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若者は大家を目指す  作者: 大沢 雅紀
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運命の物件

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また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

新人は真面目にコールセンターのアルバイトを続けていた。


あれから競売物件についてはじっと探し続けていたが、これといった物件はなかったのである。


「はあ……やっぱり大家になるって難しいな……」


そんなことを思いつつも、夢をあきらめきれない。


そして、生きていくために毎日一生懸命働いている。


そのおかげで、やっと仕事にも慣れていった。


「新人君、やっとちゃんと電話を取れるようになってきたね」


コールセンターの女性上司が、笑顔と共に声をかけてくる。


「ありがとうございます。指導していただけたおかげで、なんとかできるようになりました……」


初めて上司に褒められて、新人は照れる。


アルバイトも三ヶ月目に入り、少しは客あしらいも覚えてきた。


まだ一人前とは言えないが、次第に戦力になってきている。


そうなってくると、上司による新人への注意も少なくなっていき、同僚に馬鹿にされるようなこともなくなっていった。


「がんばって。これからも続けてね」


「どういたしまして。がんばります」


新人はそういって、目の前の電話をとる。


「お電話ありがとうございます。こちらは大帝保険お客様相談係、大矢でございます……」


「あんたのところはどうなっているんだ! 」


あいも変わらず苦情電話によくあたったが、今まで散々怒鳴られてきて経験を積んだ新人は動揺しなかった。


「お客様にご不快な思いをさせてしまい、まことに申し訳ありませんでした。それでは、どういった不手際があったかをお伺いしてもよろしいでしょうか?」


冷静に、相手に怒鳴る隙を見せずに話を進める。


「お、おう。頼んでいた書類が届いてないんだよ」


「はい。お調べいたします。……はい。確認が取れました。このたびの不手際をまことにお詫びいたします。今から速達でお送りいたしますので、明日までお時間をいただけませんでしょうか?」


テキパキとした新人の対応に、電話の客は怒りをそがれる。


「明日か……わかったよ。早くおくってくれ」


「はい。それでは発送させていただきます。今後、何かございましたら、お手数ですが私あてにお電話をいただけませんでしょうか? 責任を持って対応させていただきますので……」


気持ちのいい新人の対応に、客も好感を持つ。


「わかったよ。今度からあんたに頼む事にするよ」


「はい。これからも大帝保険をよろしくお願いいたします」


こうして、スピーディに苦情が処理されていく。


ずっとニートを続けていた新人は、やっと一人前フリーターにステップアップする事ができていた。



そんな忙しくも充実している日常を続けていたある日、新人は運命の物件に出会う。


「え……一戸建てで、買受可能価格160万だと……? 」


新聞には、隣町にある競売物件の情報が載っていた。


何度見直しても、160万円と書いてある。


「この物件だったら、最初に手を出すにはちょうど良いんじゃないか?価格が安いから、そんなにリスクがないだろうし。リフォームして人にかすか、ここに引っ越して今の家を売り飛ばすかして……」


この物件に興味を抱いた新人は、より詳しい情報が乗っているネットで確認する。


競売物件を紹介する公的なサイトには、物件について詳しい内容が乗っていた。



事件番号 123

買受可能価格160万

売却基準価格200万

宅地 80㎡ 二階建て 4DK 70㎡

賃借権なし 所有者在住

上水 共同井戸 下水あり 



他にも詳しい図面と、家とその周囲が写真つきで乗っている。


「……たしかに100万円台の物件だな……」


幽霊屋敷といったほどではないが、激安物件だけあって外壁は相応に汚れている。


写真でみるかぎり、中の様子も酷いものであった。


「二階は普通なんだけど……一階が……」


台所の床が抜けかけており、崩壊寸前である。


まだ所有者が住んでいるので廃墟にはなっていないが、やっぱり100万円台の家というだけあってかなり痛んでいた。


「なんかこれ……みたことがあるぞ。あっ!」


新人は思い当たる。昔のアニメに出てくる、平凡な二階建てに外見がよく似ていた。


いわゆる「のび太くんホーム」である。


「うーん。場所も微妙だなぁ」


地図で物件の位置を確認した新人の顔が渋くなる。


この物件がある場所は、山を削って作られた団地のかなり奥にある。


おまけにバスも運行しておらず、平地まで降りてこないと公共交通施設がない。


車がなければ生活できそうにない、かなり不便な場所だった。


「まあ……あそこならこれくらいの価格だよな。人気のない場所だし」


その辺りの相場は通常の売買でも500万円ぐらいである。納得の格安物件といえた。


「だけど……一応一戸建てなんだし、家自体は広い。駐車場もある」


家は古いものの、4DKのファミリータイプで小さいながら庭もあり、車も小型車なら駐車可能である辺りは住宅地なので、普通に住人はいるようで、生活できないというわけではなさそうだった。


