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2.異世界の歩き方

 翌日、小奈多はワクワクして朝を迎える。


「ふむ、取り敢えずその変な服を変えとくか」

 小奈多の格好を見て天狐は本殿の奥へと入っていく。

「変かな?普通だと思うけど」

 ちなみの小奈多の格好はTシャツに短パンに運動靴いう健康的な子供の服装をしている。

「変というより見窄らしいと言った方が良いか?ちょっと待っていろ」

 奥からどこかで見たことのある服を持ってくる。

「見たことある!これは巫女さんの服!!」

「巫女さんの服?これは儀式用の白衣(しろぎぬ)緋袴(ひばかま)だ。ほれ、さっさと服を脱げ、着付けてやる」

 慣れた手つきで着替えさせる。


「うふふ、テンちゃんと似てる」

 嬉しそうに自分の格好を見てニヤけてしまう。

「さてと、行くか。足袋は履けるな?」

 外に出ると天狐は姿を巨大な白い狐へと変える。

「わぁ、狐さん!?」

『狐ではない!天狐じゃ!!これが本来の姿だ!!』

 違いが分からない小奈多は首を傾げる、天狐は諦めて身体を屈ませて伏せの体勢になる。

『とっとと乗れ』

 背中に乗れという事だろう、白くて大きな身体によじ登る。

『しっかり捕まっておれ』

 ふわりと宙に浮くと一瞬で天高く舞い上がる。

「おおお!!凄い!凄すぎるで!!」

 興奮して変な言葉違いになってしまう。

『ふむ、小奈多は京言葉に近いの、妾の近くに落ちたからその辺りの人間と思っておったが』

「京?よく分かんないや」

 小奈多はさほど気にせず上空からの絶景に夢中のようだ。


「あそこ!?」

『うむ、あそこがこの辺りで一番大きな集落だ。あの近くで降りるか』


 空を滑るように走る、一瞬で街の近くへと到着してしまった。

「この姿では入れないか」

 狐の姿から再び人間の姿に戻る。

「おお!美人さんに戻った!!」

 興奮気味に小奈多が抱きついてくる、そのまま手を繋いで森の外へ出る。

「でっかい城やね」

「かなり強固な城壁に囲まれておるの、この辺もしばらく来ない間に変わってしまったな」

 周囲を見渡しながら門の方へと向かう。


「そこの怪しい親子、止まれ」


 門の中に入ろうとすると体格の良い男性に止められる。

「なんだお主?怪しいとは妾達の事を言っておるのか?」

 天狐が睨みつけるが男は意に介さない。

「怪しいだろ!変な格好をして、身分証を見せろ」

 2人の格好は明らかに周囲から浮いていた。

「ねえ、明らかに洋風だよ?」

「むう、西洋かぶれしおって!」

 小奈多も周囲との違いに困惑する、明らかに注目を集めている。

「身分証を出せないのか?お前達もしかして密入者か?」

「はぁ!?妾はこの地に1000年以上住んでいる神ぞ?後から来たのはお前達だろ!!」

 不穏な空気になってきた。男が天狐を捕えようと手を出そうとする、すると一瞬で男は遥か遠くへと弾き飛ばされる。

「痴れ者が!誰に物申しておる!!」

 天狐は腕組みをしてふんぞり返る。弾き飛ばされた男はフラフラと立ち上がり、何やら笛のようものを吹く。


 ピイイイイ!!


