初めての不労所得
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それから一ヶ月
不動産屋から新人の携帯に連絡が入った。
「大矢さん、入居を希望している方が見つかりました」
「ほ、本当ですか? よかった……」
あれからすぐに反応があるかと思っていたが、予想は外れて一ヶ月何もなかった。
そろそろ不安になり始めていた頃だったのである。
入居希望者が現れたと聞いて、新人はほっとするのであった。
「それが……少々特殊な入居者になるんですが……」
なぜか電話の不動産屋は、歯切れがわるい。
「え? 特殊って……?」
新人が聞き返すと、不動産屋は入居希望者について説明を始めた。
「まず、家賃は相手様から60000円にして欲しいという希望がありました」
「……まあ、それくらいならいですよ」
自分でもちょっと家賃設定は高かったかなと思っていたので、家賃の減額に快く応じる。
「そして、契約者は派遣会社になります。法人契約だから、家賃の支払いが滞るということはあまりないですね。当社も何件も紹介させていただいている取引先です」
入居には法人が契約者になって、そこの社員を住まわせることを希望しているらしい。
「うん。いいじゃないですか。個人よりも法人のほうが、家賃をきちんと払ってもらえるかも」
なんとなくだったが、法人貸しのほうが信頼できるイメージがあった。
ここまでは良かったのだが、次の言葉を聞いて新人の顔はこわばる。
「実際に入居されるのは、若い男性が五人ですね」
「ご、五人ですか……? 」
五人も共同生活するということで、家が荒れるかもしれない。
さらに、不動産屋はとどめの一言を放った。
「ええ……それと申し上げにくいのですが、入居者は全員中国の方です」
「えっ……」
それを聞いて絶句する新人。
いきなり外国人が五人も入居すると聞いて、さすがに躊躇する。
そんな新人に、あわてて不動産屋はフォローを入れる。
「ご心配要りませんよ。彼らはちゃんと会社が管理してくれていますから。技術を学びにくる留学生のようなものです」
「で、でも……、もし家賃が滞納とかしたら、どうやって交渉したらいいか……」
当然の不安を新人は漏らすが、そのことについては問題ないと不動産屋は断言した。
「それた大丈夫です。あくまでも派遣会社が『契約者』なので、何かトラブルがあった場合はすべて派遣会社に責任がいくようになっています。入居される方も中国で信用の置ける会社に勤めている人たちだから、不法入国されるような方とは階層が違います」
「は、はあ……そうですか……」
それを聞いて新人も少し落ち着く。
「それに、正直この物件で入居者を探すのには苦労しています。やはり一戸建てとはいえ、丘の上にあるのは問題があるかと……」
「たしかにそうですよね……」
そういわれて、新人は納得する。
この際、贅沢を言っている余裕はないのである。
「わかりました。その方でいいです」
こうして。ともかくも入居者が決まった。
「それでは、敷金三ヶ月分と翌月家賃をお支払いします」
家賃四か月分、24万を受け取って、代わりに鍵を渡す。
「……これで、バイト代16万と家賃6万で、月収22万か。うん。いいかも。どうせ結婚する予定はないんだし、一人で暮らしていくのなら充分だ。後はこれを繰り返していけば……」
こうして、新人の大家デビューは成功し、毎月不労所得を手に入れることができるようになったのだった。
某保険会社のコールセンター。
勤めはじめて半年間、ようやく新人は仕事に慣れ始めてきた。
電話を取る件数も平均に達し、面倒な電話がかかってきても対処法を学びだした。
「あんたの所はどうなっているんだ」
「お客様にご不快な思いをさせて、申し訳ございません。それでは、上司の者に代わりますので、少々お待ちください」
電話を保留して、女性上司に相談する。
「こんな感じで怒っています」
「わかったわ。電話をつないで」
淡々と上司にバトンタッチして、次の電話を取る。次第に仕事の要領がわかってきた。
