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3.異世界の過ごし方

「ふんぬううううう!!」


 小奈多が気合のこもった奇声をあげる、しかし何も起こらない。

「あはは、そう簡単に使われては妾の面目が立たんぞ。妾が神通力へと至ったのに何百年ものかかったのだからな」

 天狐に大笑いされて小奈多は頬を膨らませる。

「何かコツとかないの?」

「そうだなぁ、小奈多のように何もない状態から始めるのは難しい、妾もそうだったが最初は妖術から入った方がよい」

 妖術と聞いて小奈多は難しい顔をする。

「妖術って悪者が使うやつでしょ?魔法とかの方が良い」

「失礼な!妖術だって立派な魔法のようなものだぞ、いや魔法より優れていると言っても良いくらいだ」

 小奈多が神通力の訓練を始めて数日経ったが何の進展もないまま時間だけが経過していた。


「しかし、これほどまでにセンスが無いとは思わなかった。妾の息子でもこんなに酷くなかったぞ」

「テンちゃんの子供なら才能アリでしょ!私のおとうは会社員さんだし、ママはレジ打ちだよ」

 小奈多の家族である山清水家は、特殊な才能とは縁もゆかりもないごく普通の一般人だった。そんな家柄だからこそ小奈多に何らかの才能を秘めている事は無かった。

「仕方ない、こっちに来い」

 天狐は膝の上に座るように催促する。

「妖術は自分の何かを使って大きく変化させるのが基本だ」

「あいた!」

 そう言いながら天狐は小奈多の髪を一本引っこ抜く。

「妾の手の平の上に小奈多の手を乗せろ」

「うん」

 2人の手が重なりあう、そして小奈多の手の平の上にさっき抜いた小奈多の髪の毛をのせる。

「火が燃えるように強く念じる」

 言われた通り髪が燃えるように強く念じる。

「妾の手に乗せているから分かるだろ?何かが流れているだろ?」

「・・・何か変な感じ」

 確かに今まで感じた事のない違和感を覚える、まるで体温が全て手の平に集まってゆく感じだ。


 ぼわっ!!

「わあっ!!」


 突然髪の毛が激しく燃えて火柱が立ち、小奈多は思わず悲鳴をあげてしまった。

「自分の髪などを体内に宿る活力を使用して変化させる、これが妖術だ。それと違って何もない自然の状態に体内の活力で干渉して変化をもたらすのが神通力だ。それだけの違いだが桁違いに難しいのだ」

 神通力と妖術の違いを説明するが小奈多には難しい様子だ、それでも天狐は続ける。

「さっき言ってた魔法というものは妖術に近いが、魔法は体内の活力を直に変化させて放出するという効率が悪くて使い勝手の悪い手法の代表なんだぞ。他にも仙術というのがあって」

