表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若者は大家を目指す  作者: 大沢 雅紀
11/42

内見

少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「更新がんばって!」と思っていただければ、↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです。


また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

二日後、不動産屋から連絡が入る。


「大矢さん。例の物件に訪問したところ、前の所有者の方がおられました。老夫婦の二人家族でしたよ」


「そうですか……それで?」


新人はドキドキしながら、交渉結果を聞く。


「お話をした所、半年前に裁判所から競売にかけられる通知が届いたときから、覚悟はされていたようです。出て行かれるための準備もされていたようで、家には家具などもあまり残ってはいませんでした」


「本当ですか? よかった……」


それを聞いて、新人は心の底からほっとする。


「実は訪問した時には、最後に残った荷物を取りにこられていたみたいでした。これから市営住宅に入られるそうです」


「よ、よかった。それで……引越し代のほうは……? 」


新人がおそるおそる聞くと、不動産屋は笑い出した。


「ふふ。それが……引越し代は必要ないみたいですよ」


「え? なんで? 」


出費を覚悟していたところにいらないといわれて、キョトンとなる。


「ああ、なんでもこれから生活保護を受けられるそうなので、市が引越し代を持ってくれたみたいですね。自己破産して借金もなくなったし、生活の不安もなくなった。これから第二の人生を夫婦で楽しむといって、笑って出て行かれましたよ」


「はぁ……よかった」


それを聞いて新人の体から力が抜ける。


新人が一番心配していたことは、何の問題もなくあっさり解決してしまったのだった。


「こんなにスムーズに行く例は珍しいんですけどね。ただ……実は、他の面でかなりの問題がありました」


「も、問題って?」


立ち退き問題が解決した直後にそういわれて、新人は再び緊張する。


「それは実際にご覧になられたほうが、納得されるとおもいます。鍵を受け取っていますので、今から見にこられますか 」


「は、はい。今すぐいきます」


新人はう不安と期待で混乱しながらも、晴れて自分のものになった物件に向かうのだった。




新人が落札した一軒家


そこでは、担当の不動産屋が待っていた。


「大矢さん。来るの早いですね」


新人を見た不動産屋が明るく笑う。


「も、問題があると聞いて、いてもたってもいられなくなって……」


焦ったようすの新人に、不動産屋は苦笑した。


「言い方が悪かったですね。ある意味当然というか、想定内というか……まあ、とにかく入ってみましょう」


そういって、不動産屋が玄関の開き戸に鍵を差し込む。


そのまま回してあけようとしたら……動かなかった。


「え? なんで……?」


「引き戸の下のコマが壊れているようですね。まずここを交換しないと、スムーズに動きません」


最初の一歩目からこの有様である。さすが100万円台の家だった。


気を取り直して、なんとか扉を持ち上げて玄関を開ける。


「うっ……」


最初に目に入ったのは、細かい傷が無数に入った玄関の上がり口だった。


昨日まで人が住んでいたのでホコリとかはなかったが、なかなか年季が入った玄関である。


建てられて30年は経過しているだろう床はも、少し黒ずんでいて傷だらけだった。


「ま、まあ……この程度は……」


「そうですよ。玄関は比較的綺麗なほうですね」


「これで……?」


中に入るのが恐ろしくなってくる。


「それじゃ、家を見て回りましょう」


こうして、新人の屋内探検が始まった。



「それでは、まずはトイレから見てみましょうか」



玄関の脇にあるドアを開ける。


すると、普通の洋式トイレがあった。


「あれ? 意外と綺麗ですね」


「ええ、ウォッシュレット付で水も流れますね」


トイレは何の問題もないらしい。


「あの、『問題』って?」


「はい、それではこちらに……」


不動産屋の案内に従い、六畳ぐらいの台所に通じる扉を開ける。


新人は一歩踏み出そうとして……できなかった。


「こ、これは……」


一目見ただけで『問題』が分かる。


台所の床は全体的に腐ってぶかぶかで、ところどころ崩れ落ちている所もあった。


競売にかけられているときに公表されていた内部写真よりもひどい。


「どうやら、湿気と老朽化で、とうとう床が抜けたみたいですね」


不動産屋は淡々とコメントする。


新人はその惨状をみて、一気に不安になっていった。


「ほ、本当に直るんでしょうか?」


思わず聞いてみるが、不動産屋は平然としていた。


「まあ、大丈夫でしょう。床を前面張替えをして、ビニールクロスで張れば綺麗になりますよ。それに、このキッチンも代えなければなりませんね」


「い、一体いくらぐらいかかるんでしょうか?」


家のリフォームについて何も知らないので、何百万もかかってしまうかもしれないと思う。


「まあ、賃貸物件向けにリフォームする場合、そこまで高級な素材にする必要はないですから、あまり高くはならないと思いますが……とりあえず、一回りしてみましょう」


不動産屋は次に風呂場に案内する。


ここもあまり綺麗とはいえなかった。


「この洗面台って、大昔のタイプじゃ?それに、なんか変な穴が開いているし……」


脱衣所は一応あったが、洗濯機を置く場所もない。



「それに……風呂場もなぁ……」


お風呂場は昔懐かしい全アルミ製の風呂で、タイルの一部が割れている。おまけにシャワーもついていなかった。


さらに問題なのは、長い間使用していたせいか、天井はくすんでカビだらけである。


次々と直さないといけないところが見つかって、新人は気落ちする。


「まあ、この程度ならすぐ直りますよ。天井は外壁と一緒に吹きつけすれば綺麗になるでしょう」


不動産屋は慣れているのか、実に冷静だった。


新人のテンションはだんだん落ちてきているが、他にも確認しなければならない。


気を取り直して、他の部屋にいく。


一階には台所のほかにも六畳の客間があって、そこの障子はやぶれほうだい、古いエアコンは半分壁から落ちかけていた。


「ここは畳の表層がえをして、障子を張り替えて、エアコンは撤去しましょう」


「……お任せします」


もはや素人の新人は、任せるほかはない。


「では、次に二階に行ってみましょう。ですが、階段に気をつけてください」


不動産屋の言うとおり、二階へ続く階段を上っていくと、ギシギシときしむ。


「これって……危ないんじゃ?」


「おそらく、階段を支える板のどこかが割れていると思うので、後でみておきましょう」


「はい……」


どんよりとした気持ちで二階に上がると、そこには洋室六畳間と、ふすまで仕切られている四畳半と六畳の和室があった。


「二階はそれほど荒れてないな……」


部屋の様子を確認してほっとする。ふすまが破れている程度で、天井に染みもなく、どこにも雨漏りもしてないようだった。


なんとか今でも住めるような状態である。


「なるほど……大体わかりました。最低でも外壁の塗装と台所の床、お風呂場の修理は必要ですね。後でリフォームがどれくらいになるか、見積もりをしましょう」


「……なるべく安くお願いします。その、あんまりお金がないので、賃貸に出せる最小限のリフォームでお願いします」


情けない顔で頼む新人に、不動産屋は笑顔を見せる。


「承りました。まあ、それほど高い値段にはならないと思いますよ。100万円台の物件と聞いて、もっとひどいものかと思っていました。これならリフォームすれば借りたいという人もいるでしょう」


新人を安心させるように言う。


この不動産屋は誠実で信頼できそうだったので、すべてを任せる事にするのだった。



少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「更新がんばって!」と思っていただければ、↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです。


また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=569357356&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