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永岡梨紗の憂鬱②

「永岡さん、もしかして"相談を受けてくれる"人とこの部屋で待ち合わせしたのかな?」


 西谷君は確認のつもりか、私に聞いてきた。


「そ、そうだぜ!」


「永岡さん、さっきから口調がおかしくないかな?」


 私のどこがおかしいのだろうか……だれがみても普通だ。


「そ、そうかな?別に普通だと思うぜ!」


 私がそういうと、西谷君は横にいる矢島さんに小声で話しかけた。


「さっきから二人でなに話してるんですか?」


「な、なんでもないよ。それより扉の前で立ってい話すのも良くないから、取り敢えず座ろうか」


 なんだか話を逸らされたような気がする。


 西谷君に言われた通り、椅子に座ると向かい側に矢島さんが座ってきた。


 誰かと向かい合って座るなんてことはいつぶりだろう。


 そう考えるだけで緊張してきて、矢島さんの顔を見ることはできなくなった。


「宏樹も本ばっか見ずに、早く座って!」


 向かいに座っている矢島さんは西谷君に注意をした。


 矢島さんより西谷君が向かいに座る方が話しやすいと思った私は勇気を振り絞って口を開けた。


「西谷君には正面に座ってもらいたいな……」


「え?どうして?」


 西谷君は困った顔をしている。そりゃそうだ、別に正面だろうが一つ横の席だろうがたいして変わらない。けどその少しの差が私にとっては果てしなく大きな差だ。


「そ、その矢島さんが正面だと、き、緊張しちゃうから……」


「そういうことだから矢島、ちょっと交代してくれ」


 西谷君と矢島さんはまた二人で話をしている。交代してくれたのは嬉しいが、目の前で二人で話をされるのは少し辛い。


 私はその気持ちを紛らわすために西谷君に話しかけた。


「まさか西谷君が若月先生の言ってた"適任"だとは思ってなかったよ。最初は西谷君に相談しようと思ってたから、ちょうどよかったかな」


「俺も永岡さんが"最初の相談者"だなんて思ってなかったよ。それで相談したいことってなにかな?」


 ここまで来たのなら話すしかない。


「じ、実は私、中学の時''インキャ''で''ぼっち''で友達が一人もいなかったの」


 私は少し嘘を混ぜた。ブラフだ。"インキャではあったが''ぼっち''ではなかった。途中からは"ぼっち''だったが。


「お、おう」


 矢島さんは反応せず、西谷君は頷くだけだった。


「それで、同じクラスの女子に''いじめ''られてたから、ちょっと離れたこの高校に来たんだ」


 ついに話してしまった。もう後戻りはできない。西谷君たちに嫌われても、もう遅い。


 シリアスな話となり、教室の空気が重くなったが、私は話を続けた。


「だから私、高校デビューして友達を作ろうと思ったの!」


「入学式の日からクラスのみんなは友達を作り始めてたから私もしようと思った。けど、中学の時の記憶が蘇って、できなかったの。なんか女子怖いなーって感じかな?」


「私が西谷君と矢島さんに聞きたいことはね、''こんな私でも友達つくれるかな?」


 ついに言ってしまった。その途端、私は不安感に襲われた。


「ねえ、永岡さん。私と友達になってくれないかな?」


 矢島さんから思ってもいなかった言葉が帰ってきた。


 矢島さんの話はまだ続く。


「永岡さんが"友達''って言うのをどう考えているのかはまだ私にはわからないけど、これから自然にわかっていくと思うんだよね。私にとっての''友達''はそういう関係かな」


