リストラ
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数週間後
新人と穂香は仲良く家から出て、職場であるコールセンターに向かう。
「ねえ。新人君。私たち、いつごろ休みが取れるのかしら」
「そうだな。今は繁忙期だから無理だから、もうちょっと仕事が少なくならないと……」
穂香の問いに、新人は申し訳なさそうに答える。
結婚式は挙げたものの、まだ新婚旅行などは行ってなかったのだ。
「一週間くらいお休みをもらって、ゆっくりと海外に行ってみたい」
穂香はそういってすねている。
「ごめん。上司に聞いてみたんだけど、結婚休暇という制度はないみたいだ」
新人はひたすら頭を下げている。
普通の正社員なら結婚に伴って祝い金や休暇などの福利厚生が用意されているのだが、新人も穂香もともにアルバイトである。
一応休暇を申請したのだが、人手不足のために却下されてしまったのだった。
「落ち着いたら、きっと旅行につれていくから」
「きっとだよ。私はオーストラリアに行ってみたい! 」
穂香は機嫌を直し、行きたいところをつげる。
「オーストラリアかぁ。いいな。エアーズロックとかみたいす。コアラとかも抱っこしたい」
新人も行って事のない国を思い浮かべる。
彼らの結婚生活は、小さな不満はあったがおおむね平穏で、幸せに満ちていた。
電力会社のコールセンターに到着すると、穂香は一般の席に座り、新人は管理職の席に着く。
事務作業わしながら、周囲にいるコールセンター員の様子も見ている。
「大矢ASV。あの、ちょっと苦情の電話がかかっているのですが……」
「はい。こっちに電話を回してください」
パソコンに打ち込んでいた作業をとめて、電話をとる。
すると、すぐに怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい! どうしてくれるんだ! 」
「お電話変わらせていただきました。私は大矢と申します。お客様にご迷惑をかけて申し訳ありません。よろしければ、詳しく事情をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
落ち着いた声で謝罪しながら、お客様の意識を誘導する。新人はちょっと出世して、何人かの部下を管理する立場になっていた。
毎日、プレイヤーの管理をしながら、苦情電話があると応対していく。
身分的にはアルバイトでボーナスもないが、収入は安定していた。
そして毎日二人で共働きし、週三日の休日は映画を見に行ったり近場の温泉旅行にいったりして、日ごろの疲れを癒す。
「なんか、幸せだなぁ」
最近、新人はよくそう実感している。何年か前に他人をうらやましく思うだけで、自分には一生訪れないと思っていた幸せな新婚生活が訪れていた。
そして、毎月月末になると、二人の給料と家賃が入ってくる。
新人の収入が、ASV手当てを合わせて26万円。穂香の収入が、24万円。そして家賃収入が、一戸建て二軒で13万円、ビルの賃貸が二部屋で7万5千円、総額毎月収入70万五千円だった。
世帯年収で800万円を超え、二人で暮らしていくには十分である。
しかも家賃やローンなどの返済も抱えていないので、月に50万円以上の貯金が可能だった。
穂香との新婚生活は、順調すぎるくらいうまくいっていた。
しかし、そんな生活にも転機が訪れる。
穂香と結婚して一年が経過した時、新人を含めた三名のASVと、上司であるSVが正社員に呼ばれて応接室に入った。
「まことに申し訳ありませんが、このコールセンターは今年いっぱいで閉鎖させていただきます」
正社員からのいきなりの宣告に、全員の頭が真っ白になる。
「な。なぜ、いきなりそんなことになったのですか?」
彼らを代表して、アルバイトを統括しているSVが聞く。
「残念ですが、ほかのコールセンターを経営している会社が一括して受電業務を受注することになりました。我々が提示した条件では、契約の継続が難しいという結論になったようです」
正社員も悔しそうな顔をしている。新人たちが働いているのは各企業のコールセンターを代行している派遣会社で、業界内の競争が厳しかった。
比較働条件がよかった電力会社のコールセンター業務は仕事の取りあいになっている。
残念だが、新人たちがどんなにがんばっても彼らの努力に関係ないところで仕事が継続できるかどうかが決まってしまうのだった。
「あ、あの。私たちはどうなるのでしょうか?」
新人と同じく、必死に努力してASVになっていた田中さんが青い顔をして聞く。
「お気の毒ですが、仕事自体がなくなってしまいますので、一般プレイヤーの方は解雇か移籍になります。ASV、SVの方も、他のコールセンターに移ることはできますが、その場合は再契約ということで、再びプレイヤーからはじめることになります」
「ば、ばかな……」
田中さんが納得できないようにつぶやく。しかし正社員は無情にも続けた。
「申し訳ありませんが、会社が決めたことなので。今週中には正式発表がありますので、それまではプレイヤーの方には言わないようにしてきください」
そういうと、正社員は席を立つ。後は呆然とした数人の男女が残された。
「まあ……仕方ないかな、。抵抗しても無駄だよ」
しばらくして、田中さんがつぶやく。
彼は以前にも正社員だったのにリストラされた経験があった。
「田中さんはどうされるんです?」
「どうもこうもないさ。また一介のプレイヤーになって、新しい職場に行くよ」
あきらめてようにさびしく笑う。
「でも、ここは男性が比較的多いから仕事もやりやすかったけど、他のコールセンターは若い女性ばかりですからつらいですよ」
以前、保険のコールセンターでずっとぼっちだった経験から、新人は懸念する。
「若い女性がたくさんかぁ。楽しそうだな」
田中さんは気楽にそういうが、新人は心底困っていた。
「どうしょうか……元の保険のコールセンターに戻ったら、今から給料が減って16万になる。しかも、穂香はどうすれば? 若い女性が苦手っていってたし、辞めるかも」
頭の中で計算する。最悪、一気に収入が半分になってしまうかもしれない。
(それにしても……本当にアルバイトって本当に使い捨てなんだな。まじめに仕事して、管理職に出世してもあっという間に何もなくなってしまうんだ)
あらためて新人は自分の立場の弱さを実感するのだった。
次の日
仕事終わりの朝、新人は穂香と二人でファミレスでモーニングを食べながら、このことを話した。
「えっ? コールセンターがなくなっちゃうの?」
いきなりの事態に、穂香は驚く。
「うん。すぐというわけじゃないんだけど、半年後にそうなる。穂香を含めたプレイヤーは基本的には解雇になるみたいだ。俺は移ろうと思えば元の保険のコールセンターに戻れるけど、また一般プレイヤーに逆戻りで、時給も下がる」
そうなった場合、収入が半減することを伝える。
「まあ、今までずっと貯金していたから、すぐに困ることはないけど……」
家計を管理している新人は,そういって穂香を安心させようとする。
「ちなみに今、いくらぐらいあるの?」
「そうだね……二人の貯金と家賃をためたお金を合わせたら、一千万くらいだと思うよ」
思っていたよりは貯金があるので、穂香も安心する。
「そうか。それなら後半年もあるんだし、ゆっくり考えようよ」
「そうだな。俺もいい機会だから、就職活動して正社員の仕事を探してみるよ。ま、もしいい仕事が見つからなくて保険のコールセンターに戻ることになっても、35万くらいは入ってくるから生活はできるか。穂香には休んでもらって、そろそろ子供を作ろうか」
「もう! 朝から何言っているのよ! 」
穂香は顔を真っ赤にして照れるのだった。
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