ヒーロー誕生
朝六時に差し掛かろうというタイミング。
雑魚モンスターの出現がピタリと止まった。
それまで走り回っていた自警団のメンバー達が集まり、警戒体制を敷く。皆分かっているのだ。大物が現れると。
中空に黒いモヤが見えた。
モヤは段々と大きくなり、周囲の空間が歪み始める。
最初に出てきたのは青白い火の玉だった。火の玉はふわふわとモヤの周りを飛び始めた。
白い骨がモヤから落ちた。最初は一本、二本。やがてガラガラと夥しい量の骨が落ち、地面に山を作る。
火の玉が骨の山の上で静止した。
──ゴクリッ……。
誰かの唾を飲み込む音がした。
それが合図だというように、骨が人型に一気に組み上がり火の玉が頭部に収まった。そして黒いモヤが身体を包み、マントになる。
アンデッドだ。その手に杖を持っていることから、魔法攻撃があるかもしれない。
「師匠。僕がやります!!」
戦隊モノの衣装を見に纏ったMr.センシティブこと、タダシが一歩前にでた。配信者達がカメラを向ける。
「僕はMr.センシティブ! 地球は僕が守る!!」
タダシは本当にヒーローになりたいらしい。わざわざ名乗りを上げた。四辻が「なにあれ?」と視線を送ってくるが、とりあえず戦いに集中だ。
アンデッドはカタカタと顎を鳴らし、杖を構えた。俄に光が集まる。来るぞ。
──バリバリバリッ!! と空気を引き裂く音がして、杖から発せられた稲光がタダシを射抜く。
タダシはその衝撃に膝をつくが、怪我をした様子はない。HPの壁が守ったのだ。
「成金マン! 今のダメージ、四億超えたよ!!」
慌ててステータスを開いて被ダメランキングを見る。
■被ダメージランキング(日本)
1.Mr.センシティブ(410000000)
2.G1028654(53000)
3.G1024525(49000)
4.G1027332(47000)
5.G1026127(45500)
6.……
7.……
四億一千万ダメージ……!? 桁違いのダメージだが基準がタダシなので、実際にどれぐらいの攻撃なのか全く分からない。
「ふん! もうそれでおしまいか? たった四億一千万ダメージじゃないか!!」
タダシはステータスを確認しながらアンデッドを威嚇する。配信者達も慌ててランキングをチェックしている。
また、アンデッドの杖が光った。それに呼応するように空に怪しい雲が生まれる。その雲から出てきたのは焼けるように真っ赤な巨大な拳。これは召喚魔法なのか?
拳は雲から伸びて、タダシに迫る。そして、そのまま殴り飛ばした。
──ドバンッ! と衝撃が大気を揺らし、タダシの身体が吹っ飛ぶ。民家を数軒突き破り、路駐してあった大型バンにぶつかってやっとタダシは止まった。
粉々になったフロントガラスの上で、タダシはゆっくりと身体を起こす。
今のはいったい、何ダメージなんだ?
■被ダメージランキング(日本)
1.Mr.センシティブ(1000000000)
2.G1028654(53000)
3.G1024525(49000)
4.G1027332(47000)
5.G1026127(45500)
6.……
7.……
うん……? これは十億なのか? ゼロが多すぎてよく分からない。
タダシは走り出す。そのスキルに目が行きがちだが、タダシのレベルは決して低くない。身体能力も相応だ。
あっという間にアンデッドに肉薄し、手を突き出した。これは……まさか……。
【オーバーヒール!!】
眩い光がアンデッドを包み、甲高い悲鳴が聞こえる。苦しんでいるのか? アンデッドに回復スキルを使うと、ダメージを与えられる……!?
悲鳴が絶叫に変わり、やがて静寂が訪れた。
アンデッドはタダシの【オーバーヒール】で完全に消滅した。配信者達が大はしゃぎでタダシを囲む。
「悪は滅びた」
タダシの決め台詞を聞いて、四辻がまた「なにあれ?」と視線を送った。
ふと気になって、ステータスを開く。そして与ダメランキングをみると──。
■与ダメージランキング(日本)
1.Mr.センシティブ(100000000)
2.成金マン(90000000)
3.虹丸(3000000)
4.ヘルゲイト(53264)
5.稲田先生(23245)
6.トシロー(18543)
7.……
まさか、与ダメランキングを抜かれるとは……。
ヒーロー誕生の瞬間だった。




