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若者は大家を目指す  作者: 大沢 雅紀
18/42

マンション落札

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また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

「うーん……○○市の××地区か……遠すぎるな……」


とはいえ、なかなか目を引く物件は見つからない。


あまり遠く離れた場所にある物件だと管理が難しくなる。


かといって、都合よく近隣に100万円台の物件などそうそう出てこない。


「これは?ダメだな。入居者が居ない」


家に比較的近い場所にでた物件をネットで調べて、新人はため息を着く。


競売物件を紹介するサイトには物件の広さ、建築年数、住所のほかにも内部の写真や居住者の有無など、詳しいことが載っていて、家に居ながらにして詳しく調べる事ができる。


それらの情報から、新人は自分なりに狙う物件の条件を決めていた。


「いくら条件が良くても、入居者がいなかったり、ゴミ屋敷なのは勘弁だよな。最悪、人がまだ住んでいて、ちゃんと生活している物件じゃないと、トラブルになるかもしれない」


不動産屋の忠告もあり、価格が手ごろでもどう見てもゴミ屋敷で住人がいない物件や、所有者が行方不明の物件は避けていた。


「あとは……一戸建てかマンションにするかだけど……」


マンションの物件も数多くあったが、いまいち気が乗らなかった。


「うーん。市内中心部のワンルームマンションが78万か……」


市内の一等地にあるマンションの情報を見ながら、新人は悩む。


マンションの大部分は場所的には優れていて、入居者を探すにも苦労しないように思えるが、マンションには大きな問題が三つあった。


「管理費の滞納が150万かよ……ダメだな」


一戸建ての場合と違い、マンションには必ず管理費がかかる。


競売物件になるような物件は、管理費の滞納があるケースが多かった。。


考えてみれば当たり前で、何らかのローンが払えないから競売にかかるのである。


管理費をまともに払っているわけがなかった。


そして、滞納している管理費は、落札した者が代わって払わなければならないのである。


「それに、管理費を払わないといけないんだったら、結局家賃を払っているのと一緒だし」


マンションは所有する限り、組合に強制的に管理費を払わなければならない。この金額は古くなるほど高くなり、多ければ月2万円ほど余計に払わないといけない。


「家賃から管理費を引いたら、大して残らないよな……」


管理費の分利回りが落ちる。まして入居者がいなかったら出て行くばかりになり、「資産」から「負産」になってしまうのである。


たたでさえ余裕のない新人には、そんなリスクを負えなかった。


「それに、最大の問題は、管理費を払ってなお大きな出費が求められる事だ」


マンションが建てられて10年、20年と経過するうちに、当然劣化していく。その補修の為に積立金を管理費の中から貯金していくのだったが、それで賄えないケースも多いと聞く。


