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1.穴に落ちたらそこは異世界だった

GW恒例?の新作投稿、全6話の短編小説です。

温かい目で読んでもらえると嬉しく思います。

「ふぎゃ」


 大きな穴に落ちた山清水 小奈多(こなた)はふわふわの柔らかい何かの上に着地した。人と同じくらいの暖かさと心地よい弾力に小奈多はずっとそこに埋もれていたいと思えてしまう。

『なんだ、どこの娘だ?』

 半分そのまま寝そうになっていたが小奈多を呼ぶ声で起き上がる。

「え?あ、どなたですか?」

『それはこっちのセリフだ、突然(わらわ)の上に落ちてきて無礼であろう』

 白いふわふわの物体が動いて小奈多はバランスを崩して床に落ちてしまう。


「あいたたた」

『なんだ?人の子供?』


 小奈多が顔を上げると驚きのあまり固まってしまう、目の前には真っ白で美しい大きな狐が小奈多を見下ろしていたのだ。

「おおおおおおばけ!!??」

『お化けなどという下賎なものと間違うな!妾は大流星の化身である天翔る天狐(てんこ)の葛ノ葉なるぞ!頭が高い!ひれ伏せ!!』

 大きな狐が胸を張ってふんぞり返る。

「狐が喋った!?」

『狐ではない!天狐様だ!』

 2人の会話が成り立たない、天狐は再び自分の立ち位置を主張するが、まだ幼い小奈多は何の事か分かってない。


『・・・まったく、なんだこの小娘は?いったい何なのだ?』

 諦めた天狐が態度を軟化させる。

「私、山清水 小奈多だよ、7歳!」

 空気を読んだ小奈多は柔らかい雰囲気になった天狐に抱きつく。

『ふむ、小奈多か・・・それでお前はどうやってここに来た?』

 天狐の問いに小奈多は首を傾げる。

「んんーと、よく分かんないけど、突然穴に落っこちた」

『落ちた??』

 2人で首を傾げる、すると天狐は上から落ちてきた事を思い出して上を見上げる。そこには天井に大穴が空いており、妙な色と形の月が覗いていた。


『おーおーおー、ぼろ家だから天井に穴が空いておるわ・・・そう言えば今日は月食か、という事は境界に穴が空いてしまったのか』


 小奈多も上を見上げると月が奇妙な形になっていた。

「え?なに?なに?どういう事??」

『あー、そうだなぁ、小奈多のいた世界と妾がいるこの世界が稀に繋がる時があってな、双方で同時に月食が起こると穴が空いて人が落ちてくるのだ・・・えーーと、小奈多の世界で言うと「神隠し」と呼ばれるものだな』