 甲高い音がする、すると街の中から大勢の兵士がやって来る。

「テ、テンちゃん!?」

「ふん!烏合の衆が!!いくら雑魚が集まっても何も変わらん!!」

 重そうな鎧を着た兵士が天狐の前になす術なく軽々と吹き飛ぶ、強そうな歴戦の剣士っぽい男さえ近づく事すら出来ない。

「強力な魔法使いだ!警戒しろ!!」

 街の中からどんどん人がやってくる、これだけの人数を前に天狐は余裕の笑みをみせる。

「ね、ねえ、テンちゃん!これじゃ街の中に入れないよ」

「む?こんな雑魚蹴散らして入れば良かろう?」

 雲行きが怪しくなって来たので小奈多が止めようとする。

「ダメだよ、蹴散らしたら余計に街の中に入りづらくなっちゃう」

「ぐっ、そういうものなのか」

 離れた所から大きな火の玉が飛んでくる、天狐はそれを一息で吹き消す。

「なっ、魔法まで効かないだと!?」

 魔法使いのようなローブを着た男が唖然としている、今度は遠くに大きな馬に乗った騎士まで見える。

「ぐう、負ける気はしないが・・・仕方なし、撤退だ!」

 天狐は小奈多を抱き抱えるとそのまま天高く舞い上がり、その場から一瞬で離れる。



「くう、森から100年くらい出ないだけでこのような酷い仕打ちを受けるとは」

 悔しさを口にしつつ街から離れ安全そうな場所に着地する。

「どうしよう、もうあそこに行けないね」

「安心しろ、集落はあそこだけではない。今度は森の近くの小さな集落に行ってみよう。ほれ、あそこだ」

 天狐の指の先には粗末な木の塀で囲われた村がある。

「喧嘩はダメよ」

「分かっておる」

 手を繋いで一般人に扮して門の前に立つ。

「おや、見ない顔だね」

 年老いた門番が2人を見つける。

「も、森から来た、入っても良いか?」

「森?ああ、神獣様の森か。その格好は巡礼の信徒さんだったかな?子連れで大変だったろ、ゆっくりと休んでいきなされ」

 なぜかすんなり入る事に成功する。

「巡礼の信徒?」

「何か聞いた事があるな。確か妾のような獣の神を信仰する宗教があってな、全部で48箇所の霊場を回るという習わしがあるらしい」

 小奈多の疑問にうろ覚えで答える、神様でも人間の宗教に興味はないようだ。



「・・・何もないね」

「あまり人の行き来もない」


 2人は村の中を見て回る、人の出入りも少なくて店も見つからない。

「あ、あそこお店じゃない」

 小奈多が小さなお店を見つけて指差す。

「お金は?」

「安心せい」

 布の袋に大量のコインが入っている。

「凄い、もしかして小銭王?」

「何かそれ嫌」

 お金がある事に安心してお店の中に入る。


「いらっしゃい」

 体格の良いおばちゃんが店の中にいる。

「おや、様変わりな親子だね。信徒さんかい?」

「え?おお、そ、そう、信徒だ」

 なぜか人懐っこい対応にドギマギしてしまう。

「今どき敬虔なお方だね、白狐様もお喜びになるだろうね」

「妾は白狐ではなく天狐なのだが・・・」

 反論しようとするが小奈多によって止められる、仕方なくそれを受け入れる。


「何か食べ物ありますか・・・あっ!」


 思わず声が上擦ってしまった。

「見てテンちゃん!お鍋がある、あれがあればお料理出来るんじゃない?」

「そ、そうなのか?」

 言われるがままに鍋を手に取る。

「店主、これを貰えるか?」

「は、はい、ありがとね。1200ベルだよ」

 値段を言われて慌てて小銭の入った袋を取り出す。

「これで買えるか?」

「ま、また、細かいねぇ」

 中身を見て数え出す、10枚ずつの小銭の山が12個程できる。


「か、軽くなってしまった」

「やっぱ小銭王じゃん」

 何とか鍋を買う事が出来たがお金の入った袋は一気に軽くなった。

「くそ、もっと賽銭をいれるように神託を出してやる」

「酷い神様だぁ」

 再び村の中を進む、さっきの店は雑貨屋で食品を扱う店が他にあるという聞いて2人はそこに向かっていた。

「あ、テンちゃんだ」

「なぬ?」

 小奈多の先には狐を象った大きな石像が鎮座していた。

「本当に神様なんだねぇ」

 大きな狐の石像を見上げて小奈多が感嘆の声を上げる。

「お参りしよう、えっと、なんまいだぁ〜」

「いや、それ違うし」

 見本を見せるように天狐が3回手を叩いて頭を下げる。

「なんで妾は自分の参りをしてんの?」

