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異能の騎士  作者: 亜弐
4/4

3話 妥協と決意

お待たせしました。

単純に度忘れしてました


 俺が騎士を目指したのは、子供たちがワイワイと遊んでいた時に言っていた、俺がなんとかの騎士だーとか、この国に伝わるおとぎ話のごっこ遊びをしていた時に、騎士という聞き覚えのない言葉を聞いたからだ。


 ただ、まったく聞き覚えもなかったし、おとぎ話の内容も知らなかったため子供たちからバカにされたのも一つの要因だろう。


「なぁエウレカ、騎士ってなんだ?」


「あの大きな、とても偉い人が住んでるところを守る人達……でも誰かと戦う為にどこかへ行ってしまう人たち」


「へぇ~」と、何気なく聞いたことだが、普段何も考えていない頭で考えるようになったのも一つの要因だろう。


(もしかして騎士になれば皆が不幸になることなく、この熱さに苦しむこともなく、バカにされることもない、幸せに暮らせるんじゃないか?)


 俺が来る前は何日かに一人、また一人と倒れたり死んだ子供たちは沢山いた、らしい。

 それに新しくやってくる赤子もいて生活は一向に良くならない。


 だが、エウレカは新しい家族が増えたと悲しい顔をしながらうれしいという。

 何にもなかった俺が家族に、エウレカに何ができるか、考えたらそれしかなかった、というより何も残っていなかった頭に入ってきた新しい知識が新鮮だったかもしれない。


 そして、今。

 異能の力を手に入れてわかったこと。

 俺が騎士になるには途方もない訓練と強さを手に入れなきゃいけない。

 ただその現実だけが課題として残されたのだった。



「おはようシエ兄ちゃん」


「ん、おはよう……エウレカ、体」


「うん、大丈夫。寝たらへーきだよ」


 どうやら子供たちも全員が起きているようで、家の前にある少し開けたところ、「庭」で全員が集まっている。


「行かなきゃ」


 と立ち上がる。

 その時、大男の憲兵に殴られたところが痛むわけでもなく、完全に回復したのだとわかった。


(俺、本当に変わっちまったのか……?それとも)


 エウレカが治したんじゃないのか……。


 エウレカの傷を治す異能ははっきり言って謎だ。

 もしかしたら代償があるのかもしれないし、俺も何かが失われたのかもしれない。

 単純に戦う力だけならわかるが、傷を治すという異能は何が起こるか分かったものではないのだから、俺としてはそこまで多用してほしくないのだが……。


(エウレカの性格上、当人に治すなと言われても勝手に治しちまうだろうしな……)


 だから起きてすぐに俺の傷を治した可能性は十二分にある。

 そして、まだ起きていない子供たちに治癒の異能を使ったかもしれないことも……。

 だがそうしたらエウレカの負担は如何ほどだろうか……。


 だが、今はエウレカだけを考えている暇はない。

 家族の、特に小さい子供達は不安がっていることだろう。

 最年長である俺にカイエルとカイエン、エウレカ全員が無事で平気だってことを示すしかない。

 それに、一人突っ込んでいった俺がずっと寝ているっていうのも、不安にさせてしまう。


 勢いよく部屋を隔てる、ドア代わりの布を、これでもかと大げさに開けて「おはよう皆!」

 と叫ぶ。


 すると、泣きべそをかいていた小さい子供も、監視役のカッツがしなだれて倒れていた耳をピンと立てて尻に生えた長い尻尾も立てて機嫌を直したことが見て取れる。


「俺は、平気だ。皆には心配かけたな……でも俺たちはこうしてまだ皆と居れる。何が来たって、何があったって、俺たちは家族で、皆一緒だ」


 その一言が効いたのか、不安がっていた子供達全員がシエの周りに集まってはしゃぎだす。

 不安を、無視して消し飛ばすかのように。


 だが小さな子供達だけだ。

 少し歳が上の子達には全ての疑念を払拭することは不可能なことは百も承知だ。

 何か、何かきっかけがあれば違うのだろうが……。


「大変っス!また憲兵の奴らが現れたっス!!!」


 きっかけは、突然にやってきた。

 それもよくない方向に。




 ぞろぞろと、ではなく戦えるシエ、カイエンが前に、その後ろにカイエルという家族の代表で出る。

 エウレカは子供達の清涼剤である為に家の方にいるし何かあったらすぐ動けるように、監視役で異能によって索敵の力が増したカッツを丁度出入口と家の中間地点で待機させている。


