転生して魔法が使える事がわかったので、力を付けてスローライフを送るんだ!
転生物語ってよく思いつくものだと思っていた。
孫が読んでいた異世界転生物のマンガや小説を数種類読んで、『色んなとらえかたがあるもんだな』と感心していた。
そして、そんな事ありはしないと思っていた。
実際、自分に起こるまではそう思っていた。
前世での死因は外国人強盗に“フニャホニャ”訳解からん言葉でまくしたてられて、首を傾げたら相手が激昂していきなり撃たれた・・・と思う。
なんせ最後は銃口が目の前に見えただけだから。
享年63歳・・・のはず。
今、目の前には西洋系外国人(?)みたいな男女が微笑みながら私を見ているように見える。
体が思うように動かないし言葉も発することが出来ない。
何か話しかけているようだが言葉の意味が解らない。
日本語でないからなおさらだ。
私は記憶が残ったまま生まれ変わったのだと思う事にした。
ヨーロッパ圏かな?英語やフランス語、ドイツ語でもないみたい。
これから成長していくから言葉は少しずつ覚えればいい。
そして母親の乳首を咥え母乳を飲むのであった。
この世界での俺の名前は“エイト”だ。
前世は“瑛斗”同じ呼び方なので違和感が半端ない。
まるで知っていて同じ名前を付けたのではと勘ぐってしまう。
ある日家の外へ出た。
抱っこされてだが。
景色を見ると山あいの村っぽい。
そして家々は木造藁ぶき屋根。
電線なんて無い。
覚悟はしていたが、人々は化学繊維の洋服なんて着ていない。
過去に転生?
井戸から麻縄が括り付けられている木のバケツで水を汲んでいる村人がいる。
馬みたいな牛みたいな家畜っぽい生き物が畑を耕している。
地球じゃないみたいだ。
ということは異世界?
孫が読んでいた物語みたいな所?
地球の言葉で“ステータス”なんて言ったら・・・
目の前に半透明な文字が浮かびだした。
これはいったいどうゆう事なのだろう。
銃口目の前に見えた次の瞬間にこの世界に生まれたみたいだから、あの物語の様に“神”や“管理者”なる者に出会っていないしMMOなるゲームなんかやったことない。
この“ステータス”表示でなにが表されているか、まだこの世界の文字がわからない今見てもどうしようもないと諦める。
言葉は少しずつ覚えてきたが文字は早急に覚えた方が良さそうだ。
この世界で1月は30日で1年は12カ月とほとんど地球と同じである。
時計は無いが、午前と午後の概念はあるみたいだ。
日にちの変わり目は日の出が境目みたいだ。
そして、重要事項なのだが・・・トイレは汲み取り式だ。
しかも柄杓で。
汲み取った汚物は村の1か所に集め寝かし、畑の肥料にしている。
この世界で最も興味を持ったのが魔法である。
電気が無いのに家の中が割と明るいのは“明かり魔法”を使っているからだ。
その様子を毎日観察していると“魔力”なるものが感じられるようになった。
前世で孫の本ではイメージが重要とか書いてあったのを思い出した。
“ステータス”という言葉であの文字が浮き出たから適当に“水球”と心の中でビー玉位の水の球を思い浮かべる。
目の前に水の球が浮かんでいる。
宇宙船内で水っぽいものが球状になっているふよふよ感をだしながら目の前で浮かび静止している。
“消えろ”と念じても目の前に水球が浮かんでいる。
“床に向かって動け”と念じると水球は床に落ちて行き“パシャ!”と弾けた。
近くに人(両親)が居なかったので僕が魔法を使った事を知る者がいなかったのは良かった。
魔法が使える事が判明した事により、これから成人になるまでやる事が決まった。
魔法をもっと誰よりも鍛える事だ。
生まれてから15年目。
10歳あたりから周りに魔法が使える事がばれてしまったが、今日まで毎日寝ていても魔法を鍛えてきた。
この世界では15歳で成人だ。
そして成人の儀の日になった。
自分が生まれた日にちで計算するとまだ15歳になっていないが、生まれた年で計算すると15歳になるので一応成人として扱われる。