要するに、ひたすら頭を下げて相手をクールダウンさせて、それでも納得しない面倒な電話客は、さっさと上司やさらにその上の正社員に丸投げすればいいのである。
下手に自分で対処しようとするから余計にこじれる。新人は処世術らしきものを学び始めた。
こうして仕事に余裕ができてくると、周囲と雑談する余裕も出てくる。
こっちから話しかけるようになってくると、職場の女性たちも段々と新人を仲間として認めてくれるようになってきた。
「新庄さんの家は賃貸なんですか? 」
暇なときには、隣の席の人と家庭の話をすることもあった。
「そうなのよ~。家賃が高くて困っちゃうわ。毎月5万もするから大変。もう20年も住んでいるんだから、ちょっとは家賃を安くしてくれてもいいのにね~」
隣の席の、人のよさそうな顔をした小太りのオバサンが嘆く。
「毎月5万で20年って、つまり総額1200万ですか? 中古の家なら買えていますよね」
新人がそういうと、新庄さんは残念そうな顔になった。
「そうなのよね~。でも入居した当時は、今とは比べ物にならないほど家が高かったしね。それでも、水商売していて羽振りがいいときもあったから、いつかは家を買って出て行くつもりだったけど」
悲しそうな顔になる。
「え?新庄さんって夜の仕事していたんですか?」
新人は驚く。彼女は美人でもないただのおばさんで、正直元ホステスとは思えなかった。
新人の顔をみて、彼女は不機嫌になる。
「失礼ね。これでもバブルの頃はナンバーワンだったのよ。Tバックにボディコン来て、男をはべらして、扇子もって踊っていたんだから。ジュリアナのお立ち台に乗ったこともあるわ」
新庄さんはプンスカと怒りながら、何かをもってクネクネとしたしぐさわする。
「はあ……」
意味不明な単語を聞いて、新人はあいまいな顔になる。生まれたときから不景気しか知らない彼にとって、バブル時代など御伽噺である。
そんな新人を見て、新庄さんは苦笑した。
「まあ……昔の話よね。そのあともホステスしていたんだけど、でもやっぱり夜の仕事はだめね。肝臓を壊してやめたわ。娘も生まれたけど、直後に男にも逃げられたし……後は諦めて、ずっとコールセンターで働いているの。女手一つで子供を育てるのって大変なのよ。家を買うどころじゃなかったわ」
そういうと、新庄さんは寂しそうに笑った。
「それはまた……なんかすいません。生意気な事を言ってしまいました 」
新人は気まずい思いをして、謝った。
「いいのよ。それに、住んでいるところにも愛着があるしね。できればずっと、今の家に住みたいんだけどね……」
新庄さんのつぶやきを聞いて、新人はある事を思いつく。
「なら、大家さんに交渉して今の家を買い取ればいいんじゃないですか? 家賃5万円を払う事を思えば、長いローンを組んだら同じぐらいになるんじゃないでしょうか? 」
新人は名案を思いついたとばかりに言うが、新庄さんは苦笑した。
「うん。私もそう思って、交渉したこともあったけど、ダメだったわ。大家さんが頑固な人でね。例え何十年貸したとしても、家を売るつもりはないみたいよ」
「そうですか……それは残念ですね」
「それに、パートのオバサンなんかに、銀行はなかなかお金を貸してくれないの。まあ、当分は今のまま賃貸暮らしね」
新庄さんはそういうと、仕事に戻っていった。
家を借りている人の話を生で聞いて、新人はピンとくる。
「そうか! 最初は賃貸で人に貸しておいて、何年かしたら入居者に高く売りつければいいんだな。そうすれば古くなる前に家を手放す事ができるし……今の家もそうしよう」
賃貸物件を所有するリスクの一つに、経年劣化してリフォーム代がかかるというものがある。
それを考えると、適当に人に貸して、元金が回収できた頃に売り飛ばす方法もある。
「ふははは……これで金持ちになる道筋が見えてきたような気がするな……」
だんだんと小ずるくなっている新人だった。
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