車の免許
それから数ヶ月も時間はかかったが、何とか免許が取れた。
「うーん。やっぱりドライブは気持ちいいなぁ……」
中古の軽自動車も買って、休日はドライブを楽しいでいる。
いつの間にか、新人はすこしずつ人生が充実していっているのを実感していた。
「後は彼女が出来ればいいんだけどなぁ」
さわやかな風を体に受けながら、新人は一人さびしくつぶやく。
毎月の収入は37万を超え、生活に余裕が出来た。
貯金も家を売ったお金と毎月の貯蓄で、一千万円の大台を確保している。
友人も出来て、仕事にも不満はなく毎日が充実している。
なのに彼は相変わらずモテないままだった。
「一応、生活も改善して、ずいぶん痩せたつもりなんだけどなぁ」
二年前に両親が死んだときは小太りニートだったが、今では少しは痩せて普通になっている。
以前に保険のコールセンターで同僚の女性から気持ち悪いといわれ続けていた自分からは、大分マシになったと思っていた。
「やっぱり、職場が悪いのかな? 出会いがないせいか?」
新人は思わずそう思ってしまう。
今の電力会社のコールセンターは、以前の保険だった頃とは違って男性も多かった。
それも訳ありのおっさんばかりである。
女性もいるが、彼女たちは皆オバサンばかりであった。
「ま、仕方ないか。さすがに深夜のコールセンターで働こうなんて若い女の子は少ないかも」
考えてみたら敬遠されるのは当然だった。
もともとコールセンターという職場は女性が多い。なので、昼の時間帯の求人はいくらでもある。
若い女性が夜に働くのなら、稼げる仕事はたくさんある。
そんなわけで、新人が働いている電力会社のコールセンターだけなかなか出会いがなかった。
「ま、いいや。どうせ今まモテなかったんだから、いまさらジタバタしても仕方ないか。そのうちにいい出会いもあるだろう」
新人はそう自分に言い聞かせると、目的地に向かって車を走らせるのだった。
「ここが、競売で売れ残ったビルか……」
新人はそのビルを見上げてうなり声をあげる。
車を手にいれて行動範囲が広がった新人は、県内すべての市や町までいい物件がないか探すようになった。
そして、今住んでいる政令指定都市から来るまで二時間ほど離れた所に、古いビルが競売で売れ残っているのを発見したのである。
今日はその物件の見学に来ていたのであった。




