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若者は大家を目指す  作者: 大沢 雅紀
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きっかけ

それでも新人はフリーターとは言え働き出した事で、わずかずつでも成長していった。


「えっと……今の世の中の動きは……」


わからないなりに、毎朝新聞に目を通す習慣が身につく。


そんな生活を続けて数ヶ月もすると、なんとか世の中の大きな流れをつかむ事ができた。


「リーマンショック……株安……格差社会……消費税増……年金問題」


それらの単語が何を言っているか理解してくるにつれて、新人の将来に対する不安はますます増大していく。


「なんとかしなきゃ……せめて正社員になれれば……。えっと、ブラック企業勤務の女性、自殺って……。大企業大幅赤字? 数千人リストラ?」


新聞には、休みも取れずに過労死したり、自ら死を選んだ若い女性や、中年になっていきなりリストラされる事になったサラリーマンの記事が並ぶ。


「正社員になっても、ブラック企業に入ったら死ぬまでこきつかわれる。例え大企業に入っても、リストラされて一家離散って……」


新聞を読めば読むほど、生きていく厳しさに押しつぶされそうになる。


「どうしてこんなに辛いんだ。俺はただ安心して生きたい。ただそれだけなのに……」


今の時代、生きていくだけで大変なのであった。


絶望しながら新聞を読んでいた新人は、ちょうど中間あたりにある記事に目を留めた。


「なになに? 今月の競売物件情報だって……? こんなに破産して家を手放す人が多いのか……」


新聞には多くの競売にかけられた家の情報が載っている。


その一つ一つに破綻した家庭があることを想像して、新人はますます暗くなった。


「みんな、かわいそうに……」


そんな事を思いながら読み続けていくと、一つの物件が目に止まった。


「えっ。これって……」


食い入るようにその物件を見つめる。


それは新人が住む同じ市の郊外にある。一軒家だった。



「100万って……安い……? こんなに安く家が買えるのか」


改めてよくみると、競売にかけられている家の表示価格はどれも安い。


さまざまな物件が載っているが、安いのになると100万円台で買えるのもあった。


「これはいいな。100万で買って、誰かに貸せば……毎月家賃が入ってくるかも!」


ついに自分にでもできる投資を見つけたと思い、大喜びする。


「そうだよ。大家になればいいんだ。何もしなくて金が入ってくるし、なんか金持ちっぽくてカッコイイし。決めた! 俺は大家を目指す」


ド素人の思いつきだったが、働かずに暮らしていくというのは、新人にとって夢である。

こうして一人の元ニートは、不動産投資の世界に足を踏み入れたのだった。.



とはいえ、新人は不動産についてまったくの未経験である。


「さすがに100万の家って不安があるな。ちょっと調べるか」


しかし、新人は元ニートなので、そんなマニアックな事を知っている知り合いはいない。


「仕方ない。自分で調べよう」


生まれて初めて真剣になって、競売投資についてネットで調べたり、本を取り寄せて勉強してみる。


いろいろな成功談、失敗談について書かれている情報を集めているうち、なんとなくわかってきた。


「競売物件って、要するにローンが返せない人が、家を取られることなんだな」


ただ単に破産した人が家を追い出されると思っていたが、実際はもう少し複雑だった。


破産とかとは関係なく、家を担保にお金を借りた人が、支払いを延滞したりすると、一定の法律にのっとって裁判所主導の元に整理されることらしい。


「えっと……抵当権というものを根拠に行われるのか。そういえば、本当にこの家は俺のものになっているんだろうか? もしかして、兄貴とか誰かが勝手にこの家を担保に金を借りていたりしていて、ある日突然出て行けなんてことになったら……」


抵当権について詳しく知ると共に、、相続手続きを兄に丸投げして、権利書すらまともに見ていなかったことを急に不安に思う。


あわてて近くの『法務局』という役所に行って、まず自宅のことから調べてみた。


「えっと……『登記簿謄本』というのを閲覧して……」


自分が住んでいる家について、過去の情報を閲覧してみる。


「マジか? この家って最初は400万くらいだったんだ。でも昭和40年代の頃だから物価の価値が違うか。それから一回増築するときに一千万ほど借り入れして、そのときに担保にいれて……。親父達は結構苦労してローンを返していたんだな」


ただ当然のように住んでいた家にも、両親が苦労してローンを払っていた歴史がわかる。


新人は改めて死んだ両親に対して感謝の思いを抱くのだった。


「えっと……住宅ローンは10年前に完済されていて、その時に抵当権も抹消されているということか。幸いその後はなんの抵当権もついていないみたいだな。そして、ちゃんと俺の名義に変更されている」


自宅について調べたところ、抵当権のついていないまっさらな状態で新人の名前になっていることが確認できて、ほっと胸をなでおろす。


「まてよ……ということはつまり、いざとなったらこの家を担保にして金を借りられるということか」


その事実に思い当たり、新人は少し気が楽になる。


両親の遺産である貯金がなくなったらお終いだと思っていたが、それ以降も借金できるらしい。


「でも、金を借りても返せなくなったら家をとられてしまう。なんとかして、今ある貯金がなくなる前に生活を立て直さないと……」


貯金の残りが900万。家を売ればたぶん1000万で、実質の資産は合計1900万円。


余裕があるように見えて、実はそうでもない現実に、新人は改めて気を引き締めるのだった。

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