 7歳の小奈多が理解出来るように伝える、神隠しという言葉でようやく理解できたのか小奈多の表情が明るくなる。

「あ、まん丸で綺麗なお月様になった」

『こっちの月食が終わったの』

 しばらくそのまま空を見上げる。


『・・・あれ?不味いのでは?』


 思わず魅入ってしまったが、天狐が突然慌て出す。

『いかん!月食が終わってしまった!!穴が閉じてしまった!!』

 大きな狐が慌て出す、小奈多は不思議そうにそれを眺めている。

「穴が塞がったならいいじゃん、もう人が穴に落ちないよ?」


『そうではない!小奈多が元の世界に帰れないって事だ!!』


 2人に沈黙の時間が流れる、小奈多も考える時間が与えられてようやく事態の深刻さが分かった。

「え?もう・・・帰れないって事?」

 事態の重さに気がついて小奈多の目に涙が溜まる、そして時限爆弾のように爆発する。


「ゔわあああああああ、マーマー!!おとう!!!あああああああ」


 耳を塞ぎたくなるような爆音で泣き喚く、さすがの天狐も狐の姿のままでは耳を塞げない。

「ままま待て、落ち着け!落ち着くのだ小奈多!!」

 狐から人の姿へと化けて慌てて小奈多を抱き寄せる、必死になって落ち着かせようとする。

「みぃびゃあああぁぁ・・・美人さんだ、ゔああああ!!」

 天狐の顔を見て一度泣き止む、そして感想を言いつつ再び泣き喚く。一方の天狐はどうしたら良いか分からずに宥めるために抱きしめる事しか出来なかった。

「ぐっ、ゔっ、ままぁ、おとう、うっ、うっ」

 しばらくして泣き疲れたのか小奈多は天狐の胸の中で眠りについてしまう。ようやく泣き止み安堵の息が漏れる、そして周囲はいつも通りの夜の静寂に包まれていった。



 翌朝、小奈多は暖かな温もりで目が覚める、長い白髪の美女に抱きしめられて安心して眠ってしまったみたいだ。

「・・・誰?」

「ん、起きたか?」

 小奈多と同時に白髪の美女も目が覚めたらようだ。

「え?どちら様?」

「妾だ、天狐様だ、昨日美女さんと言ってくれただろ?」

 小奈多は天狐の顔を見て固まる、そして昨晩の事を思い出す。

「狐さん!?」

「狐ではない! 天狐様の葛ノ葉だ!!」

 頑なに狐を否定するが小奈多はよく分かっていない。

「あーーー小奈多よ、少しは妾と話が出来そうか?」

 改まって天狐が小奈多の方を向く、すると小奈多は畏まって聞く姿勢になる。


「まずはもう二度と帰れない訳ではない」

「え!?本当!?」

 身を乗り出して小奈多は天狐に引っ付いてくる。

「本当だ、月食が重なれば再び穴が繋がるはずだ」

「はえ?」

 難しかったのか小奈多は首を傾げる。

「つまりだ、昨晩見た月食という現象がこっちと向こうで重なれば帰れるって事だ」

 帰れると言う意味だけ分かったのか小奈多の表情が明るくなる。

「いつ!?いつお家に帰れるの?いつ?」

 家に帰れると知って期待のこもった瞳で見てくる、天狐は指を折って何やら計算をしている。

「んんーーと、昨日の月食から逆算すると・・・おお、次に月食が重なるは22年後くらいだ!良かったな、思ったより早く帰れる!!」

 正確ではないがおおよそで計算し、()()()()()()思ったより早くて喜ぶ。


「・・・は?」

「ん?」


 2人の目が合う。

「22年って・・・どこが早いの!!」

「な、何を怒っている?たったの22年だぞ?」

 小奈多の怒りに満ちた目に天狐が焦る。

「22後って!私は30になっちゃってるじゃん!!」

「い、いや、昨晩小奈多は7歳だと言っていた、だから29だぞ?」


「うっ・・・算数は大っ嫌いなんだ!んなもん29も30も一緒のようなもんじゃ!!」


 顔を真っ赤にして言い訳をしながら地団駄を踏む、その理解不能な言い分に天狐は唖然としてしまう。


 ぐうううう〜〜


 ここで小奈多のお腹から可愛らしい音が鳴る、顔をさらに真っ赤にさせて素早くお腹を押さえる。

「お腹が空いているのだな、だから怒りっぽくなっているのだな」

 そう言うと天狐はおもむろに建物の外へ出て行ってしまう。

「ほら、お供物だ、これは人間の食べ物だろ?」

 何やら野菜のようなものを沢山持ってくる。

「・・・え?」

「ん?ほら、たんとお食べ、沢山あるから全部食べて良いぞ」

 天狐の屈託のない笑みに小奈多は何も言えない。


 シャク


 大根に似た野菜を食べてみる、気持ちの良い音がするがエグ味があって苦くて不味い生野菜だ。

「・・・まじゅい」

「ええっ!?」

 慌てて天狐も食べてみる。

