とか、本を読むも一人の方が楽ですし、一人でも色々やることありますよ」


 一ノ瀬先生は「何言ってんのよ」の顔で俺に向いていた。


「あのさ、私は変な仕事を学生に押し付ける先生に見えるのか」

 さすが一ノ瀬先生、鋭い洞察力。だけど現実は残酷である。去年の記憶が蘇った。



 あれは十二月の話、部活している時、一ノ瀬先生は久しぶりに部室に顔出したけど、クリスマスイベントと新年についてのポスターを持ち込んで、俺たちはまだ迷っている途中で「それじゃ頼む」と言った後、部室のドアから飛び出した。


 一ノ瀬先生は、「すまんな、仕事が積もっていたから」と事後に謝った。



 俺が何を思い出した様子を気付いたよう、一ノ瀬先生はまた声を掛けた。


「ゴホン、本題に入ろう。文芸部は部長一人だけ活動していることは、顧問としては認められない。故に、新しい部員を探せ」

「はあ…具体的にどうするんですか」

「それは自分で考えたまえ」

「丸ごと学生に投げて顧問らしくないですよ」

「学生の自主性を尊重してるんだ」


 まあ確かに、部員募集は顧問より、部員がする方がいい。


「分かりましたよ。なんとかします」

「うん、頑張れ。期待してるぞ」


 そんな言葉はいらないんだよ。誰かに期待されたら、その期待を応えなければならないプレッシャーがある。期待通りうまくやれば特にメリットはないけど、失敗なら相手からの失望が感じられる。


 俺は何をするつもりはない。掲示板で去年のポストを貼り付けばいい。俺はあれを見て入部したから。そもそも今の若者は入学前にその学校の情報を全部調べたはず。ならば文芸部に興味ある人は自分で部室にくるだろ。


 初日だけど、クラス内の派閥が決まったようだ。朝との雰囲気が全く違う。カラオケへ行くかどうかの喋り声、男子生徒の騒ぎ声、この賑やかは続くだろ。でないと青春らしくない。


 俺は廊下に沿って部室の方向へ向かう。部室は校舎の隅にある。用事がないと誰も辿り着かない、静かないいところだ。冬休みの間誰も使ってはいないと思うから、掃除のために行く。


 考え事をしながら歩いていたら校舎の隅まで来ていたようだ。ふと先の方へ目をやると部室の前に人影があるように見える。


 女子生徒が一人、手になんかの紙を持って立っていた。俺の足音で気付いたのかその子はゆっくりとこっちに向いた。


「あの……文芸部の部室はここですか」


 マジで困るような顔で質問した。うちの部室は地味でこめんな。


「ああ…そうだけど」


 よく見れば、目は大きくて、茶色の髪はちょうど肩までの長さ、簡単なメイクだけで十分な可愛さ、どう見ればクラス中心の女の子だ。


 さすが俺でも、目の前の状況はだいたい推測できだが、早くないか?。


「とりあえず中へ入ろっか」

「はい。分かりました」

 ドアを開けたら、相変わらずの部室だ。特に埃などもなく、冬休み誰か使ったみたい。


 他の教室と同じ大きさぐらいけど、真ん中は長い机、左右は本棚。ほとんどはうかしの分が残したヤツ。おかげでなかなか見つからない作品もある。


 俺は窓側の席に座った。


「適当に座れば?ええっと……」


(あめ)(みや)と言います。一年二組の雨宮いろはです。えっと、(あさ)(ばね)先輩ですよね」

話しながら、雨宮は俺の左前の席に座っていた。


「ああ、二年一組の(あさ)(ばね)(れん)だ。それで、何しに来たの?」

「はい。入部したいんですけど」


 雨宮は申請書を差し出した。特に問題ないだけど。なぜ入部したいんだろ。見た目も雰囲気も文芸部と全く似合わないし。


「先輩?」

「おっ…おう」


 びっくりした。異性との距離感は大事だぞ雨宮。モテない男性はすぐ勘違いする生き物である。


「さっき絶対『コイツ何処が文芸部に似合うか』っと考えたでしょ。私だって本は読みますよ」

「まあ。それはそれとして、なぜ入部したいんだ?」


 今の一番知りたいことだ。まさか友達との賭けに負けたとか。


「この部は部長一人だけしかいないと聞かれて、なんか秘密基地の感じじゃないんですか。それにここなら他人の目付きも気にしなくでもいいし…」


 最後何か言った気がしたけど。あれか、()(さん)(くさ)い女の子かお前。


 横から見ると、さっきの元気姿と明らかに違う、少し虚しさが感じられる。


「て言うか先輩、この部室は(へん)()過ぎるじゃないんですか。それに先輩の情報が無さ過ぎ。知り合いの先輩も文芸部のこと知らないんですけど」

「いえそれ俺のせいじゃねーし。むしろ何処で聞かれた」

「一ノ瀬先生ですけど」


 何してるんだあの先生、わざわざ部員探す必要もないだろ。あれか、学生の困った姿を見れば興奮する変態か。


「はあ…。今日はこれでしよう。俺は毎日来るけど、お前は好きな日に来ても構わない」

「はい。それでは私が先に失礼しまーす」


 目立たない俺と明るい雨宮が同じ部活するなんてどっかの間違いだろう。俺はお雨宮のような(ひと)(なつ)こい人に慣れないんだ。そもそも青春を謳歌するタイプじゃねえし。


