現役魔王がソッと教える魔王軍の超絶簡単・攻略方法
ちょっと下らない感じに仕立て上げた短編です。お楽しみ頂ければ幸いです。
「魔王様、緊急事態です」
俺は魔王、世界を闇に包むと人間からは恐怖、配下からは畏怖の念を一身に集めるもの。大好物はティーボーンステーキも真っ青の筋張ったワイバーンの頬肉ステーキ、昨晩もそれが俺の夕食で俺は朝の目覚めと共にそれを思い出す。
ワイバーンの肉は歯の隙間に挟まりやすい。俺はシーシーと口から音を漏らしながら歯間ブラシを使っていた。
そんな淀んだ闇が住民の心を狂わせる魔界の午前中だった。
俺の配下で開発部門担当責任者のガーゴイルが俺の部屋に静かに姿を現したのは。部下の突然の訪問に俺はソッとテーブルに使いかけの歯間ブラシを置いて、威厳たっぷりな様子で部下の方を振り向いた。
ビカビカー!! と部屋の外では魔王軍らしく激しい雷が落ちる音が耳に届く。その雷で俺の影が強調されて俺の不気味さと恐ろしさを増大していく。
だがそんなことは知らんと部下のガーゴイルは淡々と口を開く。
「魔王様、失敗しました」
「何をだ、怒らないから素直に言ってみろ」
「実は……大量破壊兵器の研究データを人間に傍受されまして」
「マジでーーーーーー!?」
思わず天を仰ぐ、とはこのことを指すのだろう。
俺は部下の失態に頭を抱えてしまった。数百年前までは魔王軍と名乗れば人間は恐れをなして尻尾を巻いて逃げたものだ。それが昨今は奴らもミサイルとか毒ガス兵器とか、物騒なものばかり開発するものだから俺も困っていたのだ。
そこでこのガーゴイルを兵器開発責任者に任命して一発逆転を狙おうと考えていたのだが、ここに来ても人間の技術力の恐ろしさを思い知らされてしまった。
ここ数年、人間は通信技術を急速に発展させて我が魔王軍に情報戦を挑んでくるようになった。その一端がこれだ。
俺はまさかの事態に頭痛と眩暈を覚えてしまい、思わず愚痴をこぼしてしまった。
「この前も傍受されたじゃん? あの失敗から学んでって何度も言ったよね?」
「それが研究所の設備全てにウィルスがばら撒かれておりまして……、気づきませなんだ」
ガーゴイルは毛髪も無いくせにガシガシと頭を掻きやがる。
とは言え部下の失敗を頭ごなしに怒ると昨今の風習で「パワハラだー」とか「セクハラだー」みたいなパッシングを浴びてしまう。更に悩ましいのは、こう言った噂がSNSで拡散すること。
魔王軍としても人間に負けじとソーシャルネットワークを導入したが、それが失敗の始まりだった。気が付けば俺は常に炎上の対象で魔王軍内部で最も流行っている『ツッツイター』なるSNSで『魔王軍を辞めち魔王』なんてものがトレンド入りしてしまった。
魔王軍は実はブラックだったようで、ここのところ若い世代に就職先として人気がない。魔王軍といえば人間で言うところの国家公務員だと言うのに、こんなに安定した職場はどこにも無いだろうと胡座をかいていた。
なのに若い世代ときたら「人間の世界で投資家になった方が儲かる」などと抜かして株だFXだと下らないモノにうつつを抜かすのだ。最近じゃテレワークなる制度が普及したとかで自宅にこもってパソコンと睨めっこ。
俺は時代というものに取り残されてしまい、魔王軍の復権を急がせたのだ。
にも関わらずだ、このガーゴイルは失敗した。それも前回なんて何を傍受されたと思う? 俺の浮気の証拠になるメール文章だぞ?
今魔王軍でも人気急上昇中の人気声優のMAO・H、通称マオーちゃんとの密会の約束を取り繕った文章が人間の世界に流出してしまったのだ。若いものに威厳を保つべきところ、俺は若い女の子にうつつを抜かしたわけだ。
そしてそのうつつが流出してしまった。
この失態で人間界における俺の懸賞金額は一気に暴落して俺自身、人間から笑われる対象になってしまったのだ。
はー、俺が何かやったって言うのかよ?
