体育館
「絶対ここだろ」
「絶対ここね」
体育館の扉は開け放たれていた。ただ、そこに出入りするのは生徒でも近隣の住人でもない。黒い体に赤い模様の入った蜘蛛のモンスターだ。見た目でいうとセアカゴケグモに近い。ただ、サイズが全然違う。象亀のようなサイズの蜘蛛だ。
「さっき校舎にいたのは幼体だったみたいだな」
「ねぇ。あの繭みたいなモノの中身って……」
蜘蛛のモンスターの中には白い繭のようなものを引き摺っているやつがいる。それはちょうど人間ぐらいのサイズだ。
四辻の杖が青白く光る。
「やぁっ!」
繭を引き摺る個体に火球が命中した。瞬く間に火球が蜘蛛を包み、大きく燃え上がる。どうやら、本当に火に弱いらしい。
「成金マン!」
「任せろ! 【成金ダッシュ!!】」
白く大きな繭に向かってダッシュ。それを抱えて体育館から離れた。誰もいない教室に入り、そっと繭を寝かせる。
手をベトベトにしながら繭を破ると、老婆の顔が出てきた。顔色は悪いが、死んでいるわけではなさそうだ。
「大丈夫? 生きてる?」
教室に入って来た四辻の顔は真っ青だ。
「息はあるようだ。眠らされているだけかもしれない」
「体育館の中、どうなっているのかな?」
嫌な光景が脳裏に浮かぶ。
「急ごう!」
「うん!」
教室から飛び出し、体育館を目指した。
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暗い体育館の中に吊るされてゆらゆらと揺れる物体。それは先程見たものと同じだ。一体、どれだけの人が捕まっているのだろう。
蜘蛛のモンスターは俺達のことなどお構いなしに作業を進める。さっき仲間が倒されたばかりだというのに、気にならないのか?
人型のモンスターはかなり知性が高そうだったが、他はそうでもないらしい。
蜘蛛達の淡々とした様子に、四辻の杖が青白く輝く。
直ぐそばにいた一体の蜘蛛が反応するが──。
「やぁっ!」
火球がぶつけられ、そのまま燃え上がる。その炎を見て、周りの蜘蛛がさっと飛び退いた。
「奴等は火を恐れている! 行けるぞ!!」
「任せて! 伊達に火遊びばっかりやってないから!」
やっぱり火遊びやってるじゃん!!
逃げる蜘蛛に向けて火球が連続して放たれる。その度に蜘蛛は燃え上がり、暗かった体育館が照らされた。
火がついたまま逃げる蜘蛛が他の蜘蛛とぶつかり、連鎖するように燃え広がる。そして、全貌が明らかになってきた……。
「何あれ……」
「デカすぎるな……」
体育館の前方、ステージ上に構えているのは桁外れにデカい蜘蛛だった。脚まで入れると二十メートルはありそうだ。
大蜘蛛は周りの騒ぎが見えていないかのように落ち着いている。そして、ゆっくりと白い繭を口に運んでいた。
「許せない!! 燃えろ!!」
特大の火球が大蜘蛛に向かっていく。がっ──。
シュウウゥゥゥッ!! と気の抜けた音とともに白い糸が吐き出され、火球が絡め取られた。
なんだよ、この蜘蛛! 尻からじゃなく、口から糸を出すのか!?
「もう一度!」
ムキになった四辻が特大の火球を連発するも、全て白い糸に巻き取られ、体育館を照らすばかり。
「はぁ……はぁ……」
スキルの使い過ぎか? 四辻は急にガクンと膝を落とした。
「成金マン……お願い。何とかして」
こんな場面で女子高生に頼られたんだ。中途半端は出来ない。
「任せろ。派手にいく」
俺はリュックからあるものを取り出した。