「それに、激安スーパーが近くにある」


新人もよく利用している、安さには定評があるスーパーとホームセンターがその団地の下のほうにあり、平地にはJRの駅と小学校、中学校もある。


山の上にあるという点さえ目をつぶれば、入居者が見つかるかも知れなった。


新人自身もここなら住めないわけではない。


「やるだけやってもようか……でも、どうせ低価格で落札できないだろうしなぁ」


以前失敗したことで、落札価格を予想するのは難しいという事がよくわかっている。


手間隙かけても無駄足に終る可能性が高いのである。


「……いいか。別にそこまでして欲しい物件というわけじゃないし。160万で手に入れられるなら考えてもいいけど……今回は見送るか」


面倒くさくなって、今回は入札しない事を決める。


新人はそっとパソコンを消すと、アルバイトに向かっていった。




それから三週間後


一人家で新聞を読みながら、奇声をあげている新人がいた。


「ば、ばかな……そんな……」


競売の結果が載ってある記事には、「物件番号123 不買」と掲載されていた。


要するに、誰一人入札者がいなかったせいで、売れ残ったのである。


「またかよ……意外と売れ残るケースが多いのかな。それとも、この辺りって人気がないのか?」


前回参加した物件も一度は売れ残って、再競売にかかっていた事を思い出す。


「いや、前のはすぐに売れたんだ。別にこの辺りが変な地域なわけじゃないし……」


なんだかんだいって30年近く住んでいるのである。この町の事は小さい頃から良く知っていた。


「まあ、たまたまかもしれないし。それにしても惜しかった。買受可能価格で入札しておけば……」


新聞を握り締めて、悔しさのあまり奥歯をかみ締める。


面倒くさがらずに最初から入札さえしておけば、今頃自分のものになっていたのである。


「いや。まだチャンスはある。えっと、『特別売却』の日程は……」


売れ残った場合、「特別売却」にまわされ、後日再び競売にかけられるのである。


もしそのときに誰も競争相手がいなければ、160万で手に入れることができる。


「来週の木曜日か……。無理をしてでもバイトを休んで、裁判所に行こう」


新人は今度こそ、何が何でも手に入れることを決心し、本気になって準備するのだった。



競売物件とは、普通の不動産売買ではなく、特殊な売買になる。


当然ながらそのメリットとデメリットを熟知しておかないと、大やけどする事もあるのだ。


メリットとしては以下のものがある。


①相場より安い価格で手に入れられる

②市場では物件が出にくい地域でも出ることがある。

しかし、当然ながらデメリットもあるのだ

①物件の引渡しは個人でしなければならない

②物件になにか問題があっても、保護されない

③住宅ローンが使えない


これらのデメリットを克服すべく、新人は必死に勉強をする。


そして迎える一週間後の運命の日、新人は約40万の保証金と必要書類を持って、裁判所に出掛けるのだった。



とある地方裁判所の前に、完全に準備を整えた新人が立っていた。


来るのは二回目になるので、以前よりは余裕を持つ事ができた。


「今回こそ、絶対に手に入れてやる。他に応募者がなかったらもちろん最低価格の買受可能価格で、もし他にいたら200万以上の金額を書いて入札しよう」


以前の失敗から、少し多めの予算を心に決めている。


また、もし10時に始まる『特別売却』に遅れた場合は入札に参加すらできない場合があるので、

新人は念のために早めに家を出て、9時に裁判所に到着していた。


「えっと……たしかこっちだったな」


前回競売が行われた部屋に行くが、なぜかそこは別な部署になっていた。


「えっ?もしかして、移動した?」


どうやら今月から競売を取り扱う部署が移動したらしい。突然のことでとまどう新人を、裁判所の職員が不審そうな目で見つめてくる。


「あの……何か御用ですか?」


怖そうなおばさんから話しかけられ、新人は慌ててしまった。


「あの……えっと。競売に参加したいんですけど、特別売却はどこで開かれるのですか? 」


勇気を出して聞くと、彼女は意外にも気さくに教えてくれた。


「ああ、その部署は新しく建てられた別館に移動しましたよ」


そういって詳しく場所を教えてくれる。


「あ、ありがとうございました」


礼をして教えられた別館に行くと、「不動産執行部』と真新しい看板がかかっている。


新人は迷ったもの、なんとか開始30分前に別館に到着することができたのだった。


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