“成人の儀”は教会で女神像の持っている水晶玉に触れるという儀式だ。
この村には教会が無いので3日かけて隣街に出向かなけらばならない。
今日の“成人の儀”に合わせて3日前に村を出て当日教会に到着した。
そして一人ひとり水晶玉に触れて行く。
水晶玉に触れると女神像の上に、その者のステータスが浮かび上がるのである。
プライバシー・・・個人情報の一般公開だ。
実際この世界ではステータスは女神像の水晶玉でだけしか見る事が出来ない。
自分の“ステータス”を見る呪文は地球語(日本語や英語など)で発音しなければ発現しない事は生まれて早い段階で気が付いた。
魔法も詠唱しなければ発現しないが、地球語で心の中で発言しイメージをしっかり持つと発現する。
で、皆のステータスを見て驚愕した。
ほとんどのステータスが俺の100万分の1以下だった。
それでいて外野が大いに喜んで盛り上がった女の子のステータスは、他の子(平均)の30倍ほどだった。
ステータスの隠蔽とか改竄とかやったことないし、やり方がわからない。
なんとか今のステータスをごまかせないか頭を悩ます。
最後、自分の番になってしまった。
あきらめの境地で水晶玉に触れる。
そしてステータスが表示される。
・・・・・・・・・・・・・・・
恐ろしくて自分で見る事が出来ない。
辺りは静まり返っている。
しばしの静寂。
成人したばかりの子達がクスクスと笑い出す。
その笑い声を聞き何故笑っているのかわからず表示されているステータスに目をやると、
そこには“0”が並んでいた。
いわゆるステータスがオール0
「???」
意味が解らない。
で、自分だけでしか見れない“ステータス”を表示して見ると、ちゃんと800万台の数値が表示されていた。
そして女神像には“この水晶では4桁までしか表示できません。4桁を超えると0表示になります”と文字が浮かんでいた。
なんと女神像のステータスも自分だけ見えたのだったが、この俺のステータス魔法は他者が見る事が出来ないので、他の人からは“無能”と認識されたのであった。
かくして“ステータス全部0の無能野郎“という2つ名をつけられた俺は、意気揚々と村へと帰るのであった。
村に帰ると村の人達が喜んだ。
ステータスの結果と隣町でつけられた“全部0の無能野郎”という呼び名を報告した。
村の皆は大いに歓喜した。
なぜなら俺の魔法を知っているからだ。
外部から見ると寂れた村なのだが、建物の中へ入るとそこは別世界になっているのである。
いわゆる億ションの部屋みたいになっている。
魔力で稼働する家電みたいなものが備え付けられているのである。
ウォシュレット付き洋式便器にジャグジー付き風呂&シャワー、冷蔵冷凍庫、エアコン、全自動洗濯乾燥機、食洗器、水道、電子レンジっぽいもの、etc.・・・。
外観は掘っ立て小屋、内部は魔法で空間拡張されているから快適なのだ。
ちなみに玄関から家の中に他者が入ると昔ながらのひなびた内装だが、登録されている者のみが建物内に入ると拡張&豪華仕様になるようにしたのである。
勿論登録者はこの村の人全員だ。
外部から尋ね人が来ても今まで通りのボロボロにしか見えない。
この快適空間の維持には俺の魔力が不可欠なので、成人の儀でとんでもないステータスが表示されれば王都に連れていかれると思っていたみたいだった。
が、ふたを開ければ“オール0”の”無能野郎“。
無能野郎である俺は、これからもこの村でのんびり優雅にスローライフを送る予定である。
成人の儀が終わり“オール0の無能野郎”と言われた少年がニコニコ顔で喜びの表情を抑えながら帰って行く姿に疑問を覚えた者が居た。
同じ日に成人の儀で他者の30倍の数値をたたき出していた少女だ。
彼女はたまたま外遊中に成人になったこの国の侯爵の娘だ。
幼い頃より英才教育を受け魔法の練習を受けていた為、この町の誰よりも魔法に関して知識がある。
彼女は他者の魔力の流れが感知できるくらい、かなり有能だったのだ。