 もし、何かが変わったと言うのなら、それはきっと不安定な未来しかいないだろ。




「無事に部員探したみたいだね」

「直接候補者がいると言ってくれたらありがたいですけど」


 雨宮の入部申請書を渡しに来て、ついでに文句を言った。


「ん?だから探せって言ってるじゃない」

「はあ?何それ、()(じゃ)()?つまらない文字ゲームですか」

「まあそれより、雨宮にどう思う?」

「どうっで、ありふれた女子高生しか言えないです」

「そっか、君の参考になれると思うだけどね」


 去年の文化祭、文芸部は各部員が書いた短編集とか、イラストなどを部誌として配布された。あれから暇つぶしのため、時々小説を書く。


「まあともあれ、君も人との接し方を学ぶべきだ。それに雨宮は積極的なタイプだから、君も逃げることができない」


 何それ自分勝手な理由。確かに俺は友達いないけど、話ぐらいは自信がある。仕事範囲内の人間関係ならば上手くやれる。


「ついでにその腐った性格も少し変わればいいのね」

「別に腐ってるじゃねえし、むしろ省エネです」

「確かに、省エネだけは褒めてやるね」


 一ノ瀬先生は右手を額の前支えていて、嘆きをした。どうやら頭痛そうみたい。


「今日はこれくらいだ。あと鍵なら雨宮がすでに取ったぞ」


 一ノ瀬先生は「もう帰っていいぞ」の手振りをしていた。パソコンの画面にワードとかのものがいくつ重ねている。さすが先生、サボる一流だ。


 涼しい職員室から出た後、俺は部室に向かっている。


 部室のドアを開けると、目に映っだのは昨日と同じ席に座っている雨宮だ。


 すぐ顔をこっちに向いて、不満そうな顔をしている。


「先輩遅いですー」

「いえ別に遅くねえだろ」


 好きな日で来ても構わないと言っていたが、すぐ顔出したことは意外だ。まあでも最初はそうだね。やる気満々だけど、最後はどんどんなくなる。


「それで、部活っで何するんですか」

「何もしねえよ」

「普通はするでしょ部活」

「うちは文芸部だぞ。せいぜい本を読むだけ」


 俺は雨宮と話しながら、紅茶の準備をしている。うちの文芸部の伝統みたいなもの。俺が入部した時の前にいつも紅茶の香りがあるようだ。


「校内で、電気ケトル使えます?」

「一応先生の許可をもらった」


 まあ一応もらったけどな。


「よっし」


 自然の甘さ、濃厚な味の方が好みだ。まあでも紅茶だけはそう。甘いもの結構すぎなので、紅茶だけは特別。


「先輩、私の分は何処ですか」

「自分でしろ」


 と、言ったが、雨宮の分もちゃんと準備していく。


「嫌がるくせにちゃんと準備していますね。ツンデレさんですね」


ツンデレと言われると、確かに合ってる部分もある。俺は明るい人ではないし、話すも苦手、いつも無表情で、そうとうの陰キャだ。社会への不満はいくらでもある。けれど仕方もない、俺は社会を動けないんだ。社会人と同じ、上司に余計な仕事を増やされても、受けるしかない。これはまさに社会研修の一環である。


「ほらよ」


 雨宮は紅茶を飲んで、幸せそうな表情を出した。


「はあ。美味しいですね」

「っだろう」


 雨宮は微笑んで、こっちに顔を向いた。


「なんと言うか、いいねこんな感じ」


 いい感じのはその反則的な微笑みだろ。


 まあでも、こんな時間は確かに悪くない。本を読みながら紅茶を飲んで、外の騒ぎ声もここに届かず、雨宮との会話も意外と心地いい。ならば、一ノ瀬先生が望む通り、俺は変わるだろうか。


 その答えは否である。


 個性は変えれるものじゃない。個性を変えれる人は逆に無個性だろう。人はただ本当の自分を隠し、仮面をつけて、自分と周囲の人を欺くだけだ。そんな表面で作ったものがその仮面と同じ、いずれ破滅するんだ。


 だから俺は変わらない。自分を騙さない、いつも本当の自分のままで毎日過ごす。

 もし、雨宮いろはとの部活時間は嘘でないならば…………


「先輩?」


 目先は雨宮の顔だった。


「うわっ。何するんだ」

「だって返事がないんです」


 距離感ヤバ過ぎだろコイツ。だから異性との距離感大事。


「で、返事はなんです?」

「悪い。もう一度」

「はあぁ。だーかーらー、エッセンシャルオイルとかを部室に置きたいんです。ほら、本の匂いしかないじゃないんですかここ」

「紅茶の香りもあるけどな」

「じゃ紅茶香りのエッセンシャルオイルを買いましょう」


 さすが女子というのかな。しつこいなコイツ。でも……


「要らねえよ、そんなニセモノ」

初めまして、那須野 翔です。

この作品を書き直しました。

練習のために描いた作品です。

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