 ……今できる万全、がこれだ。

 初めて戦った時は異能を持っていなかった時と持っている前提の戦いだ、

 当然、対策もされているだろうし、相手に油断もないだろうことから勝つ可能性は驚くぐらい低くなっているだろう。

 と、身を低くして物陰に隠れていると、昨日戦った大男が出てすぅぅと息を吸ったかと思えば、


「隠れてないで出てこい!悪いようにはせん!」


 と裏通り全体に響くような声で叫ぶ。

 悪いようにはしない、突然襲ってきた相手にそんなことを言われても信用できるわけがない。


「どうする……」


「いや、どう考えても罠でしょ……」


 普通に話しをしていても相手は大通りだ。

 いくら人を避けさせていると言ってもあちらこちらから商人の怒声にも似た客寄せの声や通行人の喧騒があるからか、憲兵達には聞こえていない。


「……すぐそこにいるだろう。疑うのもわかるが話を聞け、悪いよう、いや、お前たちが安心して暮らせるようにしてやる」


「……」


 カイエルが眉間にしわを寄せる。

 いまさら何を言っているんだ、こいつは、と実際には口に出して言ってはいないがそう言っているような顔だ。


 だが、あの大男の言った、安心して暮らせるという話は俺たち家族が喉から手が出る程の甘い蜜だ。

 その為に俺は騎士を目指したのだし、憲兵達を倒したのだから。


「住民からの言に貴様らの中に異能者がいると憲兵団の中で噂になったのだ。聞いてみれば裏通りで開かれる私闘を賭け事として競わせている、その中の闘士に体躯が大きく急成長を遂げ、常人離れした体躯を持つ白い子供がいるとあった。その調査に俺たちが派遣されたがまさかほかにもいたとは知らなんだ。どうだ、俺たちはお前たちを正式に雇うことにしたのだ。昨日のことは水に流し、管轄を俺、憲兵団第二部隊隊長マックスが引き受けたのだ!」


 大声で、しかし先程の怒声ではなく明らかに隠れていることがバレているような声量で話しかけてくるような話し方。

 カイエルの顔を見ると、ふるふると首を振っている。


「俺は、行くよ」


「ちょ!?まっ」


 カイエルが最後まで話すまで必要ないというように、ボロ布で体を覆って物陰から出て日光に姿をさらす。


「……やはり居たか。答えはどうする」


 目を細め、腕を組みこちらを見定めるかのような視線。

 周りの憲兵達の空気も変わったことがわかり、いつでも戦闘態勢に持っていけるのだろうということがわかる。


「その話、俺だけ……はできないのか?」


「うむ、元は巨大化の異能の少年ただ一人だったが、昨日俺を圧倒したお前は当然として異能者は全員こちらに来てもらう。だが異能者ではない子供達は然るべき待遇を約束する。我が主に誓って」


 昨日のような戦闘狂のような笑みではなく、ただ真面目にこちらを見る男の顔。

 そして右腕を胸に当て、同じ様に憲兵達も右手を胸に当て、真剣な顔をする。


「……俺たちをだます、ということは?」


「まずない。異能者が数人集まればどうあれ必ず被害は大きくなる。そこまでしてお前たちをけしかける必要もなければ、初めから殲滅へと俺たちは行動している。そうしないのはお前たちが優秀な戦力として数えることが出来るからなのだ。むざむざ異能者という戦力を無駄にすることこそ愚かだと考えられんか?」