「まず私と友達になって、そこから増やしていかない?私が永岡さんの''友達第一号''だよ!」


 私は矢島さんの「''友達''になってくれないかな?」という一言がとても嬉しかった。側から見れば薄っぺらい、その場しのぎのような言葉だと思う。


 けど矢島さんのその一言は何かが違う。確信はないが、矢島さんは昔からこんな人だと思う。


 私は思わず涙が出てきてしまった。


「''友達第一号''?」


「そう''友達第一号''!私が一号だから宏樹が二号ね!その後に三号を作って、どんどん増やしていけば良いんだよ!私と宏樹も手伝うからさ!」


 矢島さんが話す一言一言が私の深い部分に届いていく。その分だけ涙の量が増えていく。


「わ、私なんかがや、矢島さんと西谷君の友達にな、なってもい、いいの?」


 ここで西谷君が初めて口を開いた。


「もちろんさ。昨日も言った通り、用事がなくても気軽に話しかけてよ。友達で横の席なんだからさ、これから仲良くして行こうよ!」


 反対側にいた矢島さんが私に近づいてくる。涙を手で拭っている私の後ろ来た矢島さんは私を抱き締めてきた。


「永岡さん、''友達第一号''と''友達第二号''の前なんだからいっぱい泣いてと大丈夫だよ」


 矢島さんは抱き締めながら頭を撫でてきた。強くもなく弱くもなく、暖かなものに包まれているように感じた。


 ☆


 私が落ち着いたあと、矢島さんと西谷君は椅子に座った。


「永岡さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


 私は泣いた後の顔を西谷くんに見せたくないので、俯いたまま頷いた。泣いているところを見られているからたいして変わらないかもしれないが、男子に見られるの恥ずかしい。


 に永岡さんって視力悪かったりする?そこにコンタクトレンズみたいなやつが落ちていたから、永岡さんのやつかなって思ったんだけど……」


 おそらく、泣いていたときに地面に落ちたのだろう。


 私は迷った。


 正直に瞳の色について話すか、話さないか……


 もしかしたら、気持ち悪いと言われるかもしれない。


 避けられてしまうかもしれない。


 それでも私は話すと決めた。


 私がいじめられていたという過去を受け入れてくれた二人なら話しても後悔することはない。


 私は下を向いていた顔を上に上げ、西谷君の方を見た。


 西谷君と矢島さんの顔の表情を見る限り驚いているとわかる。


「な、永岡さん。その目の色のことについて言えたらでいいんだけど、教えてくれないかな?も、もちろん強制とかはしないよ。ただ綺麗だから驚いたというか……」


 綺麗?今、西谷君は綺麗といった?気持ち悪いの間違いじゃないのか?


「綺麗だと思うんですか……?気持ち悪くないんですか……?」


 こんな濁り切った汚い色なんて綺麗なわけがない。

 私は西谷君相手でも敬語になってしまった。


「全然気持ち悪くないよ!気持ち良いって言い方は変だけど、綺麗だから見惚れちゃったよ!」


 こんな風に言われたのは初めてだ。もしかしたら初めてじゃないかもしれないが、こんなに響いたのは初めてだ。


 もしかしたら私はあの日から''目''ではなく''心''が濁り始めていたいたかもしれない。


 その濁り切った汚い物が今、元に戻りかけている。


 嬉しさか、不安から解放された為か私の目にはまた涙が浮かび始めた。


 矢島さんはまた私の近くに来て、頭を撫でてくれた。


「わ、私そ、そんなふうに言われたのは、初めてで、う、嬉しくて……」


 その後私は色々なことを話した。


 目の色、コンタクトではなく、黒色のカラーコンタクト、ギャルのような装飾をし始めたこと。


「永岡さん、あと二つ聞きたいことがあるから、聞いてもいいかな?」


「西谷君の質問ならなんでもこ、答えるぜ!」


 やっと調子が戻ってきた。戻ってきたというより、超えている。今まで一番調子が良い。


「その、''答えるぜ!''とか''よろしく頼むぜ!''ってなんで変な言葉使うの?」


 人生で一番調子が良い私は、思いっきり答えた。


「実は私、少年マンガの主人公に憧れてるん、だ!私も主人公みたいに生きてみたいなって思ったから、そういう言葉使ってるんだ、だぜ!」


 しかし、私はもう''主人公''の言葉を使うのはやめようと思う。憧れはあるが真似するのはもうやらなくて良い。


 そんなことしなくても友達がいる。


 それと''主人公''にふさわしいのは私じゃない。


 私より西谷君の方が''主人公''にふさわしい。


 泣いている私に手を差し伸べてくれた西谷君。


 もちろん矢島さんにも感謝をしている。けど矢島さんに向けている感情とはまた違う。
























 この感情は……なんだろう……

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