到着
途中で休憩を挟みながらだったが、三駅分の距離を十五分程で踏破した。【成金ダッシュ】とレベルアップの恩恵は素晴らしい。今度外出する時はちょっといいスニーカーにしよう。更に移動速度が上がる筈だ。
「成金マン。ありがとう」
俺の腕から降りた四辻は真剣な顔をしていた。その視線の先には『清良女子高等学校』の文字がある。いよいよ目的地だ。
校門は開かれている。もしかしたら地域の緊急避難場所に指定されているのかもしれない。となると、高校の近所に住んでいるらしい四辻の親友もここにいると考えるのが自然だ。
「……行くか?」
「うん」
駅前だというのに人気がない。皆、避難したのだろうか? 妙な静けさが俺達の足を鈍らせる。何かの伏線のように感じられる。
「何処から探してみる?」
「先ずは自分のクラスかな」
四辻に導かれ校舎に入る。やはり静かだ。誰もいないのか? それとも……。
階段を上がり、二年生のフロア。四辻は二年三組らしい。ここからは俺が先頭に立ち、進む。四辻は後ろで杖を青く光らせている。いつでも火球を出せるように。
廊下に面した教室の窓は磨りガラスで中は見えない。電気はついてないようで、暗く見える。いや……暗過ぎる。何故だ?
深く息を吸ってから、教師の入り口のドアに手をかけ、一気にスライドさせた。拳には相変わらずロレッタス・サブマリーナ。モンスターが出ればいつでも打ち抜ける。
「えっ……」
背後の四辻が教師の様子に困惑の声を上げた。それはそうだろう。壁や窓、黒板に至るまで白い糸のようなものがベッタリと貼り付いていたのだ。
「蜘蛛の糸……なのか?」
「そんな気がする」
幸い、教室の中に蜘蛛のモンスターの姿は見えない。何処かへ移動したようだ。興味本位で糸を触ると、手にベッタリと絡みついた。これが身体についたら大変だ。
結局、教室の中には手掛かりはなかった。廊下に戻り作戦会議。
「四辻。次は──」
「危ない!!」
四辻が俺の背後に向けて火球を飛ばす。フルフェイス越しにも熱気が伝わった。慌てて振り向き、拳を構える。
天井に炎に包まれる蜘蛛がいた。大きさは猫ぐらいだ。少しすると脚を折り畳み、体を丸くして廊下に落下した。死んだようだ。
「助かったよ。ありがとう」
「たまには私も活躍しないとね!」
蜘蛛のモンスターは火に弱いのかもしれない。俺には遠距離攻撃の手段がないし、四辻の【火遊び大好き】のスキルに感謝だ。今回の件が片付いたら、校庭で思う存分、焚き火をさせてやろう。
「なぁ。何処かに蜘蛛の巣があるんじゃないか?」
「私もそんな気がする」
「蜘蛛が巣を作りそうな場所……」
「うーん、体育館かな?」
「さっきみたいに蜘蛛のモンスターが不意打ちしてくるかもしれない。死角を作らないようにしながら進もう」
四辻はコクリと頷き、杖を握りしめた。