「もお、いいよ!これ以上聞いたら私の頭が大爆発する!!」

 ノリに乗って饒舌に喋り続ける天狐を小奈多が遮る、両手で頭を抱えて全てを拒絶する。

「神通力は諦める!私は妖術で生きてく!!」

「切り替え早っ!!」


 プチッ

「痛っ」


 再び自分の髪を抜いて手の平の上に置く。

「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ」

 強く念じても何も起きない。

「初歩は固くなるとか変化にしておけ」

「固くなれ固くなれ固くなれ固くなれ固くなれ」

 言われるがままに念じる。

「ん、何か変化したぞ」

「え?本当!?」

 触ってみると確かに固くなって長い針のようになっていた。

「ちょっと野菜を刺してみる!」

 外に出たかと思ったらすぐに芋を持って帰ってくる。

「見て!刺さった!!」

 嬉しそうに自分の髪が芋に刺さっているのを見せる。

「まあ、小奈多は妾の影響下にあるからそれぐらい出来て当然だ。妾から離れた場所でそれが出来たら一人前だな」

「よし、次もやってみよう」


 プチッ

「痛っ」


 涙目になりながら髪の毛を抜く。

「ねえテンちゃん、こんなに髪を抜いたら頭がツルツルになっちゃうよ」

「ん?別に髪じゃなくても良いんだぞ?小奈多の身体の一部なら何でも良いぞ、例えば唾とか爪とか、極端に言えば排泄物でも良い」

 初耳情報に小奈多は首を傾げる。

「見本を見せてやろう」

 そう言うと天狐は本殿の中庭に向かって唾を吐く、するとそれが業火の火の玉となって飛んでいった。

「おお、私もやってみる」


 ペッ


 ペチャ


 もちろんそう簡単に出来る訳がなく吐いた唾は地面に落ちる。

「・・・ぎょ、行儀が悪いからこれは止めようかな」

「そうだな、別にやっても良いが建物の中ではやるな」

 そう言うとそそくさと建物の中に戻る。

「そう言えば陰陽師の者達は切った髪を束ねて常に持っておったな、今考えればあれは良く考えられた手法だった」

 陰陽師というワードに小奈多は反応する。

「陰陽師って、昔の魔法使いのような人達よね!?あべの何とかいう人が有名な」

「おお、よく知っておるな。妾の息子もそれに属しておった」

 小奈多の意外な反応に天狐は思わず嬉しくなってしまった。だがその後少しだけ切ない気持ちになる。

「どうしたの?」

 寂しそうな天狐に小奈多が心配そうに顔を覗かせてくる。

「ふふふ、昔を思い出しただけだ。妾の正体がバレて子供と別れた時を思い出したのだ、ちょうど小奈多くらいの歳だったと思ってな」

 小奈多を抱き抱えて遠くの空を眺める。


「大昔の話だ、あのままバレずにいれば親子として一緒におれたのかなぁと空想しただけだよ」

「おれるよ、家族だもん」


 きっぱりと言い放つ小奈多に思わず吹き出してしまう。

「ははは、そうか、そうだよな、家族だから一緒にいれるよな。あはは、あの頃の妾にそう言ってやりたい」

 笑いながら小奈多を抱き抱える手が強くなる。

「必ず元の世界に帰してやるからな」

「でもあと20年待たないとダメなんでしょ?おとうもママも心配させちゃうなぁ、せめて20年待っとってなと言えたらなぁ」


「ん?言えんことはないぞ?」

「え?」


 お互い見合ったまま固まる。

「いや、妾は天狐様ぞ?向こうの世界に妾の眷属がいるから言葉を交わす事ぐらい出来る・・・よ」

 小奈多の視線に目を合わせられない、誤魔化すように目を逸らして口笛を吹こうと口を尖らせる。

「そう言う事は早く言って欲しかったなぁ」

「スマン」



「ねえ、ねえ、それでどうしたら良いの?」

「少し待っておれ、妾の眷属を呼ぶ」


 小奈多は期待に胸を膨らませる、しばらく待つと天狐の袴から小さな狐が顔を出す。

「狐さんだぁ」

管狐(くだぎつね)じゃ」

 天狐が紹介すると袴の中から細長い胴体の狐が姿を現す。

「胴長!ダックス君やん!!」

 大喜びで管狐を抱きしめる、それから逃れようと抵抗するが小奈多はガッチリ抱きしめて逃がさない。

「小奈多、離してやれ」

「フワフワして気持ち良いのに」

 小奈多から解放され、管狐はすぐに天狐の肩に避難する。

「いいなぁー」

 その様子に本気で羨望を目を向ける。

「まずは優しく触ってやれ」

「はい、ごめんなさい」


「さて、管狐は向こう側から妾が呼び寄せた妖狐だ。此奴に小奈多の親へ言伝をする」

 管狐と視線を合わせると小奈多の肩へと飛び乗ってくる、小奈多は驚くがすぐに管狐を撫でてあげる。

「ここに妾の亡骸から出来た白狐石がある、それを使えばここにいる小奈多と会話が出来るはずだ」

「おーー!凄い!お手軽!!」

 小奈多が手を叩くと天狐は自慢げに胸を張る、そして筆と紙を取り出す。

「まずは文を書く、えーと、娘に会いたくば満月の夜、丑の刻、線香を用いて白狐石へと語りかけよ」

「なぞなぞ?」

 簡潔な難文に小奈多がツッコむ。

「字もへなへなして読めないよ」

「はっ?これで達筆と言うんだ!」

 小奈多からの横槍に天狐がキレる。


「貸してみ、私が書いたる」

 天狐の筆を奪い紙を手に取る。

「字ぃ汚な!!」

「うっさい!筆なんか使った事ないんだもん!」

 今度は天狐のヤジに小奈多がキレる、いっこうに進まないまま時間だけは過ぎていく。

「あれ?狐さん消えたよ!」

「ああ、しまった、口寄せの時間が過ぎてしまった」

 2人が気がつくと、いつの間にか管狐が消えていた。

「口寄せって?」

「向こうの世界から魂だけ呼び寄せる術じゃ」

 残念がる小奈多の質問に天狐は溜息まじりに答える。

「え?魂!?死んじゃったの?あ、でも触れたし」

「妾の神通力で仮の居場所を用意して魂をそれに収めていたのだ、管狐の方の魂が身体と離れている事に耐えれなかった感じだな」

 難しすぎて小奈多には理解できなかったが分かった風に頷いたおく。


「管狐が復活するまで待ちだな。それに向こうの世界へ物を運び込む頭陀袋(ずたぶくろ)も用意してなかったから次までに用意しておこう。それまでは小奈多はこっちの世界の文字と言葉の勉強をするかね」

「うーー」

 小奈多はこの世界の文字の勉強をしていた。文字が全く読めないのと、天狐の影響下でないと会話が出来ないのは流石に不味いと思ったからだ。もちろん凡人の小奈多にとってそれはとても困難な事で、進捗は芳しくなかったりする。


「ねえ、テンちゃん。ここってどんな世界なの?」

「どうした突然」

 文字を練習しつつ天狐に尋ねる。

「だって、大きな街の人達で、火の玉の魔法を使った人がいた」

「ふむ、あれが魔法というやつだな。確かに小奈多のいた世界には無いものだな」

 小奈多の顔を見てどう説明すれば良いか考える。

「小奈多のいた場所とここは違うのは分かるな?」

 小奈多が頷くのを確認して続ける。

「世界というのはだな、いくつもの世界が並んで一緒に進んでいる。ここは本流と言えるくらい太くて深い世界で、妾のような神と呼ばれる存在がおっても耐えれる世界だ。小奈多のいた世界は支流と呼ばれて本流に沿って進んでゆく世界の一つで、細くて浅いから魔法や妾のような神と呼ばれる存在がいるとバランスが崩れてしまうから存在出来ないのだ」

「ほーー」

 間違いなく理解していな顔だ、天狐は小さく溜息を吐く。

「・・・もう異世界でいいや」

「おおっ!剣と魔法のファンタジーだね!!」

 小奈多が全く理解してない事を察して天狐は諦めてしまった、妖術も言語もまだまだ先が長そうだと再び溜息が出てしまった。



 そして管狐が天狐と小奈多の前に現れたのは1週間経った後であった。


読んでいただきありがとうございました。

夜に次話を投稿します。

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