 自分が何やってもいるか分からなくなってきたが、小奈多が真似をしてお参りするのを見て思わず笑えてしまった。


 そしてしばらく進むと開けた場所に出る、そこは円形の広場になっており沿うように数件の店が開いていた。

「人がいるね」

「ここが集落の中心地であったか」

 2人で見て回る、食料品を売っている店から食堂から本屋に宿屋など色々な店がある。

「ふむ、野菜や穀物はたくさんあるから、塩とかが欲しいのかな?」

「だね!やっぱ味は必要だもんね!!」

 手持ちでどれだけ買えるか不安だが取り敢えず中に入ってみる。そこには見たこともない動物の肉や魚、野菜やパンが品揃え良く陳列されていた。


「いらっしゃいませ〜」


 笑顔の店員が挨拶をする、風変わりな親子なので不審に思われているのか視線が集まっている気がする。

「塩とか香辛料などの調味料が欲しいのだが?」

「あ、はい、こちらです」

 案内された棚を見ると色々な瓶が並んでいる。

「おお、沢山ある」

「手持ちはこれだけなのだが、何が買えるのだ?」

 小銭の入った袋を見せると店員は驚きを隠せない。

「大変だなあ、巡礼の信徒さんは皆さん貧乏旅行だと聞いているけど本当なんだねぇ。それもこんな小さな子供を抱えて」

 何やら思いっきり勘違いされている気がする、店員は涙を浮かべながら天狐の肩を叩く。

「そ、そうなのだ。天狐様の拝殿で野菜を恵んでもらったから、この子に美味しく食べてもらいたくてねぇ。どれが良いのか教えてくれるかい?」

 小奈多は呆れながら天狐を見上げる、さりげなく天狐様と呼んで存在アピールも忘れてない。

「そうかいそうかい、色々とオマケするよ」

 店員は小銭の袋から受け取り、中身を数え始める。

「いいの?全部出しちゃって」

「ん?あれはほんの一部だ、どれだけ森に引き篭もっておったと思う」

 自慢げに胸を張るが、つまりずっと賽銭を使わずに貯めていたようだ。

「こんなもんでどうだ?」

 小銭袋一杯に調味料の瓶が入っている。

「これとこれは野菜用な、それは肉を焼いた時にかけるスパイス、これは岩塩」

 瓶には見た事のない文字が書かれており、小奈多には全く読む事が出来なかった。

「ありがとう、また来ると思うからよろしく頼む」

 小銭袋を持つと2人で外に出る。


「あははは、やはり最初から妾のお膝元に行くべきだったの!あんな疑り深い奴等ばかりの大きな街はダメだ」

 天狐は嬉しそうに戦利品を持って大笑いする。

「ねえ、これは何て書いてあるの?」

 唐突に看板を指差して小奈多が尋ねる。

「む?クオン村西通りだな」

「あれは?」

 次はお店の看板を指差す。

「オリーブ食堂」

「じゃああれは?」

 小奈多が次々と指差していく、天狐はそれを次々と読んでいく。

「凄い、日本語じゃないのに読めるんだね?」

「ふむ、何も考えてなかったが、確かに小奈多はここの言語を全く知らなかったな」

 小奈多は改めて自分が別の場所に来てしまったと実感する。

「ううう、私は日本語でさえ怪しいのに」

「・・・それはどうかと思うぞ」

 頭を抱えているが7歳の言語能力としては小奈多は平均的ではある。

「あれ?でも文字は読めないのに何で言葉は分かるんだろ?」

「ああ、それは妾の神通力の影響下にあるからだな」

 新たな事実に驚愕する。

「ほら、妾から離れてそこにいる老夫婦に話しかけてみろ」

 通りのベンチに腰掛けている老夫婦を指差す、小奈多は小走りで老夫婦に近づいて声をかける。すると驚いた表情ですぐに駆け足で戻ってくる。

「何言ってるか全然分からん!!」

「あはは、そういう事だ」

 小奈多に手を引かれて老夫婦の元へ向かう、他愛もない挨拶を交わしてその場を後にした。


「ねえ、テンちゃん。私にもその神通力っていうの使える?」

「そうだなぁ、小奈多は妾の庇護下にあるから使えるようになるかもしれんが、特殊な才能がないと習得は不可能だな」

 村の外へ向かう道中で小奈多は尋ねてみる、すると天狐はからかうように笑う。

「才能かぁ、私に隠れた才能があれば使えるかもかぁ」

「ははは、そんな生ぬるいもんじゃないぞお?」

 2人はそんな話に笑いながら村の外に出て森の中へ入って行った。

読んでいただきありがとうございました。

明日も投稿します。

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