「まずっ!!あやつ等ぁ!!妾を崇拝していると言っておるくせにこんな不味い物を寄越しおってぇ!不味いと知らずに食べて苦しむ妾を陰でほくそ笑んでおったか!!!」

 かじった野菜を吐き出して天狐は怒りに震えだす、小奈多は慌ててその怒り宥める。

「テンちゃんはお料理とかしないの?」


「は?料理などせぬ、そもそも妾は食べなくても平気だ・・・」


「・・・・ん?テンちゃん??」


 小奈多の呼び方に反応する。

「だってテンコだからテンちゃん」

「様をつけろ!様を!天狐様と呼べ!!」

 頬を掴みながら小奈多に言い聞かせる。

「ちえんこさま」

「バカ!そのような卑猥な呼び方をするな!!」

 小奈多は頬を掴まれているので上手く発声出来ないのを忘れて激怒する、不毛なやり取りがしばらく続くが天狐がようやくそれに気がついて小奈多は解放される。

「もうっ、テンちゃんの方が可愛いのに」

 掴まれた頬をさすりながら不満げな顔をする。

「・・・もうその名で呼べ、なんか妾が恥ずかしくなってきた」

 諦めた天狐がテンちゃん呼びを仕方なく許容する、それを聞いて小奈多は嬉しくなって抱きついて喜ぶ。


「・・・お外を見に行っても良い?」

「ん?良いぞ、こっちだ」


 天狐の後を着いて行く、襖を開くと朝日に照らされた眩しい世界が広がっていた。

「森?」

 勢いよく外に出て周囲を見渡す、それを見守るように天狐は建物の土台に腰掛ける。

「ここは信太(しのだ)の森と呼ばれる妾の霊域だ、これでも神と呼ばれているのだぞ?」

 自慢げに言うが小奈多には理解出来ない難しい顔をされる。

「・・・ここの神様なのだからこの森全部が妾の土地」

「おお!凄っ!!」

 分かりやすく砕いて説明するとようやく理解してもらった。

「神社に住んでいるの?」

「一応神殿なのだが?」

 天狐は神殿と言うが、小奈多にとって見覚えのある純和風の神社にしか見えなかったようだ。そして神殿への興味は続かず、小奈多は周囲を興味津々に見渡している。

「ここは日本じゃないの?」


「ふむ、そうだなぁ・・・ここは小奈多の住む世界と平行して存在している全く別の世界だ」

「平行?別の世界?」

 砕いて言おうと頭を捻るが上手く言い表せれない。

「異世界ってやつ?」

「うむ、それに近いものだな。難しい言葉を知っておるのだな」

 感心すると小奈多は自慢げに小さな胸を張る。

「流行りのやつ!!」

「流行ってるの!?」

 天狐が理解不能の顔をして苦悩していると、おもむろに小奈多がやって来て横に腰掛ける。

「お家に帰れるのかな?」

「帰れるだろ、たかが22年くらいあっという間だ」

 たかが22年という天狐に小奈多は大きな溜息を吐く。

「22年はあっという間じゃないよ、あっという間に大人になっちゃう」

「そうなのか」

 天狐の服の裾を掴んで小奈多は俯く。

「おとう心配してるかな?ママに・・・会いたいなぁ」

 小さく震えながら泣き始める。昨晩の大泣きとは違う、胸が締め付けられるような苦しい涙に思わず小奈多を抱き寄せる。

「仕方がない、ちゃんと妾が元の世界に送り届けてやるから泣くな」

 天狐は大昔に忘れていった母性という感情を久しぶりに思い出していた。啜り泣く小奈多の背中を優しく叩いて前後に小さく揺れる、時を忘れて続けていると天狐の胸の中で小奈多は小さな寝息をたてて眠っていた。

「ふふふ、泣いたり笑ったり忙しい子だ」

 何も起こらない時間が静かに過ぎて行った。



「・・おトイレ」

 小奈多が起きたのは生理現象によるものだった。

「お、起きたか?」

「おトイレどこ?」

 聞き慣れない言葉に天狐は首を傾げる。

「おしっこ」

「厠か、ここには無い、確か人間用のものが拝殿の方にある」


「・・・漏れる」

「はぁ!?待て待て待て待て!!」


 小奈多を抱き抱えると走り出す、裸足のまま外に駆け出して境内の中にある小さな建物の中に入る。

「え?・・・座らないの?」

「座る!?た、確か、えーと、ここを跨いでするんじゃ!こう!!」


 見本を見せるが小奈多は不安げな様子だ。

「出来るかな?」

「頑張れ!やれば出来る!小奈多なら出来る!!」

 必死に励まして見守り、用を足す事が出来ると両手をあげて喜んだ。

「やれば出来た、凄い!あ、下に小さな川がある」

 下に目を向けると常に水の流れのある小さな側溝があり、天然の水洗トイレになっていた。

「妾は用を足さないからの・・・これは礼拝に来た人間用のもので、確かこの水はこのままどこかの浄化施設に行き着くと言っておったな。大昔はこの世界はとても文明が発達していたが一度滅んでしまったらしい、これはその文明の遺産らしいが妾が来る前の昔話だからよく知らん」