だが今まで完全に魔力が感知できない人間と出会った事が無いのも彼女にとって事実である。
そんな中、完全に魔力が感知できない人を目の前で見、そしてステータスには“0”がずらりと並んでいた。
彼女は思った。
『人間以外の生き物全てにおいても魔力が備わっているのに、完全“0“なんて生き物は存在しないはず。なのに彼は何故生きているの?しかもこの結果を喜んでいるようにしか見えなかった。』
そんな彼女に話しかける母親。
「どうしたの?能力値に不満があったの?」
「いいえ、少し気になった事がございまして。」
「気になった事?」
「ええ、先ほどの“0”の子が少々。」
「あら、あの“0”子が好みなのかしら?」
「い、いや!そんなんじゃなくって。」
「ふふふ、照れちゃって。でもあの子は農家の子よ。身分上結婚は出来ませんですわよ。」
「ですから、そういう事ではなく、ただ魔力“0”で生きているなんて不思議だと思っただけです。」
「言われてみれば確かに不思議よね。でも本人は問題無さそうだから良いのでは?」
「“0”の結果に喜んでいたように見えたものでして・・・。」
「ただ“0”の意味が分らなかったのでは?」
「意味を知っていて喜んで見えました。」
「王都へ帰る前に少しばかり寄り道していきましょう。」
「はい、お母さま。」
成人の儀から10日目。
俺の村に立派な馬車がやって来た。
「お貴族様がやって来たぞ。」
警備担当の村人が慌てて村長宅へやって来た。
前触れもなくいきなりやって来た貴族様。
なぜこの村へ来たか尋ねると、オール”0“の少年に会ってみたいとのことだそうだ。
俺は仕方なくいつもの汚いボロボロの服に着替え、体中に泥やほこりを塗りたくってから雑巾で軽く拭いて馬車の方へと走って行く。
馬車の中からあの時の30倍少女が俺をじっと見つめている。
何をジトっと見ているのかわからないから思わず鑑定をかけてしまった。
その瞬間、彼女はめを見開いた。
『やべ!ばれたかも。』
それでも彼女はまだ俺をジトっと見ている。
鑑定:魔力状態を監視(微鑑定)中
「あなた・・・いったい・・・。」
何を言いたいかわからないが、ごまかす為に
「おいらエイトだ です。」
「あなたの魔力が一瞬見えた気がするけれど、あなたはなぜ魔力が無くていきているの?」
「え?魔力が無くて生きている?何?」
「この世の生き物は全て魔力なしには生きていないはずなのですけれど。それなのにあなたはなぜ?」
「さぁ・・・わかんない・・です。」
「あらあら、この子が気になってしょうがないみたいですわね。ボリス家で雇いましょうか?アリス。」
この子の名前はアリスって言うんだ。
と言うよりも村民の表情が強張った。
村民の思いは一緒。
『この快適生活が終わってしまうかもしれない。』
「1年程我が家で雇いましょう。すぐに準備をしてちょうだい。」
有無を言わさない貴族の一言。
「承知いたしました。」
沈む村長の声。
僕は村長に
「一応あと3年は大丈夫だから、それまでには帰ってくるから。」
と耳うちをした。
この言葉を聞いた村長はほっとした表情で村民たちをみまわして頷いた。
そして俺はこの村からボリス領へと連行されたのであった。
村に帰るまで2年かかった。
1年程とは最低1年と言う意味合いだった。
侯爵邸では雑用を行っていた。
俺の魔力“0”は2年間変わらず、結局「オール“0”の無能」は無能のままだった。
ここで何故俺がバカみたいな魔力が有るかと言うと、幼い頃からの独自鍛錬によるものだ。
体内の魔力の流れを認識してから、流れる魔力の速度を自在に操れるように訓練。
その次に、魔力の流れる向きを変える訓練。
そして魔力の流れる場所を自由自在に操る訓練。
これらが簡単に且つ無意識下でも行えるようになるまで2年かかった。
この段階で魔力量が今のアリスの10倍程度になっていた。
それから魔力の流れる道“魔路”を2本を撚り合わせる形にし、1本1本正逆方向に同量同速度の魔力を流すと、傍から見ると魔力が感じられなくなる事に気づいたので、体中の魔路をこのようにいじった。