大規模修理の時に所有していれば、追加で何十万と費用を出さないといけない


以上の理由からマンションは避けていたのだったが……


新人の目はある物件に釘付けになった。


「えっ? ここってまさか……」


新人が住んでいる団地の中にある、中規模のマンションの一室が競売にかけられていた。


「あのマンションか……しかも買受可能価格420万か……安い」


慌てて詳しく調べてみると、魅力的な物件であることがわかった。


マンションの一階部分で、広さは3LDK70㎡。築20年だけどそれほど汚れてはいない。


これだけならどこにでもある平凡なマンションだったが、大きな特徴があった。


駐車場に専用の前庭が直結していて、2台駐車できるのである。


「うーん。これが本当に420万で手に入るなら、願ってもないけど……」


以前は不動産に関心がなかった新人だったが、さすがに同じ団地のマンションのことは知っていた。建てられたときの価格は2500万円を超えていたのである。


しかも歩いて二分のところにある物件なので、管理がしやすかった。



「だけど……管理費が……」


諸費用のことも詳しく乗っていて。管理費10000円 修繕積立金10000円 前庭使用料3000円である。そして滞納管理費が意外に少なく、30万円ほどだった。


「だけど……どうせ420万円じゃ手に入れられないだろうな」


写真を見る限り、中の部屋は綺麗に使われている。ずっと競売の結果をみていた経験上、こういった物件は複数の入札者が居て、競争が激しくなる傾向があった。


……いいや。マンションだし。今回はやめとこうか」



散々悩んだ挙句、見送りをする新人。


しかし、またもや同じ間違いを繰り返す事になるのだった。



それから一ヵ月後、競売の開札結果を見た新人は絶句する。


「なんで俺が目を付けた物件って、よく売れ残るんだよ」


一人で愚痴ってしまう。結果は「不買」となっており、一人も入札者が居なかった。


「また特別売却かよ……入札しておけばよかった」


迷ったらともかくも買受可能価格で入札しておけばいいだけだったのに、チャンスを逃してしまったのだ。


「……しかたない。特別売却に参加するか……」


一ヵ月後、目を付けたマンションの特別売却が起こる。


今度は最初から自分以外にももう一人入札者が居て、二人の間で競売が行われることになった。


「それでは発表します。今回の落札価格は520万円で、大矢様に落札されました」


裁判所の職員が改札結果を読み上げると、新人の競争相手の男が悔しそうな顔をする。


しかし、新人の顔にも喜びはなく、渋い顔をしていた。


「最初から競売に参加していれば、買受可能価格で手に入れられていたのに……」


面倒に思って見送った結果、100万円も高い値段で落札する事になってしまったのである。


「……まあ、済んだことはいいか。また不動産屋に頼んでみよう」


こうして、二つ目の物件ほ手に入れることになったのであった。



例の不動産屋に連絡して代理交渉をしてもらったが、前回のようにすんなりとは行かなかった。


「入居者の方とお話が出来ました。例によって市営住宅に移ることを希望されてますが、今月いっぱいは残りたいそうです」


「ああ、それくらいならいいですよ」


多少引き渡し時期が遅れる事ぐらいなら、問題はない。


しかし、今回はそれだけでは済まなかった。


「あと、引越し代として15万円ほど要求されています」


「やっぱり必要なのか……」


前回のように、立ち退き料も要求せずに出て行くというのはまれなケースになる。


やはり、家を取られて出て行くなら、少しはお金を貰いたいという人が多数派であった。


「まあ、仕方ないですね……」


新人はしぶしぶながら、立ち退き料を払う事に同意した。


ここで話がこじれて、居座られたら強制執行するしかなくなり、そうなるとまた別途費用に数十万かかるのである。


マンションに住んでいた家族は、不動産屋を通じて立ち退き料も受け取り、おとなしく出て行った。


そして立ち退き後、鍵を受け取って室内に入ったのだが……


「なんじゃこれ? 」


一目みるなり、室内の参上に驚いてしまう。


ほとんどの家具がそのまま残っていたのであった。


「どうやら最低限必要なものだけ持って引越しされたみたいですね」


不動産屋が冷静に説明する。


「そ、そんな……たしか、私のものになるのは家だけで、中にある荷物には手をだせないんですよね。下手に処分したら問題になるんじゃ……」


思わず動揺してしまう新人だったが、不動産屋はもちろんその事についても上手く処理してくれていた。


「その点は大丈夫ですよ。引越し代と引き換えに書いてもらった立ち退き同意書に、残存物について自由に処分することを同意する文言も入っていますから。残された家具やその他の荷物は、遺棄されたものということになります」


「ほ、本当ですか? よかった……」


ほっと胸をなでおろす新人だったが、不動産屋は続けていった。


「ただ、ゴミの処分にもお金がかかりますね」


「はい……」


また余計なお金がかかってしまう新人だった。


「リフォームの見積もりですが……まず家具を処分してからじゃないと細かいところがよくわかりませんね。まずその手配をしましょう」


「お願いします……」


もはや、全てを任せるしかなかった。


数日後、不動産屋が手配した廃品回収の業者がやってくる。


「これは……多いな」


やってきたおっさんたちも、室内のゴミ屋敷のような惨状に絶句する。


それほど広くもない3LDKのマンションだったが、すべての部屋の中にはタンスやベッド、ゴミなどが散乱してした。


「……競売物件の資料にあった写真じゃ、綺麗だったのに……」


「住宅ローンなどの支払いが滞って、実際に競売にかけられるまでには時間がありますからね。おそらく、裁判所の職員が来て写真を撮っていった後、家族の間でもめて、生活が荒れたのでしょう。小さいお子さんが居る家庭でしたよ。これからどんな生活をされるのでしょうね……」


不動産屋が物悲しい顔で語る。


荒れた部屋からは元の所有者の悲哀が伝わってくるようだった。


「うーん。競売物件一つをとっても、それぞれドラマがあるなあ……」


前の家の元所有者みたいに、ローンがなくなってせいせいして家を出て行くものもあれば、イチからやり直しになって悲嘆にくれて出て行く者もいる。


新人がそれぞれの家族について考えていると、おっさん達から声をかけられた。


「兄ちゃん。そこにいると邪魔だぜ」


リビングに立って一人物思いにふける新人を迷惑そうな目で見ていた。


「あ、すいません。手伝いましょうか?」


「いいよ。かえって邪魔になるから、おとなしくしていてくれ」


清掃業者のおっさんはそういいながら、実に手際よくゴミを処分していく。


あっという間に細かいゴミは片付けられ、大物の家具が残された。


「これって、まだ使えると思いますが、処分していいんですかい? 」


立派な食器棚をみて、業者が惜しそうな顔をして、新人に聞いてくる。


確かにまだ新しくて、捨てるにはもったいなかった。


しかし、新人は首を振る。


「いや、いいですよ。全部持っていってください」


新人はそう指示して運んでもらった。


他にも広いダブルベッドやリビングのテーブル、パソコンなどもすべて処分してもらう。


「まだ使える家具は、リサイクル業者に売るという方法もあったんですがね」


「いいんですよ。全部持っていってもらいましょう」


不動産屋の言葉に、新人は笑って答えた。下手に売り飛ばして、もし元の所有者から苦情が来てトラブルになるようなことがあったら、また面倒である。


かといって自分の家に運んで使うというのも、元の所有者が破産していることを知っているので、どこか因縁がついているような気がして気持ちが悪い。


ここは変な欲を出さず、まだ使える家具なども全部捨てようと決めていた。



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