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若者は大家を目指す  作者: 大沢 雅紀
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諸費用

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また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

それでは、最初に保証金が必要になります」


職員の言うとおりに、保証金40万を支払う。


はい。確かに。それではこれからの手続きを説明させていただきます」


職員が淡々と話し始め、新人は一言も聞き漏らすまいと緊張をして聞き入った。


「まず物件123には、元の持ち主が借金をするときに抵当権を設定しています。これをを抹消し、所有権を貴方の名義に書き換えます」


「えっと……それはどうすればいいんですか?」


一応ネットで調べて知っていたが、具体的な担保のはずし方とか名義変更の方法などの手続きのやり方など新人は知らなかった。


「ご安心ください。そこまでは裁判所と、その委託を受けた司法書士が行います。ただし、それにかかる税金や費用は負担していただきます」


「なるほど……」


土地建物の落札価格のほかに、『負担記入抹消登記登録免許税』『所有権移転登記登録免許税』や切手代などが必要で、総額は約170万ほどになるらしい。


「所有権の移転が終了しましたら、連絡が行きます。立ち退きの交渉はそれからしてください」


「えっ? つまり、まだ住人に立ち退きの交渉をしてはいけないんですか?」



新人の質問に職員はうなずく、


「それは絶対にやめてください。まだ大矢さんはあくまで落札者に過ぎません。現時点で土地建物の持ち主は元の所有者なので、住む権利があります。下手をしたら話がこじれます」


「たしかに……」


それを聞いて新人は納得する。所有権が自分のものになっていないのに接触したら問題になるかもしれない。


「所有権が移転して初めて大矢さんが所有者になります。その時点で住宅に住人がいれば、立ち退きの交渉が出来るのですが……」


職員はここでいったん言葉を切る。


「しかし、その立ち退き交渉自体は、裁判所は関知しません」


「えっ? でも、出て行かない場合は、追い出す手段があるんじゃ?」


職員はこの質問に慣れているのか、冷静に説明を続けた。


「ええ。どうしても住人が立ち退かない場合、最後の手段として『強制執行』という方法があります」


「それなら……」


安心する新人に大して、職員は重要な事を告げた。


「しかし、その場合はは多額の別途費用がかかるのです。数十万から、下手をすると100万円を超える場合もあります」


「ど、どうしてですか?」


慌てる新人に対して、職員はそのわけを話し始めた。


「強制執行は裁判所が、民間の引越し者などに委託して、物件の中にある入居者の荷物などを強制的に運び出す行為の事です。その際にも費用がかかりますし、荷物の預かり先があればいいのですが、ない場合は業者の倉庫などに保管する事になります。その預かり費用もかかります。そういったわけで、数十万の費用が必要になるのです」


「なるほど……」


説明を聞いて、新人は納得する。


「もちろんそこまでいくケースばかりではなく、交渉して穏便に入居者に退去してもらうこともできます。その他には引越し費用としていくらか支払うケースが多いですね」


「それじゃあ、結局は別に費用がかかるんですか……」


「そうですね。必要経費と考えられたほうがいいでしょう」


職員の説明を聞いて、新人は必要なものとして割り切る事にした。


「実際の交渉は個人でされる方もおられますが、不動産業者が代行して行うケースもあるようです。後者の方がトラブルが少なく穏便に退去される場合が多いみたいです。そういった場合も手数料が必要になるみたいですが」


