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若者は大家を目指す  作者: 大沢 雅紀
16/42

退去と入居

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また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

ようやく冬も終わり、温かくなってきた三月の始めである。


またまた不動産屋から電話がかかってくるのだった。


「あの、大矢さん。実は派遣会社から連絡があったのですが……」


不動産屋の声は実に気の毒そうだった。


「……はい。まさか……」


「ええ。三月いっぱいで、ご退去されるとのことです」


それを聴いた瞬間、新人は目の前が真っ暗になってしまった。


「……どうして……まだ入居して一年もたってないのに……」


「これも不景気の影響なのかもしれません。どうやら中国人の方々の派遣の契約が終了して、再契約されなかったみたいですね」


不動産屋はいろいろと説明してきたが、新人にとってはどでもいいことである。


「わかりました。あの……これから、どうすれば?」


「とりあえず、退去それた後に一緒に見てみましょう。……習慣が違う男性が五人も生活していたので、もしかしていた荒れているかもしれません。その時は敷金を使って綺麗にしましょう」


「……」


またまた新たな不安の元が生まれてしまう。


「で、でも考えようによっては運がよかったかも知れません。これから引越しのシーズンですから、案外すぐに入居者が見つかるかもしれませんよ」


不動産屋はそういって慰めてくるが、新人の不安は消えない。


(大家って何もしないで不労所得が入ってくると思っていたのに……こんなに色々とトラブルかあるなんて……。こんなことなら株や他の投資をしたほうが良かったかも)


本で読んだりネットで見たりすることと、実際にやるのは大違いである。


新人は大家には大家なりの苦労があるものだとしみじみと思うのだった。



そして迎える退去日。


入居していた中国人たちは、実にあっさりと出て行った。


「さあ、入ってみましょう」


「はい……外国人が5人も住んでいたんだから、中は滅茶苦茶に汚れているかも……」


不動産屋とおそるおそる中に入り、部屋の状態を確認する。


「あれ?」


予想に反して、室内はそれほど汚れてはいなかった。


「うーん。ここに染みがりますね。何かこぼしたのでしょうか?」


一回の和室の畳には大きな黒い染みがある。


「二階の襖が破れていますね。ぶつけたのかな?」


二階の和室のしきりに使われている襖に、頭が入るような穴が開いてある。


大きな破損はそれだけであった。


「畳の表層替え一枚と、襖の修復。すこし 多く見積もってクリーニング代が10万ほどですね。これなら敷金の範囲で納まるでしょう」


「本当に?よかった……」


新人は大きく胸をなでおろす。


「なので、残りの敷金8万は相手に返さないといけませんね」


「は、はい……」


それを聞いて、新人はがっかりする。


受け取った敷金は半ば自分のものみたいに思っていたので、感覚的には余計な出費のような気がしていた。


最後にもう一時家の中を見回りして、新人はあることに気がつく。


「あの、このエアコンは? 」


貸したときにはなかったエアコンが、二台ついてあった。


「おそらく、入居者が自費で取り付けたんでしょうね。どうするか相手様に聞いてみましょう」


不動産屋が電話をして問い合わせたところ、そのまま放棄していくらしい。


「このエアコンはまだまだ充分使えますよ。よかったですね」


「はぁ……。まあ、確かにタダでエアコン貰ったし……」


微妙な感じはするが、設備が充実したのには間違いない。


「それでは、新しい入居者を募集しますね」


「はい。今度は長く住んでくれる人をお願いしますね。


こうして、わずか半年で新人は大家の立場から転落したのだった。



新人の最初の貸し出しは、出費だけかさんで大して儲からない結果に終ったが、決して無駄にはなっていなかった。


今まで考えもしなかったトラブルを経験する事で、色々と学ぶ事が出来たのである。


そして中国人が退去してから一週間後―


「大矢さん。新しい入居希望者が見つかりましたよ」


弾んだ声の不動産屋から電話がかかってきた。


「ええ? もう?」


一ヶ月以上かかるとおもっていたので、次の入居者が見つかって拍子抜けする。


「ええ。今は引越しシーズンなので、一年で一番見つけやすい時期なんですよ。喜んでください。今度は日本人の家族ですから、長く住んでもらえると思いますよ」


「本当に? よかった……」


新人は胸をなでおろす。


「ただ……一つだけ問題といえば問題なんですけど」


「またですか。もうなんでもどんとこいですよ」


新人は開き直って笑う。いきなり最初から外国人五人に貸すという荒行を経験しているので、少々のことでは驚かなくなっていた。


「ありがとうございます。実は、生活保護の家庭なんです」


「生活保護……」


さっきまでの勢いはどこえやら、新人の声のトーンが落ちる。


生活保護家庭に貸して、ちゃんと家賃払ってもらえるのかと不安になった。


「あ、あの。゛生活保護って自力では生活が難しい人が受ける制度ですよね。そういう人に貸して、果たしてちゃんと家賃を払ってもらえるのでしょうか……?」


当然の疑問を不動産屋に聞くが、彼は笑っていた。


「いや、その心配はないでしょう。なぜなら。生活保護者に対しては、家賃は大家に直接市から振り込まれるからです」


「えっ?」


意外な事を聞かされて、新人は驚く。


「それじゃ……」


「ええ。家賃が遅れることも、支払われないこともありえません」


それを聞いて、ようやく新人は安心するのだった。


数日後、生活保護を受けている家族が入居してくる。


「家賃の支払いの心配がないら、ずっと入居してくれればいいな……。お子さんも小さいし、せめて成人するぐらいまでいてくれれば……」


そんな新人の願いはかなえられ、この家族はこれから長い間入居する事になる。


こうして、新人の最初の大家業はどうにか成功するのだった。



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また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

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