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お買い物

 月曜日のモンスターの襲来が終わると、人類には束の間の日常が訪れる。学生は火曜日から金曜日まで学校に通い、社会人も然り。


 土曜日は完全なオフで街は人で溢れる。


「成金マン! 私服じゃないの!?」


 相変わらずミニスカートの四辻が俺の服装にケチをつける。


「これが私服だ」


「いつもの成金マンの格好じゃない。今日は土曜日よ? 普通の格好にすればいいのに」


「いつ戦いになるか分からない。素顔で成金パンチを使ったら正体がバレてしまうだろ?」


 四辻は「はぁ」とため息をついて周囲を見渡し、「滅茶苦茶目立ってる」と吐き捨てた。


 県で最大のターミナル駅に俺は呼び出されていた。相手は四辻。そして──。


「遅れてすみません!」


 ベージュのワンピースに身を包み小走りで現れたのはリカだ。大蜘蛛に囚われていたあの日はパジャマ姿だったので、随分と印象が違う。


「絶対遅れると思ってた! リカ時間通りに来たことないもんねー」


 四辻が揶揄うと、リカは苦笑いしてまた謝る。


「じゃあ、早速行くか。武具屋へ」


 そう。ここに集まった理由は装備を充実させるためなのだ。


 モンスターの襲来が定期イベント化した今、自分の命は自分で守るのが基本だ。もちろん警察や自衛隊も戦ってくれるが、モンスターは全国に一斉に沸く。とても手が回らない。


 だから死なない為の準備が必要なのだ。



 駅のロータリーを見下ろすように建てられたビルの一フロアに武具屋『フロンティア』はあった。最近オープンしたばかりだが、既製品やモンスターからのドロップ品が所狭しと並べられている。


「成金マンはさぁー、攻撃力とスピードはあるけど防御力が紙だよね?」


 防具コーナーを物色しながら四辻はたのしそうに言った。


「最近はレベルが上がったから紙ってことはないぞ。ただ、防御系のスキルはないから、殴られれば普通に痛い」


「成金マンさんに何かあると大変です! ちゃんとした防具を買ってください! 例えばこの黒い鎧、よくないですか?」


 リカが指差したのは凶々しいオーラを放つ黒い西洋風の鎧だった。「鑑定済み。防御力50万」とある。普通の服は防御力10とからしいので、雲泥の差だ。


「300万円だって……」


「よし。買う」


「「えっ!!」」


「300万で命が助かるかもしれない。安いもんだろ? 四辻とリカも防具を選べ」


「それって……買ってくれるってこと?」


 四辻とリカが申し訳なさそうにしている。


「当たり前だ。金をケチッて死なれたら寝覚めが悪い。ただし、ちゃんと実用性で選んでくれよな?」


 元気に返事をして、二人は女性モノのコーナーへと小走りで向かっていった。女子高生らしいテンションに、なんだかほっこりしてしまう。


 さて、一人になったところで厄介事を片付けよう。


「おい。そこの帽子の男。俺のことを盗撮しているな?」


 俺から微妙に距離を取りながら、バッグをこちらに向けている男。駅からずっと付いて来ていたので間違いないだろう。


「……えっ、してません……」


 声は若い。見た目の雰囲気と合わせると20台前半だろうか?


「最近よくTwittorに晒されるからな。さぁ、カメラを出せ」


 一歩踏み出すと、帽子の男はくるり向きを変えて逃げようとする。愚かなことを──。


【成金ダッシュ!】


 先回りして通路に立ちはだかる。何事かと人々の視線が集まった。


「ひっ!」


「さぁ、カメラを出せ! 気持ちの悪い奴だな!!」


「うごっ!!」


 俺の言葉を聞くと男は蹲り辛そうにする。


「どうした……?」


「ちょっと、言葉でダメージを受けてしまって……」


「めちゃくちゃセンシティブだな。ところで、カメラは?」


「ほ、本当に盗撮なんてしてないです……」


「じゃあ、なんで俺達をつけていた?」


「じ、実は……」


 男は立ち上がり、帽子を取った。


「ぼ、僕に成金マンさんの弟子にしてください……!!」


 この男、何を言い出すんだ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] >防御力50万 大して時間が経ってないのにこんなバカみたいな防御力の鎧が作れるなら、成金マンはそのうちインフレについて行けなくなるんじゃ…… まあ文字通り通貨がインフレするとさらに化け…
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