不動産屋に依頼
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一般人が競売に抱くイメージは何か?
「住宅ローンが払えなくなって、人手に渡った因縁がついた物件」
「ヤクザとか訳ありの人間が手を出す物件」
「せっかく手に入れても、元の住人が居座って出て行かない物件」
色々とあるが、このようなものだろう。
もちろん新人もこのことは承知である。だから入札の時点でいろいろと考えていた。
「第一の問題は、賃貸にまわして人に貸す事にして……」
さすがに住み慣れた家を離れて、競売物件に引っ越すほどの度胸は新人にはない。
「次の問題は、入札の段階で法人が入っているビルとか、新しくて大きな家とかを避けて……」
今では法整備が進み、競売に絡む不法行為で利益をあげることは難しくなっている。
それでも新しくて大きな物件ならリスクを犯す価値もあるので、変な入居者もいるらしい。
しかし、普通の人が住む数百万の物件ではそういったことは避けることができた。
よって、一般人が競売に手を出す事の最大のリスクは、最後の「立ち退き交渉」にあるといえた。
「素人の俺じゃ、自分で立ち退き交渉なんて無理だ。だから、ここはやっぱりプロに頼もう」
さすがに新人は直接住民を追い出すほど勇気はない。
というか、できれば顔を合わせたくなかった。
そこで何とかならないかネットで調べたところ、料金さえ払えば入居者に大して落札者に代わって立ち退き交渉わしてくれる不動産屋があるらしかった。
それで何件もの不動産屋に電話して、自分の代わりに交渉してもらえるか聞いてみた。
「あの、競売物件を落札したんですけど、立ち退き交渉をしてもらいたいんですけど……」
「申し訳ありません……当社ではそのようなことはしておりません」
しかし、大体はこのように断られる。
「あの……ホームページでは不動産競売の代行をしてくれると書いてあったんですが……」
「それは、お客様からご依頼を受けて、競売の代行手続きをするといったことですね。その業務には、すでに落札された物件の入居者立ち退き交渉は含まれておれません」
けんもほろろに断られ続ける新人。
「くそ……競売手続きの代行なんて、たかが数枚書類を書いて保証金を払うだけじゃん。そんなの誰だって出来るよ」
そうは思うが、競売をしたことがない人にとっては敷居が高いのだろう。
不動産屋にとっては面倒でリスクを背負う、立ち退き交渉だけすることにメリットはないに違いない。
「こうなったら、自分でしないといけないかな……」
そんな事を思って不安になるが、その手間を思えばなるべくしたくはない。
新人はわらにもすがる思いで、電話をかけ続けるのだった。
そして数十分後―
隣町にある不動産に電話をかけたところ、男性が出た。
「不動産の立ち退き交渉ですか……うーん」
男性の声は困惑しているようである。
「お願いします。もう落札してしまって、後には引けないんです」
新人の必死に訴える声を聞いて、男性は苦笑する。
「はい。わかりました。それではお話をお聞きしましょう」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます! 」
やっと話を聞いてくれる不動尊屋を見つけることが出来て、新人は喜ぶ。
「では、所有権の書き換えが終わったらこちらに来てください」
「あ、それはもう済んでいるみたいです」
所有権が書き換わっているか確認するために、法務局で取ってきた登記簿謄本を確認する。
「そうですか。それでは資料をもってこちらにご来店ください。きっとお力になれると思います」
そりを聞いて勇気付けられた新人は、競売物件の資料一式をもって不動産屋に向かった。
隣町の不動産屋
「いらっしゃいませ」
決して大きくはないが、掃除が行き届いている小さな不動産屋に入る。
ウィンドウには多くの賃貸物件が貼り出されており、その一部には売買物件もあった。
新人が訪れたのは大手の業者ではなく、地元密着で長年やっている小規模の不動産屋だった。
いかにも『町の不動産屋さん』といった雰囲気が感じられる。
大手の綺麗なオフィスだったら萎縮するような気がしていた新人は、そのおだやかな雰囲気にほっとしていた。
「お電話された大矢さんですね。お待ちしておりました」
入ってきた新人を、電話で話した年配の男性がにこやかに迎えてくれる。
はるかに年が若い新人に対しても丁寧に接してくれて、新人は好感を持った。
「は、はい。よろしくお願いします」
一つ頭を下げて、新人はカウンターに座る。
「はい。どうぞ」
いかにもベテランといった感じのおばちゃんがお茶を持ってきてくれた。
「なるほど。確かに所有者はお客様になっていますね」
登記簿謄本の所有者の名前と免許証を照らし合わせて確認をする。
「それではお話を聞きますが、どういったことでしょうか?」
「実はですね……」
