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承。琴乃という人間


オノ:そこはご心配なく。昔の地獄はそれはもう劣悪な環境だったそうですが、それも過去の話です


田中:ははぁ、地獄といえば針山を登らされたり、大釜で煮られたりするイメージでしたが……


サル:やぁ、今どきそんな事やったら世間から大バッシングっすよ


閻魔様:一日八時間労働、週休二日制、三食寝床付き。苦役を伴う労働も中にはあるが、アフターケアは万全の体制だ


田中:ははっ、僕の職場よりよほど快適そうです。なんて皮肉なことでしょうか


武蔵:随分つまんなそうな場所だなァ……


武蔵:サルぅ、地獄に行ったらお前が遊んでくれるんじゃねえのかよ?


サル:心配しなくても約束は破らないっすよー


サル:武蔵くんみたいに血の気が多い奴が溢れるほどいるのも事実ですんで、そういう欲求を()()できる場もあるっす


武蔵:ならよし!


オノ:さて。一段落着いたということで、本日最後の裁判を行いましょう


琴乃:っ……


田中:琴乃さん? 随分顔色が悪いそうですが


武蔵:これから自分の悪事が大っぴらになるってんのにハイテンションの馬鹿がいるかよ


田中:それもそうですね、無神経でした


田中:でも、琴乃さんみたいな女性が悪事をしたとは考えられないな


武蔵:大方、おっさんと同じ理由だろ


田中:お、おっさんか……まだ三十なんだけどね


武蔵:おっさんじゃん


田中:ぐぅ……


琴乃:あ、あのっ!


突如大声を出した琴乃に周囲の視線が集まる。


琴乃:私は皆さんが思ってるような人じゃないです、さっ、最低の人間なんです……


田中:……琴乃さん?


オノ:……では、裁判の方を始めましょうか


オノ:閻魔様


閻魔様:うむ


閻魔様:えー、名を今泉琴乃。罪状……うぅむ、これは……


サル:どしたんすか?


閻魔様:いや。罪状、『親殺し』


田中:……えっ?


武蔵:あ?


閻魔様:弁解があるなら申せ


琴乃:いえ、弁解なんてありません……私は地獄行きに相応しい人間です……


オノ:それはおかしな話ですね。貴方は天国に行きたいから、この放送の出演を許諾したのでは?


琴乃:それはっ……そうです


琴乃:ですがっ、決して、自分が楽をしたいからだとか、そういう理由で天国に行きたいという訳ではありません……


オノ:ではどういう理由で?


琴乃:……


田中:琴乃さん


田中:僕には、琴乃さんのような人がそれをするに至った背景など想像もつきません


田中:でも琴乃さんは自分で考えた上で、天国に行く理由があるからこの場に立っているはずです


田中:このまま黙ったまま地獄に行ったんでは、今後いつか後悔する時がくると思います。貴方が考えていることを少しずつでもいいのでお聞かせください


少しの間、場は沈黙に包まれた。


琴乃:ありがとうございます、田中さん


琴乃:話します。私が、お母さんを殺した日のことを……


それから、琴乃はポツポツと語り始めた。


琴乃:私がまだ幼い頃です


琴乃:私は相変わらず病弱でしたが、今より活動的でした。そんな私は母親を伴い、探検と称して外を出歩くのが好きな子供でした


琴乃:そしてある日、川辺の道を歩いている時。母親が目を離した隙に私は川に近付きました。確か、綺麗な石を見つけたとか、そんなどうしようもない理由でした


琴乃:前日に雨が降っていたという事もあって、流れが強い川の波はあっという間に私の足に絡みつきました。そして……


オノ:流されたと


琴乃:はい。それに気付いた母は私を助けるために川に飛び込みました


琴乃:通行人の通報もあって救助はすぐに駆け付けましたが、結局私だけが助かって、母は……


閻魔様:ふむ、虚偽はないな。閻魔帳にもそう書かれている


武蔵:……あ? それ殺したって言うのか? 不可抗力とは言わんが、しゃあねえだろ


田中:武蔵さんに同意します。琴乃さんの気持ちを思うと安易な言葉は言えませんが、これで地獄行きは不当では


琴乃:違うんです! 


琴乃:溺れてる最中、私は必死に母の名前を呼びました。そのせいで溺れてる私に気付いてしまって……


琴乃:そんな事しなければ、母は死なずに済みました。私が、私が殺したも同然です!


武蔵:いやいや……


オノ:恐らく、『ネオ・閻魔』の弊害ですね


閻魔様:ふむ。オノ、続けろ


オノ:はっ。ネオ・閻魔は浄玻璃の鏡や閻魔帳、その他のデータベースを複合的に参照して数値を抽出しています


オノ:極力排除しているそうですが、その際にどうしても亡者個人の主観が混じることがあるそうです


オノ:琴乃さんの場合、積年の自責の念が募った結果、地獄行きの判定となってしまったようですね


サル:尋常じゃない欠陥っすね


琴乃:いえ、初めて自分の思いを吐き出せて、やっと今確かに分かりました


琴乃:私が天国に行きたいのは、きっと母親に許されたかったからです 


琴乃:……こんな不純な思いを持つ私が、天国に行く資格なんてないです


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