 ……理にはかなっている、とシエはうなずく。

 しかし、未だカイエルもカイエンも出てくることはない。


「わかった……だけど時間をくれないか?俺たちだって話し合いをしなきゃいけないんだ。俺一人の判断では……」


「うむ、わかっている。明日同じ時間にここへ来る。その時までに決めておいてくれ」


 そうして立ち去る憲兵達。

 何もしなくても、ただ待っているだけできっかけが転がり込んできた。

 これも異能の力だというのなら、大したものだと鼻で笑う。

 そのあと、カイエルとエウレカに怒られたのは言うまでもない。





【???】


 物語は動き始めた。

 一時はどうなるかと思ったが、まぁ流石俺が選んだ逸材だ。


 どう足掻いても俺は死なないし、俺を使わせてやる代わりに俺も使ってやる。

 その結果に望むものが勝手に転がり込んでくるんだから、なんていい契約だなぁ……良心的だ。


 だが、裏にいるやつはヤバイ。

 ありゃまだ今の俺様じゃ歯が立たねえ。

 まだ、育つのを待つしかねえ。


 他の連中も元気だってわかったことだし、お楽しみはまだまだ先になりそうだな……。




「んで、結局どうするの?」


 そう口を開いたのは先程までシエに怒っていたカイエルだ。

 今では落ち着いており、交渉(交渉にもなってはいなかったが)の結果を家族全員に、ごく淡々と告げる。

 実際に異能者になった人数は家族の半分程だ。

 だがその全員が徴兵されるというのなら明らかに戦うには若すぎる子供達。


「つまりは俺たちが兄ちゃん達ぐらいまで成長するまでずっと戦う訓練とか異能の訓練ってこと?」


 小さい子供達、おそらくはまだ生まれてから6つになるかならないかぐらいの子供達の中でもリーダーシップを発揮し、聡く快活な少年バンがカイエルに尋ねる。


「多分ね。それでいて僕らは太陽で殺されることもない。そして食べるものにも困らない水にも困らない。だけど、どんなことをされるかわかったもんじゃないんだ」


「でも、それしか道はないんでしょ?」


 その返しにカイエルは答えられず、うつむいてしまう。


「じゃあさ、行こうよ。どうにもならないんだったらそれしかないし、お兄ちゃん達が負けるなんて考えられないもん」


「そうだよそうだよ」と、周りの子供達が相槌を打つ。


「あ、ああ……」


 今一歩歩き出せなかったカイエルがそれに押されてしまう。

 家族であるからこそ、わかる弱点というものだと気づかされる。


「明日、また来ると言ってたからな。それでも一応警戒だけはしておこう」


「はーい」


 そんな話をしていつもの日常に戻る。

 いつまでも、この家族の日常を守り抜くことが俺が今ここにいる証だと、再三気づかされる。



 夜も明け、朝になる。

 恐ろしい程緊張はしてはいた。

 だが、それでもどうにかなると安心していたような気がする、というよりさせてくれた。

 そして昨日とほぼ同じ時間帯に、憲兵達がやってきた。

 俺たちが出した、結果の日だ。


「さて、あれからよく考えてくれたと思う。結果はわかってはいるが、君たちの答えを聞こう」


 腕を組み、すでにわかっているだろう答えを想定している顔の大男。


「俺たちはあんた達の話に乗ることにした。本当に、異能者以外の家族の安全と、これからを約束してくれるんだな?」


「ああ、勿論だ。無論お前たちの働き次第で報酬も増えるし、盗みをせずとも暮らしていけるよう保証しよう」


 大男がこちらに近づく。

 そして、


「?何をしているんだ」


 大男が右手をシエに向けて差し出す。

 意味が分からずつい戦闘態勢を取る。

 大男も異能者で、一挙手一投足に意味がある動きだと直前にカイエルに叩き込まれた。


「ハッハッハッハッハ!!これは握手、ってんだ。これからよろしくって意味だよ。ほれ!」


 さっきまでの静かさが嘘かのように大声で笑いだし、強引にシエの腕を取って大男がシエの手を握る。


「あーそういや名前言ってなかったな、俺はレイザー、憲兵団第三部隊長をやらせてもらってる。光の異能者だ」


「俺はシエ。何の異能はわからないけど、俺たちを、家族たちをお願いします」


 知らない文化である握手に、戸惑いながらもこれからの決意でガッシリと手をつかむ。

 これからの不安を期待へと変えるように、固く決意する。


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