新人は担当の男性に、今までの経緯を話す。
その話を聞いた男性は、感心したような、呆れたような顔をしていた。
「なるほど……競売物件を手に入れて、大家になりたいと」
「ええ。色々考えたけど、俺の頭じゃこれ以外の方法がなくて……」
必死に顔をする新人に、男性は微笑みかける。
「いや、若いのにしっかりとした考えをされています。確かに、株や変な金融商品に手を出すより、実際に『家』というモノを手に入れられるわけですから、確実ともいえますね」
「そ、そうですか?」
今までに人に褒められた事があまりない新人は、それを聞いて照れる。
「ですが、競売に手を出す前に、入居者の退去をどうするかについて、もう少し調べたほうが良かったかもしれませんね。不動産業者の中には、わざと入居者とグルになって素人の落札者に多額の立ち退き料を請求する悪い業者もいますからね」
お茶を飲みながら、穏やかに不安になる事を言う。
「そ、そんなのもいるんだ……それで、手数料はいくら必要でしょうか? 」? 」
新人は不動産屋など初めてなので、緊張していた。
その様子をもみて不動産屋は安心させるように笑い、説明を始める。
「ははは、あくまでそんな例もあるということだけですよ。ご安心ください。私どもは、営業エリアにある物件なら、立ち退き交渉などにかかる手数料はいただいていません」
「え、それじゃ不動産屋さんの儲けがないんじゃ……?」
通常、不動産屋に立ち退き交渉を頼むと、それなりの手数料が必要であるとネットで知ったので、おそるおそる聞く。
「もちろん、私どもも商売ですので、他のお仕事で儲けさせていただきます」
担当の男性はニヤッっと笑い、話を続ける。
「写真で見た限り、この物件を賃貸に出そうと思うと、だいぶリフォームが必要ですね。当社ではリフォームも請け負っていますので、お任せていただけませんでしょうか? 」
競売資料をめくりながら説明する。
「は、はあ。お願いします」
もはや新人にとって、頼れる相手は彼しかいない。嫌も応もなかった。
「そして、賃貸募集は当社専属で行わせてもらってよろしいですか?」
「もちろんです」
こうやったらすべてを頼むしかない。こうして、賃貸募集とリフォームを任せることにした。
「ありがとうございます。それでは、誠心誠意交渉に当たらせていただきます」
短刀の男性が頭を下げる。
なし崩しに物事が決まっていくが、新人の不安はなかなか解消されなかった。
「あの、それで……本当に出て行ってもらえるのでしょうか?」
新人の不安そうな顔を見ながら、男性はゆっくりと説明を続ける。
「我々もこういった競売物件を取り扱ったことはありますが、大体のところはスムーズに話がつきますよ。競売にかけられることは元の所有者の方も理解されていますので、家を出て行く手はずをする時間的余裕はありますから」
「そ、そうですか……」
それを聞いて新人は少し安心する。
「ただ……所有者に連絡がつかないケースや、モノが大量に残されているケースは厄介なのです。
相手がいないと交渉ができませんし、モノの所有権は元の持ち主にありますから、勝手に動かすことができません」
それを聞いて新人はまた不安になる。
「そ、それじゃ……もしかしてすでに退去していて、物がたくさん残っていたら……」
「ええ。お気の毒ですが、『強制執行』を裁判所に申して立てて、荷物を運び出してもらうしかありませんね。残った物に対しては落札者は何の権利もないので処分できないのです」
「やっぱり……」
新人はまた不安になってしまう。
「今回の物件にはまだ入居者がいるんですよね?」
「は、はい。それは確認しています」
新人は物件を落札してから、毎日のように見に行っていた。
ベランダには洗濯物が広がり、駐車場には軽自動車がとまり、そして夜になったら電気がつく。
何者かが家に住んでいるのは確実である。
「それでしたら、交渉できるので、トラブルになる確率は低いと思いますよ。まあ、ここで話していても始まりません。私どもが訪問して、入居者と話をしてみましょう。それから、出て行く代わりに引越し代を要求されることがあります。本来は払う必要はないのですが、居座られてゴネられるよりは払ったほうがいいでしょう。その点だけはご了承ください」
「ああ、やっぱり引越し費用がかかるんですね……」
新人はよけいな出費がかかるとおもって、肩を落とすが、仕方がないと諦める。
居座られたり、荷物を置き去りにして逃げられたら、新たに裁判所に強制執行の手続きをとらないといけない。そうすると数十万の費用と時間がかかるからである。
「それでは、物件の交渉を、私どもに委託されたという委任状をいただけますでしょうか?」
「わかりました。お願いします」
新人は委任状を書き、不動産屋に交渉を依頼するのだった。
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