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5.異世界間で通話する

「おっ、繋がったか?小奈多、どうやら管狐が上手くやったようだぞ」

「えっ!?本当に!!」


 目の前に漬物石くらいの大きさの白い石が眩しいくらいに光っている。

「さすがくーちゃん!」

『ピイッ!!』

 白い石の向こう側で管狐の嬉しそうな声が聞こえる。


『こ、小奈多・・・なの?』

「ママ!!」


 聞き覚えのある声にすぐに小奈多も反応する。

「ママ!小奈多だよ!!」

『小奈多、小奈多、ああ、小奈多ぁ』

 名前を連呼し、泣き崩れる声がする。

『小奈多』

「おとう!!」

 女性の声が遠くなり次は男性の声に変わる。

『小奈多、怪我は?身体は大丈夫なのか!?』

「うん!テンちゃんが一緒にいてくれるから大丈夫」


『・・・テンちゃん?』


「あー、あー、小奈多が妾を呼ぶ時はその名で呼ぶ。妾は大流星の化身、天狐の葛ノ葉だ」

『は、はあ、テンコさん?・・・クズノハさんですか』

 仰々しく名乗るが小奈多同様に反応が悪い、天狐は大きな溜息を吐いてすぐき諦める。

「はあ・・・もう良い。それで其方が父親の哲夫殿で、さっきの女性の声が母親の日向殿でよいな?まずは小奈多の身は妾が保護しておるから安心しなさい」

『は、はい、ありがとうございます』

 改まって小奈多が安全である事を保証すると、石の向こう側では安堵の息が漏れているのが分かった。


『それで、小奈多ちゃんに今いったい何が起きているのですか?』


 ここで落ち着いた男性の声で尋ねてくる。

「じいじだ!」

 小奈多が大きな声で割り込んでくる、仕方ないので天狐は抱き抱えて黙らせる。


「そうだな、小奈多はいわゆる神隠しと呼ばれる現象に巻き込まれ、こちら側の世界に迷い込んでしまったと言えば良いのかな」

『『『神隠し!?』』』


 驚きの声が揃って聞こえる。

「あのね、ここは異世界なんだって」

 我慢できなかったのか小奈多が再び横槍をいれる。

「あーー、ゴホン、小奈多の言う異世界何とかが流行っているのかは知らないが、それはあながち間違いではない。ここはそちらと並行して進んでいる世界の一つであり、小奈多は偶然が重なって運悪くこの世界と繋がる穴に落ちてしまったようだ」

『そんな事が・・・』

 未だに信じられない様子だ、確かに非現実的な事象を簡単に受け入れるのは難しい。

「原因なのだが、そちらで月食があったのではないか?」

『あっ!?』

 やはり原因は月食の重なりのようだ。向こうの反応ですぐに分かった。

「その時と同じ時間帯にこちらでも月食が起きていた。月食の時間が一瞬でも重なると、稀に世界が繋がる穴が空くという現象がおこるのだ。そしてその穴に落ちて行方知れずになる事を古来より神隠しと呼ぶ。まあ、偶然妾の上に小奈多が落ちたのは幸運だったがな」

『やっぱり、私が月食を見に連れ出したのがいけなかったのね』

 悲しそうな声にすぐに小奈多が反論する。

「ママは悪くないよ、お祭りの時みたいに夜に外に出かけれて楽しかったもん・・・泣かないで」

『こなた・・』


「小奈多の言う通りだ日向殿は自分を責めてはならぬ。月食の重なりで出来た穴に偶然落ちるなど本当に不運としか言いようがない、それでいて穴に落ちた際に妾の上に落ちて来て落下死しなかったのは本当に幸運な事なのだ」


 天狐も小奈多に加勢する。改めて天井に開いた大きな穴を見上げると本当に運が良いとしか言いようがない、ボロい建物とはいえ天井を破って落ちて来たのに傷一つないのは奇跡だ。

「それに悲嘆する事はない、小奈多は妾が責任を持って其方に帰す」

『え!?帰って来れるのですか!?』

 思ったより反応が大きくて驚く。

「うむ、こちらの月食と其方の月食が重なる時は今後必ずある、その時を狙って小奈多を其方に送り出すつもりだ」

『そ、そんな事が可能なのですか!?』

『ああ・・良かった、小奈多、本当に良かった』

 力強い天狐の言葉に向こう側では感謝の声が聞こえる。


「んーーーと、ただちょっと問題があったりしてぇ・・・」


 それに水を刺すように小奈多が口を挟む。

「何だ、妾が責任を持って帰すと言っているのに」

『どうしたんだ?何か問題が?』

 不満そうな天狐に父親の哲夫も不安げに尋ねる。

「その月食っていうのが重なるのが、ええーーと、20年後だっけ?」

『『『はあ!?20年!?』』』

 思った通りの反応が返ってくる。

「20年じゃないぞ、おおよそ22年だ!たかが22年なんてあっという間だぞ!」

「もうっ!それはテンちゃんだけだよ!!」


『ちょ、ちょっと待って、22年って』


 向こう側では全員が言葉を失っている。

「そうだな月食自体は珍しい現象ではない。ただ同時に起こるとなると話は別だ、妾の見立てでは前回から逆算しておそらく22年後には必ず起こる。その間に少しでも重なれば送り出す事は出来るのだが」

