虹丸の本気
「おい、女! 今のスコアは?」
肩で息をしながら、虹丸は審判の四辻に問いただす。
「虹丸123体、成金マンは311体よ!!」
「クソッ!!」
そう吐き捨て、虹丸は駆け出した。その後を計測係の自警団員が慌てて付いていく。俺と同じ範囲でモンスターを狩っていても勝利は遠いと判断したのだろう。
「この調子なら楽勝ね!」
白んできた空の下、四辻は弾むような声で言った。俺と虹丸の勝負を心から楽しんでいるようだ。
「勝負もいいが、そろそろ強いモンスターも現れる頃だ。小物は自警団のメンバーに任せるぞ」
振り返り、そう伝えるとメンバー達は黙って頷いた。
これまでの経験上、明け方頃になると強敵が現れ始める。例えばサンドワームやミノタウルスがそれにあたる。自警団のメンバーは戦闘スキルは持っているが、強敵を無傷で倒せる程ではない。
つまり、俺がやるしかない。被害を最小限に止めるために。
6時ちょうどのタイミング。一瞬、ゴブリやオーク等の小物にあたるモンスターの出現が止まった。
皆が黙り、周囲に緊張が走る。
──ドンッ!! と天から雷が落ち、地面に複雑な紋様が広がった。そして強い光が放たれ、モンスターの輪郭が描かれる。
デカい。今まで出会したどんなモンスターよりも。
光が収まると、その姿がはっきりした。
十階建のビルに相当する程の巨体。顔には目玉が一つだけあり、額に角が生えている。
「サイクロプスか……?」
俺の問いに答えるものはいない。四辻を含め、自警団のメンバーは言葉を失っている。
「みんな、下がって」
睨みつけると、サイクロプスはニヤリと笑った。小さな人間ごとき、相手にならないと思っているのだろう。一つ目巨人の笑みに、メンバー達がすくみ上がる。しかし──。
「その獲物は虹丸様がもらったー!!」
──虹丸は違った。
さっきまでいなかったのに、サイクロプスを見て駆け付けてきたのだろう。
「このデカブツを倒したら雑魚五百体分でいいか!?」
この男、逆転500ポイントを目指しているのか!?
「いいわよ!! 認めるわ!!」
四辻が勝手にルールを改変する。なんでもありだな……。しかし、そもそも倒すことが出来るのか? 今まで見ていたところ、虹丸はただレベルが高いだけだ。確かに身体能力は凄まじいが、それしかない。何か、奥の手があるのだろうか?
「見ていろよ!! 虹丸様の力を!!」
大見得をきった虹丸がサイクロプスと対峙する。
「デカブツよ! 死ぬ覚悟は出来たかな?」
虹丸の安い挑発にサイクロプスが動きだす。一歩踏み出すだけで地面が波打ち、建物が軋む。とんでもない重量だ。踏まれでもしたら即死だろう。
サイクロプスが腕を引き、無造作に拳を振り下ろす。
ドゴンッ!! と音がして地面が陥没した。バックステップで虹丸は躱すが、次の拳が飛んでくる。サイクロプスはその巨体に似合わず俊敏だ。虹丸に反撃する余裕はない。ちょっと……危ないぞ。
サイクロプスはその身を屈め、虹丸を覆うように手を広げた。虹丸に逃げ場はない。
どうする……? そろそろ助けるか……!?
大きな手が左右から虹丸を捕まえようと──。
「【レベルリリース! 300!!】」
虹丸が叫ぶと身体が七色に発光し、その光が手に持つメイスに乗り移った。そして──。
「オラッ!!」
ドンッッ!! と衝撃が走り、サイクロプスの右手が吹き飛んだ。続いて左手も。サイクロプスは体勢を崩し、そのまま前のめりに。待っているのは虹丸の握るメイス。
「死ねぇぇぇえええ!!」
一つ目にメイスが突き刺さる。刹那、サイクロプスの頭が爆散した。
圧倒的な暴力。【レベルリリース】というスキルの効果なのか?
巨体は崩れ、それを背にして虹丸がこちらに振り返る。
「……どうだ、成金マン。これで俺の……勝ちだ……」
虹丸は苦しそうだ。メイスを覆っていた光も消えている。時間限定のスキルのようだ。
「やるじゃないか。見直したぞ」
「へっ……。偉そうに……」
虹丸はがくりと膝を折る。相当消耗しているようだ。しばらく戦えそうにない。しかし、モンスター達に慈悲の心はなく……。
「成金マン! もう──」
四辻の言葉は天から落ちた雷の轟音に打ち消された。そして、現れたのはまたサイクロプス。
虹丸はヘタリ込み、呆然とその巨体を眺めている。
「虹丸。アイツを倒したら500体分だったな?」
「……あぁ。やれるのか?」
「俺は成金マン。与ダメランキング一位の男だぞ」
そう言って、俺はリュックからあるモノを取り出した。