「へえーーー」

 小屋の外へ続く排水を見て感嘆の声を上げてしまった。そして用を足して気分が良くなった小奈多は興味深げに周囲を見渡す。

「あ、賽銭箱だ!本当に神社みたい」

「ここは拝殿と言って人間がお参りをする場所だ。まあ、ここに来るのは近隣の者かごく一部の人間だけだから賽銭はあまり無い。お金じゃなくてお供物を納める者がほとんどだ」

 賽銭箱の前に山盛りの野菜や穀物が積んであり、今朝食べた野菜をここから持って来たのを察する事が出来る。

「テンちゃんはお料理しないの?」

「しない。大昔に小奈多のいた世界で家族を持った時があったが、誰かしらが料理を出してくれた」

 新たな事実を聞いて小奈多は目を丸くする。

「ふふふ、1000年以上の大昔の話だ」

 話をはぐらかしてお供物の野菜を手に取る。

「うーーー、でも生のお野菜はちょっと」


「安心せよ!妾に良い考えがある!」


 自信満々に拳を握る、本殿に戻ると天狐は腕捲りをして身体をほぐす。

「妾は神通力を極めた天狐様よ、炎を操る事など造作もない!」

「おお!!!」

 小奈多がパチパチと小さな手を叩いて畏まる。

「燃えよ!!!」

 青白い炎が手の平から現れて芋を燃やす。

「ほら!どうだ!!」

「炭じゃ!!」

 真っ黒い物体を床に叩きつける。

「も、もう一回!!」

 今度は早く火を止める。

「見た目は良いけど・・・中は生っ!!」

 思いっきり口から吐き出す。

「むううう、注文が多い」

「ねえ、焼き芋ならお庭で焚き火して作れないかな?」

 自分で吐き出した物を片付けながら外を指差す。


 森の中なので落ち葉と枯れ木は沢山ある、それらを一ヶ所に集めて天狐に火を起こしてもらう。

「そのまま火の中に放り投げていいかな?」

「妾もやった事ないからなぁ」

 芋を火の中に投げ込む。手探りのまま2人で焼けるのを待つ。

「どれ」

 しばらくして天狐が火の中に手を突っ込み、真っ黒になった芋を取り出す。

「・・・熱くないの?」

「ん?何が?」

 平然としている天狐に小奈多はツッコむのを止めた。


「・・・やっぱり中まで火が通ってないね」

「だが炭にはなってないから食べれるぞ?」


 2人で炭のような見た目の芋を食する、さっきよりは大分マシになったが・・・

「美味しくないね」

「うむ」

 背に腹は変えられないので食べ進める、ここでふと小奈多が思いつく。

「芋以外にもあったじゃん!!」

 そう言うと丸い緑色の葉野菜を持ってくる。

「きっとこれキャベツよ!これを焼いてみよう!!」

 さすがに焚き火の中に投げ込むのは不味いと思ったのか、木の枝に葉を刺して火に近づける。


 周囲に野菜の焼けた良い匂いが漂う。


「いけるか?」

 期待を込めて小奈多は口に運ぶ。

「食べれない事はないけど・・・味がしない」

 シャクシャクと良い音を鳴らして噛むが美味しくはなさそうだった。

「んああ、ハンバーガー食べたい、たこ焼き食べたい、ポテチが欲しいよぉ!!!」

 食べ終わった後駄々をこねる、天狐は謎言語に理解に苦しむ。それでも余程空腹だったのか焼いた野菜は全て食べ尽くしてしまった。

「ふむ、人間のいる集落にいけば何らかの食べ物があると思うが」

「集落?」

 難しい言葉に小奈多は首を傾げる。

「えーーーと、街?そう人の住む街の事!」

「街!?街があるの!?」

 興奮した様子で天狐に飛びつく。

「それなら明日にでも行ってみるか?」

「うん!!」

 こうして小奈多の1日目が終了した。




読んでいただきありがとうございました。


相変わらず好き勝手小説を書かせてもらってます、今回は一度書いてみたかった異世界転移ものです。

この小説は現在連載中の「母は生まれ変わりて騎士になる」が書き終えたら次の連載に考えていた作品で、今回はプロローグ的な投稿になってます。内容的に異世界転移ものでハイファンタジーなのかローファンタジーなのかヒューマンドラマなのか分類は難しいです、誤りがあれば訂正したいと思います。


次話は今晩投稿するつもりですので、良かったら続けて読んでみて下さい。

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