ただ世界征服を目論んでるだけじゃん。
頼むから人間ももっと正攻法で攻めてきてくれないかな?
「で、失態はそれだけだろうな?」
俺は一気に込み上げた恥ずかしさから逃げるようにジト目でガーゴイルを睨んで問いかけた。だが俺の悪い予感は当たっていたらしく、ガーゴイルは言いづらそうに吃りながら更なる失態を報告してきたのだ。
「すいません、実は……ウチの部下が昨今の人間社会で蔓延する新型ウィルスに……感染しました」
「マジでーーーーーーーーーー!? だからマスク着用とうがい・手洗いを徹底しろって指示したじゃん!!」
「どうも部下の奴、ストレス発散のために隠れて人間の街でキャバクラ遊びをしたようでして……」
「まさかのクラスターかよおおおおおおお」
「一応、緊急で研究所は閉鎖したのですが……」
「グッジョブだよ、それは素晴らしい判断だ」
いくら部下のケアレスミスだろうとただ叱っていては人材は成長しない、それにいつまたパワハラだのと陰口を叩かれるとも限らない。だからこう言う時にこそ部下を褒めるのだ。俺はガーゴイルとは違い己の失敗から学んでいた。
コイツは褒めて伸びるタイプだ!!
俺はそう確信して照れるガーゴイルの肩をポンポンと叩く。だがここで部下にまさかの指摘を受けるとは思いもせず、俺は肩を大きく落とすことになった。
「魔王様、ソーシャルディスタンスは守って下さい」
「……すいません」
この野郎、少しだけ優しくしたらつけ上がりやがってえええええ……。
俺はまさかの指摘に腹を立てて隠れて怒りを爆発させてしまった。
プルプルと全身を震わせて小声で「この怒り、どうやって発散してくれようか」と呟くとガーゴイルは「頼みますからクラスターは勘弁して下さいね?」と返してきたのだ。
くっそおお。何も言い返せねえ……。
そもそも俺の愚痴に突っ込んでくるとはいい度胸だ。
と俺は怒りのぶつけどころを見失って悶々としてしまった。するとそんな俺にガーゴイルは更なる問題を報告してきた。だが今度は失態ではなく、問題だ。
ならば一緒に解決策を模索しようと、そうガーゴイルに手を差し伸べてみた。これこそが昨今、人間社会で言うところの『良い上司』だそうで俺もその流行に乗ってみようと思う。
如何に俺が人間を見下していようとも、良いモノはドンドンと取り入れたい。そうすることで魔王軍は復権していくのだから。だが俺の想いは虚しくも、ガーゴイルの報告を聞いて全てが土台から瓦解していくことを悟るのだった。
「実は……研究所を緊急閉鎖した弊害が起こってまして……」
「何があった? 一緒に考えよう、俺とお前でそのピンチを乗り切ろうじゃないか!!」
「それがで……すね、人員がゼロになって奪われた大量破壊兵器の研究データを取り戻せないのです」
「マジでーーーーーーーーーー!?」
この数日後、魔王軍の本拠地に一発のミサイルが撃ち込まれた。そのミサイルこそ、今回奪われた研究データを元に開発された大量破壊兵器だったのだ。
ミサイルは想定を超える破壊力を誇っており、その爆発に巻き込まれて魔王である俺も部下のガーゴイルも命を散らす結果となった。
そして俺が死んだ後、若い世代の連中が「やっぱり時代は科学だよねー。魔法とか魔力とか古いものに縛られてるからだよ」と散々にコケにされる結果となってしまった。俺は魔王軍の復権を目指して、人間に対抗してミサイルの開発を焦った。
その結果、まさかのマッチポンプで滅ぼされようとは思いもせず、その悔しさを後世に伝えるべく物語に綴ってみた。もしも読者の皆んなが魔王を目指すなら絶対に心に留めて貰いたい教訓がある。
時代に取り残されるな!! 魔王軍なんてオワコンだよ!!
それじゃあ皆んな、俺の懺悔はこの辺で終わりにするからまた会う日まで元気でいてくれよ。次に会う時はあの世だろうから、その時はクラスターなんて気にせずに景気良く酒でも飲もうぜ。
下の評価やご感想を頂ければ執筆の糧にさせて頂きますので、どうぞよろしくお願いします。