お互い力を打ち消しあうが、魔力が流れているので正確には“0”にはならない。
さらに、この魔路を超々極細に且つ2本一組を4本一組・6本一組と増やしていき、今は12本一組で体内魔路を維持している。
この魔路を流れる魔力の速度を当初秒間1cm程度の速度で流していたが、現在は0.1秒で体内を1週している。
無意識下での話である。
この世界での細胞は魔力が全く届かなければ壊死してしまう。
その為に全身には魔力を行き渡らせなければならない。
なので魔力を打ち消す方向で流すと全身を巡る前に消えてしまう。
全身を巡らせるには、かなりの量・質の魔力をコントロールし出力しなければならない。
その結果魔力切れギリギリの状態になってしまう。
それを赤子の時からずっと行って来た俺は“○人の星”で出てきた、バネの間に肉挟まったらチョー痛そうな“○リーグ養成ギプス”の魔力版を使っているようなものだ。
この魔力切れギリギリの状態を常時維持していたので自身の魔力量が徐々に増えて行き、少し魔力量が増えるたびに流す魔力の速度やら密度やらを高くしていった。
現在17歳。
15歳の時の2千倍魔力量が増えている。
ちなみにアリス嬢は15歳の時の6倍ほどまで増えていた。
それは侯爵邸の魔導師長と同じくらいの魔力量だ。
15歳当時の子供の平均値が10としたら
現在のアリス嬢で1,800。
俺で16,000,000,000(160億)、アリス約890万人分だ。
ちなみに体を動かすのに、この世界の人達は魔力を使い身体強化をしているので必ず魔力が漏れる。
俺は魔力をお互い打ち消しあうように完全にコントロールしているので、身体強化に魔力は一切使っていない。
純粋に筋力のみで行動しているので、魔力が漏れる事はほぼ無い。
いざと言うときは魔力で身体強化をするので“ほぼ”という表現になる。
が侯爵邸での2年間は絶対に身体強化を行わなかった。
2年ぶりに村に帰り、実家に入った。
そして一直線にトイレへ。
洗浄温水便座気持ちいい。
トイレで寛いでいると誰かが家に押し入って来た。
アリス嬢だ。
だが、彼女の見た家の中には誰も居ない。
彼女は確かにエイトが家に入ったのを確認してから、強引に家の中へ入って来たのである。
「おかしい、確実に家に入ったのに、エイトも家族も居ないなんて・・・。」
家の中の俺達家族は目の前にいるアリス嬢を見ているし独り言も聞いている。
もちろん、空間魔法でお互い別次元に居るので高次元側のこちらは低次元の向こう側を見る事が出来る。
低次元側からは認識することは不可能だ。
俺は家の外を確認できる仕様にしていなかった事に後悔した。
公職邸では四六時中アリス嬢や間者の監視の目にさらされていたから常に気を張っていたが、ようやくお役御免で帰宅したので、思いっきり気を抜いていた。
裏口を作っておけばよかった。
帰ってくれることを祈るばかり。
「なんであの嬢ちゃん、うちに来たんだ?しかもいきなり勝手に入ってくるし」
「エイト、あんたあのお嬢様に何かしたの?」
「わからんし、何もしていない・・・はず。でも2年間四六時中監視されていたよ。」
ほんと訳解からん。
かなり時間が経ったが出て行こうとしない。
俺達はこちらの空間で風呂に入り、料理を食べ、今お茶を飲みながら玄関にいるアリス嬢を見ている。
「夜になっても帰ってこないなんておかしい。絶対何か秘密があるんだ・・・。」
「もう彼女に秘密打ち明けても良いんじゃない?」
母さんの一言。
「仕方ない・・・」
彼女の目の前に俺が姿を現す。
「ひっ!」
彼女の小さな悲鳴が静かな家の中に響く。
「ゴメン。」
と一言彼女の手を握りこの空間へ連れ込む(言い方・・・)。
この世界では見た事も聞いた事も無い空間魔法による室内にきたアリス嬢。
「これ・・・は・・・いったい何!」
「えっと、空間魔法?みたいなもの。」
「そんなの聞いた事無い!なんなんなんなの・・・」
“チン! ガチャ!”