「わかりました。色々教えてくださって、ありがとうございました」


手続きを終えて、新人は職員に頭を下げて裁判所をでる。


「落札してからが本番なんだなぁ。果たしてこれから上手くいくんだろうか」


新人は落札した喜びも忘れ、これからの長い道を思って思わずため息をつくのだった。



次の休日


新人は落札した物件を見に行った。


初めていく場所だったのでかなり迷ったが、何とか地図とにらめっこしてたどり着く。


目的の家が見えてきたとき、新人は思わず絶句した。


「これは……ひどい……」


裁判所にあった競売物件の資料には写真も載っていたので、ある程度の状態はは分かっていたが、実際にみたらかなり痛んでいる。


外壁は薄汚れていて、庭には草がぼうぼう。塀は一部が崩れかけ、瓦の一部は落ちていた。


さすがは100万円台の一戸建てというお手ごろ物件である。


「それに……結構ここに住むのは大変だぞ……」


団地のかなり高いところにあり、ほとんど登山のレベルである。


車やバイク無しではかなり不便そうだった。


「で、でも、ちゃんと人は住んでいるんだし」


こんな場所ではあるが、周囲には意外と人家が多く、近くには公園もある。


「それに、悪いところばかりじゃないかも。えっと、ここの場所のいいところは……」


悪いところばかり考えていたら気が滅入ってしまうので、よかった探しをしてみる。


「まず、道路に面してて、日当たりがいいな」


この物件は南と西に広い道路に面している角地で、前が開けているので駐車が楽である


さらに都合のいいことに後ろにも車が通れる道があったので、三面が開けていた。


そのおかげで、日当たりは抜群にいい。


「さらに、ゴミ捨て場が近い」


すぐ裏の生活道路にゴミの集積所が設置してあるから、便利といえば便利である。


「この家は、いくら水を使っても水道代が一定だ」


この物件は、上水道に接続されておらず、その周囲の何軒かと共同で『井戸』を掘り、ずっと使用していたのだ。


「水道代が毎月2000円か……」


水そのものは無料だが、水をくみ上げている共同使用のポンプの電気代が半年で一万六千円負担しなければならない。


「うーん。一応水質検査には合格しているみたいだけど……」


ずっと自宅で水道を利用していた新人にとって、使用水が『井戸』であることがメリットかデメリットか良く分からなかった。


(まあいいか……どうせ俺がここに住むんじゃないし)


深く考えると嫌になってくるので、ここは人に貸す物件だからと割り切る新人だった。


「それに、24時間営業の激安スーパーが、この団地の坂を下りてすぐだし」


これは本当にメリットだった。県内において最も安く、品ぞろえも充実しているスーパーが近くにあるのだ。けっして裕福ではない新人も、わざわざバイクに乗って買い物にきているほどである。


「まあ、家が古くて汚いのは仕方ない。ちゃんとここに住んでいる人もいるんだし、リフォームしてきれいにすれば、何とか借り手がつくだろう。そうしたら毎月6万ほどで貸して……」


ふたたび不労所得で生活するという、バラ色の未来を思い浮かべてにやける新人。


自分のものになる日が待ち遠しく、それから何度も見に行く新人だった。




そして一ヶ月―


ついに待ちに待った日が訪れる。


「裁判所から通知がきたな。これはなんだ?」


書留で送られてきた書類を開く、そこには『所有権移転のお知らせ』と『登記識別情報』と書いた紙切れが入っていた。


「これって、落札した物件が俺のものになったってことだよな? でも『権利書』じゃないのかな?」


てっきり土地建物の権利書がくると思っていた新人は、それをみて戸惑った。


「『登記識別情報』って……なんなんだ?」


薄緑の住民票みたいな紙に、ラメ色のシールが張ってあって番号を隠している。


思わず新人はそのラベルをはがして見る。すると、意味不明の英字や番号が並んでいた。


「え? なんだろこの番号。もしかして、わざわざ隠してあるって結構大事な番号だったりとか?」


そう思った新人は、この書類が何であるかを慌ててネットで調べてみた。


「あれ? 今は土地の権利書ってなくなっていて、すべて法務局の登録になっているのか。んで、この番号が所有権を証明するもので、それが権利書の代わりになる……ということは、この番号を他人に知られたら、盗まれたと同じことになるわけか!」


慌てて番号の上に再びシールを張って隠すのだった。


「しかし、今は権利書もないのか……世の中ってどんどん変わっていくんだな」


新人は自分が思っていた常識が刻々と変わっているのを感じる。


親に頼ってずっとニートをしていた自分が、世間知らずであったことを実感してしまった。


「まあいいや。要はこれを大切に保管していればいいんだな。これで名目上はあの家の持ち主になったんだから、堂々と立ち退き交渉出来るというわけだ。これからが正念場だぞ」


新人は気合を入れなおす。


いよいよ競売の最大の難関『住人の追い出し』が始まるのだった。




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