『そうなのですか・・・』

 母親の日向の落胆した声が聞こえてくる。

「時間はかかるかもしれないが、かつては妾も昔は子を持つ親だったから気持ちは痛いほど分かる。妾のように夫や息子と今生の別れには絶対にさせないし、他にも手はないか模索する事を約束しよう」

 励ますように天狐が優しい言葉をかける、まるで辛かった自分の過去を重ねているようだった。


『テンちゃんさん・・・ありがとうございます』

「うむ、ちゃんとさんを重ねない方が良いと思うぞ?」


 日向が変な呼び方するので思わず訂正を要求する。

『テンちゃんさんにもそのような事があったのですか』

「うむ、わざとかな?わざと妾を嘲っているのかな?」

 哲夫まで便乗してくる。

『あの、よろしければ息子さんのお名前を教えて下されば、我々で何か出来ることが』

「ふふふ、気持ちだけで感謝するぞ、だが千年以上前の話だ、人間はそこまで長く生きられないだろ?」

 声だけだったので分からなかったが、天狐が普通の人間ではないのは理解していたがここまでとは思いもしなかったようだ。


『あの、失礼ですがテンちゃんさん』

「・・・もうその呼び名で良い」


 落ち着いた女性の声まで名前に便乗してくる。

「この声は、ばあば!」

 声の主に小奈多が嬉しそうに反応する、向こうでも手を振っているのが分かるくらい優しい声が聞こえる。

『先程、信太(しのだ)の森の葛ノ葉と名乗ってましたが』

「うむ、葛ノ葉は其方の世界にいた時の名だ、知ってあるのか?」

 過去の自分を知っている人間がいて天狐は嬉しそうだ。

『もしかしたら私が知っているお話かもしれませんが、自身が狐だと知られてお子様達と別れられたのでは?』

「おお、その通りだ。そういう決まりだから仕方なく離れた、狐の姿のままでも会いに行けば良かったと今更ながら後悔しておるところだ」

 小奈多の祖母との話で天狐は遠くを眺めている。


『あの、ちなみにお子様のお名前は安倍晴明というお方では?』

『『『は?』』』


 名前を言われたが天狐はピンときていないようだ。

「おそらく人違いだな。妾の息子の名は童子丸だ、家名は同じだがおそらく違うだろう」

『そうですか・・・あの、ちなみに旦那様のお名前もお伺いしても?』

 思ったより食い下がられるので天狐は困惑気味だ。

安倍(あべの) 保名(やすな)だ」

『・・・凄いわ、お伽話だと思ったのに』

 小さな声で祖母が何かを呟く、聞き取れなかったので小奈多と天狐はお互いの顔を見合って首を傾げる。

『ばあさん?』

『信太妻ですよお祖父さん、私の実家の方の伝承の』

「ほう、やはり多少なりとも妾と縁ある者がいたか。そうでなければ妾の所に落ちてくる理由がないからの」

 天狐1人で納得した表情をしている。

「どういう事?」

 小奈多は全然納得がいっていない。


「つまり小奈多の祖母の出自が信太の森の近くなのだろう、縁とゆかりは自然と引きつけ合うものなのだ」

「・・・へー」


 おそらく小奈多は分かってないが、天狐は小奈多がこの顔をしている時は追及しない方が良い事を学んだ。

「さて、そろそろ時間ではないか?線香が消えればこの通話は終わる」

『え!?もう!?』

 天狐が会話の終了を示唆する、向こう側では寂しそうな声が上がる。

「その白狐石は妾の亡骸から生まれた宝珠だ、妾の元に戻れば力は回復する。そこにいる妾の眷属である管狐を再び使わそう、満月が近くになったら其方に行かせる。同じやり方で会話が可能となるはずだ」

「そうだよ、今日が、今日が最後じゃないんだよ!」

 白狐石については小奈多も理解しているようだ、向こう側にいる家族に健気な言葉をかける。

「私、頑張るから!ちょっと寂しいけど、時間がかかるかもしれないけど、絶対に帰るから!待っててね!!」

『こな・・・』


「・・・時間切れだな」


 途中で通話が終わり、静寂の中に小奈多の啜り泣く声だけが響く。

「よく頑張ったな」

「うっ、ううっ・・・ママァァ!」

 胸の中で小奈多は何度目かの涙を流す、天狐は何も言わずにそのまま優しく抱き寄せる。


 異世界に来てもうすぐ1ヶ月が過ぎようとしていた。







読んでいただきありがとうございました。

最終話は今晩投稿します。

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