電子レンジっぽいのから温められたスープを取り出しアリスへと渡す。
「まずこれを飲んで落ち着こう。」
アリスが落ち着いた所で自分の魔法でこの空間を維持・運用している事を説明した。
風呂・トイレ・冷蔵庫等々案内した。
最後に魔力“0”の秘密の種明かしをした瞬間、彼女は失禁して気を失った。
魔路を体内から体の表面へと移動させたのだ。
アリスは俺を凝視していたから、その瞬間は超高濃度の魔力の紐が認識できたのだろう。
そして徐々に体全体を認識していく。
魔力がはっきりと見えてしまう弊害だった。
判りやすく説明するので想像してみよう。
全身隙間なくびっしりと埋めつくし
とても元気で激しく動きまわる
イトミミズ
の大軍を。(ミールワームでも良いが)
一言で言うと”チョーきしょい”
母さんがアリス嬢をベッドに連れて行く前に俺が洗浄魔法で綺麗にした。
翌朝アリスが目覚めてあまりにも寝心地の言い低反発マット&枕のベッドからしばらく出れないでいた。
しかしさすがはお嬢様。
雰囲気でしっかり起きだして居間へとやって来た。
皆で食堂へ移動。
母さんがふわっふわのパンを使い、屋内栽培の野菜を使ったサンドイッチを渡す。
屋敷で食べていた貴族の食事がエサに感じるくらいの美味しさだそうだ。
食後、伯爵様が心配していると思い屋敷迄送ると言うと
「お願いします・・・。」
と力ない返事。
「この事は他言無用で。」
「はい。」
「あの・・・エイト様。」
「ん?なに?あっ何でしょうか?・・・えっ?様?」
「いや普通にしゃべって良いから・・・良いですから。こ・こ・この空間魔法、私の部屋でも出来ますか?」
「できるけど、部屋に入ったら行方不明ってまずくない?」
「え・ええ、それもそうね。」
「お父様とお母様におはなししてもよろしいでしょうか・・・。」
「命令とかでぼくがこの村から居なくなるのは困る!んのですが。」
「そ・・そうよね。」
「とりあえず屋敷へ送りますね。」
と言い空間魔法でボリスの町入り口近くの森の中へ転移。
アリス嬢は一人で歩いて行きたくないと駄々をこねたので仕方なく一緒に屋敷迄送って行った。
屋敷に到着したところ、ここで侯爵様が異常事態に気が付いた。
いや、気が付いてしまった。
この町からエイトの村まで歩いて2週間はかかるし往復を考えても4週間。
なのに14日で娘と一緒に帰って来た事。
娘を陰で護衛・監視していたはずの者が居ない事。
もちろん彼らからの報告もまだ受けていない。
その頃、彼らはエイトの家に侵入できず家の外でまだ監視をしていた。
娘は頬を赤らめてエイトを見つめている。
エイトの身形は普通の農民だが衣服がやたらと綺麗だ。
エイトは
「私はこれにて・・・」
と帰ろうとしたらアリスが俺の手を両手で強く握り
「あの・・わわたくしの部屋までおねがいします・・。」
主人が雑用係に敬語?
ボリス候のこめかみに青筋が浮かぶ。
「私は元雑用係ですので・・・」
「お父様!お話がございます!」
え゛!何?やば!
