新しいスキル
ステータスと呟き、左の掌を確認する。そこには俺の成長が記されていた。今日倒したモンスターはワイバーンにゴブリン、サンドワーム。そして武人のミノタウロスだ。その経験が俺をレベル15へと押し上げていた。
そして何より、新しいスキルが生えている!
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HN :未設定(影山聡太)
レベル:15
スキル:成金パンチ
:成金ダッシュ
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【成金ダッシュ】かぁ……。なんとなく想像が付くんだけど……。
指でタップすると【成金ダッシュ】の説明が浮かび上がる。
『足に履いたモノの値段を移動速度に変換出来る。※5秒間のみ』
やはりか。成金パンチと似たようなスキルだ。
今履いているのは普通のスニーカーだ。新品で一万円もしない。履き潰した今だと百円の価値とかあるのだろうか? とりあえず試してみるか。
【成金ダッシュ!】
叫んでから一歩踏み出すと、グンっと身体が持っていかれる。一瞬で10メーター以上進んだ。危なくビルに衝突するところだった。
「成金マン……。今、瞬間移動した?」
四辻が信じられないという顔をしている。
「どうやら新しいスキルを覚えたみたいだ」
「またスキル名を叫ばないと発動しないやつ?」
その可能性は高い。普通に歩いても移動速度は変わらない。しかし──。
【成金ダッシュ!】と叫んで足を踏み出すと、物凄い速度で移動する。クソッ! なんで無詠唱で発動しないんだよ!
「【成金パンチ】と【成金ダッシュ】……」
「うるせえ! 強力なスキルには制約が付きものなんだよ!」
ジト目の四辻に声を荒げてしまった。恥ずかしいからフルフェイス被ってるんだよ! 気付いて!!
「怒らないでよ! 私、褒めてるんだよ……?」
「絶対褒めてない!!」
「うん。褒めてません!!」
「嘘は突き通して!!」
四辻と掛け合いをしているうちに、周囲の人々はタクシー待ちの列に戻っていく。さて、どうしたものか。【成金ダッシュ】で移動すれば、目的の高校までは直ぐだろうけれど、俺だけ行っても仕方がない。
「ふざけるのはこれぐらいで。成金マン、前か後。どっちがいい?」
四辻が極めて真面目な顔で尋ねる。前か後? どういうことだ? 何かの謎かけか? 俺は試されている?
「……前で」
「分かったわ」
四辻は俺の目の前までやって来て、「ほらっ」と顎をしゃくる。いや、どういうこと? これ、何の合図?
「もう! 鈍いわね! 早く私を抱っこして【成金ダッシュ】で移動してよ!」
えっ! ミニスカ女子高生を抱っこするの? 引き篭もり三十代にはハードル高すぎなんですけど!!
「急いでよ! 親友が危ないかもしれないのよ!」
「はい!!」
四辻の気迫に押され、その身体を横抱きにする。レベルが上がったせいだろうか? 全然重たくない。これなら大丈夫そうだ。
「では、行かせて頂きます。【成金ダッシュ!!】」
風景が線になって流れ始めた。