女子高生
「この豚野郎! 覚悟しなさい!」
「ふん! 人間風情が生意気な! 慰み者にしてやる」
スーパーから少し行ったところにある公園。
俺の前ではショートカットでミニスカートの女子高生とオークが戦いを始めようとしていた。普通なら女子高生を止めるべきだ。
しかし、俺は静観していた。何故なら、女の子の手に杖が握られていたからだ。そして勝ち気な表情でオークを睨んでいる。
オークが棍棒を大上段に構えると、女子高生の持つ杖が青白く輝いた。
「やぁっ!」
杖の先からバスケットボール程の火球が飛び出す。それは一直線にオーク目掛けて飛んでいき、豚面を包んだ。
苦しそうに悶えるオーク。窒息したのか、やがて膝から崩れ落ちた。
「ふぅ……」
実は緊張していたのか、女子高生は息を吐き額の汗を拭っている。
「お疲れ様」
人の戦いを見るのはなかなか面白い。少しテンションが上がってしまい、女子高生に話しかけた。
「何よ、あなた。新手のモンスター?」
「違うよ。人間だよ」
うーん、まぁ。フルフェイスの全身黒ずくめだからな。怪しまれても仕方がない。
「まぁいいわ。もし怪しい動きをしたら丸焼きにするから。オークみたいになりたくなければ、さっさとどっか行って」
なかなか気の強い女の子だ。引き篭もり三十代男性には荷が重い。こだわる必要はないし、公園から立ち去ろうと──。
急に地面が揺れだす。
公園の砂場からものすごい勢いで砂や石が吹き上がった。これは……何か出てくる。
「ギョワァァァァアアア!!」
サンドワーム!? 直径二メートルはあるだろうか。鋭い牙が丸い口にギッシリと並び、胴体は弛緩と収縮を繰り返している。
「今度は何よ! 次から次へと!」
女子高生はまた杖を構える。やる気なの? ちょっとサイズ的に無理じゃないか?
「逃げた方がよくないか?」
「私のスキルは最強よ!! 黙って見てなさい!!」
杖が青く輝く。先程よりも光が強い。本気ということか。
「やぁっ!!」
オークの時よりも大きな火球が飛び出す。
サンドワームの胴体にぶつかり、嫌な臭いが公園に広がる。火球は表皮に絡みつくように燃え上がり、強い光を放ってから消滅した。
サンドワームは痛覚がないのか特に反応がない。そして炭化した表皮が蠢いたかと思うと、直ぐに元通りになった。
「治った!?」
女子高生は飛び退きながら、驚きの声をあげる。どうやらサンドワームは自然治癒の力が強いらしい。火球で炙られた程度なら、直ぐに元通りになるようだ。
「このっ!!」
再び火球。燃え上がる表皮。しかし逆再生するように元通りになる。女子高生は何度も何度も火球を飛ばすが、結果は同じ。随分と熱くなっているようだ。
「ゴゴゴゴ……」
サンドワームが大きく息を吸い込み、周囲の石や砂が引き寄せられる。そして胴体がぱんぱんに膨らんだ。あー、これはやばいやつ。さっと、公園のトイレの裏に逃げる。
「ギョワァァァァアアア!!!!」
トイレの裏にまで突風が吹きつける。
おさまったところで表に出ると、女子高生は地面に吹き飛ばされている。意識はあるようだが、動きが重い。そして何より杖を離してしまったようで素手だ。
サンドワームが大口を開けながら、女子高生に迫る。彼女は動けない。仕方がない。やってみるか。
「おいミミズ野郎! 俺のことを忘れてないか?」
音に敏感なサンドワームは動きを止めてこちらに頭を向ける。俺は急いで女子高生の側まで行き、拳を構えた。
「素手で戦うなんて……」
「まぁ、見てなって」
俺はロレッタス・サブマリーナを握りしめ──。
【成金パンチ!】
ドバンッッ!! とサンドワームの頭が吹き飛んだ。しかし胴体はまだ蠢いている。再生するのかもしれない。ならばもう一発。二発。三発。
【成金パンチィィ!】
【成金パンチィィ!!】
【成金パンチィィィィ!!!!】
もう大丈夫だろう。サンドワームだったものはただの肉塊だ。フルフェイスに飛び散った体液を拭い、辺りを見渡す。
女子高生は先ほどと変わらず、地面に尻もちをついたままだ。
「……あなた、何者?」
何者……。ここまで変装しているのだ。本名を名乗っては意味がない。
「……成金マンだ」
「成金マン……。覚えたわ」
そりゃ覚えるだろ。成金マンだぞ。
「あっ、そうだ。苺食べる?」
俺は左手のレジ袋から苺を一粒取り出して、女子高生に差し出す。
「白い苺……。これ、すっごく高いやつよね?」
「成金マンだからな」
起き上がった女子高生は嬉しそうに苺を受け取り、ペロリ。ニコニコしている。
「ありがとう。助かったわ。私は四辻茜よ。この近くに住んでいるの」
「制服姿だが、まさか学校に行くつもり?」
「うん。朝から親友と連絡取れなくて。その子、高校の近くに住んでるから様子を見に行こうと思って」
「親は止めないのか?」
「内緒で飛び出してきた」
「親は家に?」
「そうよ。お父さんもお母さんも結構強力なスキルを手に入れたから大丈夫」
うーん。結構この子、無茶苦茶だな。
「ねぇ、成金マン」
「なんだ?」
「もし良かったらだけど、一緒に高校まで来てくれない? さっきみたいなモンスターが出て来たら、私にはちょっと無理かもしれないわ」
うおっ! いきなり女子高生とツーマンセルかっ! 引き篭もり三十代男性には刺激が強すぎるんですけど!!
「別にいいけど……」
「本当!? 良かった……!! 清良女子高等学校ってわかる?」
「あぁ。三つぐらい先の駅前にあるところだろ?」
「そう! よろしくね!」
四辻は笑顔で俺の横に並んだ。