「なんだ?」
「ここではお話しできません。エイト様と一緒でなければおはなしできませんがおねがいします。」
「わかった。」
応接室へ連行される。
「で話とは?」
「お父様、私、エイト様の下で魔法の修業がしたいです。」
「へ?」
鬼のような表情のボリス候に睨まれる。
物凄く魔力を込めた拳が俺の顔面を襲う・・・が俺の顔を殴った侯爵様の拳が砕けた。
「すみません。防御しちゃいました。」
と言い、一瞬で砕けた侯爵様の拳を元通りに復元回復させた。
砕けた拳の痛みと一瞬で元の拳に戻り痛みも無くなった状況を理解したボリス候。
「エイト様、魔力を少し出していただけますか?」
アリスの望みで
「えっと・・はい。」
逆に流していた魔力を少し緩めた。
ボリス候は尋常ではない魔力量に脂汗がにじみ出る。
「エイトさま、もうよろしいですわ。」
いつもの“0”状態に戻す。
「と言う訳ですので、エイト様の下で修業したいのです。」
「ぇ?俺の家?」
「侯爵家の未婚の娘が農家の男の家に・・・」
と言いかけ、
「アリスの魔法の腕が上がると確約できるのであれば特別に許可しよう。」
「アリス様次第ですが、けっこう上がると思います。」
俺の言葉で鬼の表情が渋面にかわった。
「わかった。許可する。」
「お父様ありがとう」
アリスは満面の笑みで父親に抱き着く。
え?俺の意見は?
「ではエイト様よろしくお願いいたします。」
アリス(一応弟子になったので呼び捨てで)の反則の笑顔でお願いされたら断れないし、アリス親父の睨みも怖い。
「それではお嬢様をお預かりします。」
と言い思わずその場で空間魔法を使い自宅へと・・・
って親父もついてくるんかい!
億ションルームに侯爵父娘&俺&俺両親。
もうごまかせない。
部屋の説明の後侯爵様には邸宅へお帰りいただいた。
そして侯爵家族のスペースのみ億ション状態に空間魔法をかけた。
侯爵邸使用人はここまででは無いがかなり良い感じの部屋に魔改造した。
この超快適生活を維持するために緘口令が敷かれた。
もちろん使用人達はこの快適生活を手放すわけにはいかないので絶対に秘密は話さない。
あれから2年。
19歳になった。
近々アリスと結婚する予定だ。
なんと入り婿だ。
序爵は無しで養子・養子で今は子爵家の息子。
伯爵すっ飛ばしの侯爵婿入り。
村へはいつでも行けるので問題ナッシング。
現在、村では屋内栽培がメインの農業で屋外はカモフラージュ的になっている超ひなびた村だ。
そしてあの事件直後から村の家々は地下の通路で繋げた。
悪天候時は地下通通路、晴天時は地上移動となっている。
俺が養子として村から出てから一度も村へ帰っていない事は周知の事実だ。
だって転移魔法で直接帰宅しているから、外部から村へ向かった事が無い。
アリスは大魔導師や大賢者と呼ばれている。
他者には全く出来ない飛行魔法が出来るようになったからだ。
飛行魔法だ出来るようになった後に、空間魔法によるアイテムボックスみたいな空間収納魔法をマスターした。
最近ようやく転移魔法も使えるようになった。
俺は“賢者様の腰巾着”と陰で言われている。
「お嬢様はあんな腰巾着のどこに惚れたんだ?」ともあちこちで言われているが俺は気にしない。
数カ月後結婚式を行った。
今はとても幸せだ。
前世よりもかも・・・。
俺の実家にも時々侯爵家総出で秘密裏に行き寛ぐことがある。
田舎ののんびりした雰囲気が気に入ったらしい。
これからも”0”の無能を演じて行こうと思っている。
結婚後のお話は機会が有れば投稿します。
盗賊事件・魔物襲来・天災・戦争等の試練(?)が起こるが、
「ん?どったの?こんなものかな?」
ってな感じで解決するエイトです。
のんびり幸せに・・・
行ければ良いな。