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幻の

 エラーコインとは、本来なら市場に出回る筈のない不良品の硬貨だ。例えば穴の空いていない五円玉だったり、刻印のズレている十円玉だったり。


 当然だが、エラーコインは珍しい。好事家の間では額面の何十倍もの値段でやり取りされる。つまり、コレクターズアイテム。俺の守備範囲だ。


「……なんだそれは?」


 すっかり物見モードの虹丸が俺の指に摘ままれたコインに注目している。


「エラーコイン」


 虹丸が首を傾げる。サイクロプスも不思議そうに俺を見下ろしていた。


「これはかつてイギリスの植民地だった土地の硬貨。宗主国のイギリス国王の顔を刻むべきだったのに、何故か全くの別人が描かれ、そして流通してしまったという逸品だ……!!」


「蘊蓄はいいからさっさと戦って!!」


 全く。四辻は理解がないな。これだから若いやつは。


「成金マン! 来るぞ!!」


 身体が陰になる。見上げると、大きな足が俺を踏み潰そうとしていた。しかし──。


【成金ダッシュ!!】


 爆速で躱し、後ろに残ったサイクロプスの足に近づく。俺は幻のエラーコインを一枚、拳に握り込み腕を引いた。


【成金パンチ!!】


 ドゴンッ!! と足が吹き飛び、サイクロプスはバランスを崩す。一瞬間があった後、その巨体が無様に地面に転がった。


 激しい振動に自警団のメンバーから悲鳴が上がる。そして、サイクロプスからも。


 成金ダッシュで移動し、サイクロプスの頭の側に立つ。


 怒りに満ちた一つ目が俺を睨み付けた。


 それを尻目に、俺は幻のコインをもう一枚、拳に握る。


 地響きがするほどの怒声が巨体から発せられた。


 上半身を起こしたサイクロプスが巨大な岩のような拳を俺目掛けて振り下ろし──。


【成金パンチィィ!!】


 ──俺は弾き返した。幻のエラーコイン二枚分の攻撃力は恐ろしい。血飛沫をあげ、サイクロプスの右腕は完全に消失した。


「あ゛……あ゛……ゆる゛じで……」


 一つ目が涙を流し、赦しを乞う。戦意を失ったか。


「お前は今まで、命乞いをした相手を見逃したことがあるか?」


「あ゛る゛」


「そうか」


 幻のエラーコインをもう一枚、拳に握り込んだ。合計三枚だ。


「俺は──」


 拳を腰の位置まで下ろす。サイクロプスの顔が歪んだ。


【成金ンンダァアアッシュ】


 風景が線になり後ろに流れた。グッと踏ん張り、サイクロプスの胴体に肉薄して止まる。


【成金ンンパアァァンンチィィイイ!!】


 下から拳を突き上げ、力一杯殴り飛ばす。衝撃が天空へ突き抜け、大気を震わせた。


 サイクロプスだったものは、もういない。


「──見逃さない」



 しばらくして、退避していた四辻と虹丸がのんびりやってきた。


「成金マン! そのコイン頂戴!!」


「やらん! 俺の蘊蓄を聞かないやつには絶対やらん!!」


 四辻は「ケチ!」と言って膨れる。


「とんでもない攻撃力だな。モンスターが可哀想なぐらいだ」


 虹丸はやれやれと呆れた様子だ。


「虹丸のスキルもなかなかだったぞ。なんと言ったかな」


「【レベルリリース】だ。レベルを解放することによって一時的に爆発的な攻撃力を得るスキルだ」


「レベルは下がったままなのか?」


「そりゃ、そうだろ。強力なスキルには制限がつきものだ。成金パンチだって何か制限があるんだろ?」


「いや、ないな」


「……とんでもないチートスキルだな」


「そうよ! ずるいわ!!」


 四辻が便乗して騒ぎ始めた。面倒くさい。


「ところで! 俺と虹丸の勝負だが……」


 虹丸は自分の腕時計を眺め、悲しそうな顔をする。


「俺様の負けだよ。持っていけ」


 そう言って差し出されたロレッタス・デイトナ。買ったばかりなのか傷ひとつなく美しい。


「悪く思うなよ」


 俺のコレクションに新たなアイテムが加わった瞬間だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 毎回アイテム変わるけど、アイテム消費してないよね……? 自慢したくて手荷物アイテム変わるの……? [一言] 主人公が成金じゃなくなったら、能力消えるとかありそう。
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