惨状
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数時間後、家具が全部運び出され、すっからかんになった部屋が姿を現す。
「……思ったよりきれいだな」
広くなったリビングを見て、新人はそんな感想を漏らす。
何もなくなったからか、広々として開放感があふれていた。
この物件はマンションの一階で、リビングに直接接している専用庭があり、大きなガラスの引き戸を通して太陽の光がリ部屋を明るく照らしていた。
庭に出てみると、充分に広いスペースがあり、下段には花が植えられていた。
「まあまあかな? 庭もそんなに荒れてないし……駐車2台分のスペースが充分にあるし」
そんな事を思いながらふと足元を見ると、何かが目に入った。
「これは……」
庭にあったのは、半分埋まった子供用のビニールのボールだった。
「入居者には子供がいたって聞いたけど、この庭で遊んでいたんだろうな。まさか家を取られて出て行くことになるなんて思いもせずに、無邪気に遊んでいたんだろうな……」
出て行った家族の事を思うと、何とも言えない気分になる。
「考えてみたら、このマンションって売り出された時は2500万位していたんだよな。それに、子供の頃はここの敷地は空き地で、よく幼馴染と遊んでいたっけ……」
ここの敷地は、子供時代は新人の遊び場になっていて、幼馴染と野球をしていた覚えがある。
それがある日いきなり締め出され、あっという間にマンションができて悔しい思いをしたものだった。
「建ったときはぴかぴかの新築で、結構綺麗だったよな。新しく住人になった人たちも、みんな裕福そうな家族ばかりだったのに……今ではたった500万円か……」
時代の移り変わりを実感してしまう。
この世で、マンションほど値下がりが激しいものは他にはない。
新築マンションでも、引越しの荷物を運び入れた瞬間に三割安くなるといわれているのである。
「まあ、もう築20年は過ぎているんだから、ここからの値下がりはそんなにしないだろう」
値下がり率は新築直後の数年が一番激しく、年数が経つにつれて低くなっていく。
ただし、その代わり建物が劣化していくので、管理費と修繕積立金が上がっていくのである。
「……やっぱり、マンションは『資産』じゃないな。持っているだけで管理費がかかるし」
そこまで分かっていながら今回新人がこの物件を手に入れたのは、長く所有するつもりがなかったためである。
今回新人が狙っているのは、人に貸して家賃を貰う事ではなかった。
「不動産の物件としては、なぜかマンションのほうが一戸建てより売りやすいんだよな。ここをきれいにして、さっさと売り飛ばそう」
新人が考えているのは、いわゆる「土地ころがし」である。競売で安く手に入れて、リフォームしてから短期で売りさばいて利益を上げようという考えだった。
「これが上手くいったら……濡れ手に粟で大もうけだ」
虫がいいことを考えている新人だったが、当然のごとくそんなに上手くいくわけはないのだった。
「さて、それじゃゆっくり見て回ろうか」
とりあえず、リビングは17畳ほどの広さで、日当たりも良い。
キッチンも狭いながらも一応の機能はついている。
「和室も……綺麗だな。畳の表層替えだけすれば新築みたいになるか」
リビングとつながっている六畳の和室も、特に問題がなさそうだった。
「廊下も、別におかしな所はないな。トイレも壊れていないし、風呂も綺麗だ。クリーニングだけで充分だな……」
確認しながら部屋の奥に入る。リビングからは一直線に廊下が伸びており、左に六畳の洋室、右に五畳の洋室があった。
「ここは子供の寝室だった所かな? 」
クリー色のドアを開けて、先に右の洋室に入る。
備え付けのクローゼットとちょっと汚れたカーペットが敷いていた。
かすかにカビ臭い匂いがただよっている。
「ちょっと暗いし、この匂いはなんでだろう。……ああ、通気性が悪いのか」
部屋の構造上、窓が一箇所しかなく、しかもマンションの内側通路についていた。
リビングに比べて密閉された空間になっている。
「まあ、これらいじゃ特に問題はないだろうな。汚れたカーペットを替えればいいか」
設置されているちょっと古いエアコンも、問題なく作動した。
一回り確認した後、今度は反対側の部屋に入った。
「ここは元夫婦の寝室だったのかな? 失礼しまーす」
重厚なドアをあけて、一歩部屋に入る。
「OH! My GOD! 」
その瞬間、新人は叫び声をあげて床に崩れ落ちた。
「な……なんなんだよ……これって……」
部屋の惨状を見て、新人はつぶやく。
なかなか競売物件とは、一筋縄ではいかないのであった。
「競売物件の資料って、本当に当てにならないな。裁判所は何しているんだか……」
思わず新人は、資料を作った裁判所に八つ当たりしてしまう。
「……写真と違うじゃないか……」
新人は一応、入札前にネットで競売物件について調べている。
それには物件の内部の写真も載っているので、大体の状態がかるのであった。
よって、この物件には問題はないと思い込んでいたのだが―
左の洋室に入った瞬間、かび臭い匂いがムワっとした。
「な、なんでこんな状態になっているんだよ……」
新人の目に飛び込んできたのは、左の壁に作られた窓の周辺に広がる黒ずんだカビと、ふやけてビリビリになった壁紙、そしてまるで殺人事件の現場のように広がる床の黒い染みだった。
「湿っている……」
しかも床は水でもまいたかのように、ぬれていた。
「この水ってなんなんだ? もしかして……」
おそるおそる窓に近づいて確認すると、サッシが歪んでいて裂け目が開いている。
「ここから雨水が入ってきたのか。そういえば昨日は雨だったな……なんなんだよ……雨が降るたびに部屋が水浸しになるんだったら、まともに住めないじゃないかよ!」
思わず怒りの声を上げるが、そんな事を言ってもいまさら遅い。
そらに、この部屋には問題があった」
「えっと……外の状態はどうなっているんだろ……えっ?」
窓を開けた新人が硬直する。
なんと、窓を開けたちょうど目の前に、こちらを向いて立っている墓があった。
「えええええ? 何でこんな所に墓が?」
慌てて外に出て確かめると、それは近所の人が所有する墓所だった。
「まてよ……そういえば、はるか昔にこの山の上に火葬場があったような……」
新人自身も忘れていたが、確かに大昔に火葬場が山の上にあって、そこで葬儀が行われた様な記憶があった。
「新人。近所でお葬式があって火葬場を使うから、外に出ないようにね」
幼い新人に母が何度かそういったことがあるのを思い出す。
その火葬場はとっくの昔に取り壊されてなくなっていたのだが、その名残のように墓が残っていたのを思い出した。
「た、確かにこの墓は昔からあったけど……なにもここに窓を作らなくてもいいのに、これじゃ、こ
の窓を開けたら墓が丸見えじゃないか! 夜は怖くてあけられないよ」
新人はうかつな自分に腹を立てる。
いまさらお化けを怖がるような子供ではなかったが、気持ちが悪い事には変わりない。
「……しかも、外壁にヒビが入っている」
外から確認したところ、部屋が水浸しになった原因が分かった。
外壁のヒビが窓のサッシにまで達しており、そこを伝って雨水と湿気が入ってくるのである。
あまりにトラブルが多くてくじけそうになるが、もう後には引けない。
自分のものになった以上、何とかするしかないのである。
「たしか、外壁とかの問題は管理会社が対処してくれるんだったよな。相談してみよう」
新人は管理会社に電話して、外壁の修理を依頼するのだった。
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