4.無意識空間並びに意識空間
意識が沈む。どんどん、どんどん、光が失われていく。何者かに意識を奪われてからずっとこの景色を眺め続ける。でもなぜだろう、星空の様な包容感に包まれていくような気がした。この闇になら…
「ケホッ、ケホッ。もう、何やってんの?」
ふと我に返る。この空間はあのモヤに包まれた僕の意識空間らしい。うっすらと記憶が見える。危うく僕の『無意識』に呑まれそうになった。声の方を振り返ると見覚えのある人が立っていた。
「フレア…なの?」
「やあ、久しぶり。それにしてもひっどいねぇ、こんなに記憶が埋もれている人なんて滅多にいないよ」
そういえばポッドから出る以前のこととか何も思い出せない。強引に思い出そうとすると頭痛に苛まれる。
「あぁ、無理して思い出さなくてもいいよ。少しづつ思い出していけばいいさ。それより今の状況を打開しようか」
そうだ、入団試験だ。謎の声が頭の中に響いた途端に僕の意識はここに沈んでいったんだ。まずあいつは一体何なんだ?
「まず今君の中にいる彼について話をしよう。結論から言わせてもらうと、ケホッ!…失礼。奴はこのモヤだよ」
「??言ってる意味が解らないのですが、もう少し説明をいただけますでしょうか、フレアさん?」
「じゃあ、少し話を整理しようか」
そうして彼女からいろいろな事実を伝えられる。
話は僕が蘇生されたところまで遡る。僕はメアの闇属性最上位魔術『禁術・輪廻解脱』によって、転生の機会を失う代わりに蘇生することに成功する。闇属性魔術にあてられた人間は寿命が極端に長くなる代わりに転生後は極端に短命になるというデメリットを背負うことになるため、転生後は短いスパンで死を幾度もなく続くことになる。しかも一度転生をしてしまうと二度と解脱は不可能、かつ記憶を保有し続けて死に続ける。そのためメアはこのような苦しみを背負わせないように僕に転生をさせないようにしたのだ。
蘇生時には対象に大量の闇魔術を打ち込むことになるので、対象(僕)は例外なく体内に闇の力を保有することとなる。僕の場合はその力が記憶にあるモヤと結びつき、更に僕の忘れているであろう記憶を学習してああなったらしい。
「まあ、私の偏見も交えているんだけどね」
「それで、あれを止める方法はあるんですか?」
単刀直入に聞いてみる…が、
「ないッ!」
ド直球に言われてしまった。そこまで言う…?
「だけど、体の主導権を奪う方法ならある」
「どうすればいいんですか?」
自分でも驚くほどがっつく。僕の体だもん、返してもらわないと!
「この空間で自分の魔力を使うんだ」
「…ハア」
「即ため息!?」
だって魔力使えないんだもん。皮肉か?皮肉なんか?
「魔力は君にも使えるはずだよ。だって、あのアブナイ薬を飲んだんでしょ?」
「…でも一向に出ないんだよ、まさかあの薬、噓だったんじゃ」
「いや、それはない。だって一度使えてたし…」
ソッコーで否定される。どこからそんな自信がわいてくるのか。
「魔術はねぇ、イメージ力なんだよ。何もイメージできないと何も生まれない。君はこの世界で何を求める?何をしたい?何のためにここにいる?」
「僕、は…」
言葉に詰まる。明日の生活だけ保障してくれる人がいればそれでいいと思っていた。でも今は違う。僕は…
「苦しむ人々を助けたい、みんなに笑顔でいてほしい。守るための仲間を得るためにここにいる!!」
この言葉を聞いて彼女は安堵した表情で、
「そうか、そのために君は力を…ッ!」
突如僕の体からまばゆい光があふれ出る。蒼く冷たい、か弱い光。それでもこの空間を照らすのには十分な明るさだった。
「行きな、目標に向かって」
「じゃあね!ありがと、フレア!」
光が指し示す場所に向かって僕は進んでいった。
「全く、騙されやすいことだ。しかし、ここで君に退場されては困るんだよ、まだまだ働いてもらわないと…僕のマリオネットとしてね」
フレアだった者はその姿を男性のものに変え、走り去る氷牙を見送った後、静かに消えていった。その少し後…
「くそッ、遅かったか…あの道化、今度は何を考えて…!」
遅れて着いた本物のフレアは悔しそうに唇を噛んで独り言を呟く。
そして物語は現代へと戻る…
今日もう一本出す予定です。
そちらも見てくれると嬉しいな。