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俺は校長室に行く

「西谷君に相談したいことがあるんだけど、ちょっとだけ時間もらえるかな?」


 永岡梨紗ながおかりさ。俺の右の席の女子。背は俺より少し小さいくらいで、金髪でマニキュアをし、制服を着崩しているところからギャルっぽくに見える。肌は白く、整った顔は西洋人のようだ。


 ギャルっぽい見た目に反して、よそよそしい口調で話し、俯きながら爪を触っている。


 時間をもらえないかということだが俺には栄輔伯父さんに会いに行くという予定がある。


「ごめん永岡さん。先約があるから明日でもいいかな?」


「私こそ、ごめんね西谷君の予定も気にせずに聞いちゃって」


「そんなことないよ。これからも隣の席同士、気軽に話しかけてくれると嬉しいな」


 自分で言っておいてなんだが、ナンパのようなことをしていると思う。


「あ、ありがとう。じゃあ明日からよ、よろしくな!」


「え?ちょ、待って……」


 永岡さんは俯きながら走り去ってしまった。


 それにしても最後の"よろしくな!"ってなんだったんだろう。今まで丁寧な口調だったのに。



 ☆


 俺は四回ノックをした。


 二回がトイレなら校長室は何回なのだろうかと考えてたが全然わからなかったので取り敢えず四回しておいた。


「どうぞ」


 校長室の中から栄輔伯父さんの声が聞こえてくる。


「失礼します」


 朝の校長室とは違い、太陽の位置的に少し暗くなっていた。


「待っていたよ宏樹。来たということはクラス委員になった、ということでいいのかな?」


「栄輔伯父さんの言う通りだれも立候補しなかったよ。なんでわかってたの?」


「勘だよ勘。勘がたまたま当たって誰も立候補しなかっただけだよ」


 コンコンと二回後ろから音が聞こえてきた。


「栄輔伯父さん俺、出ていったほうがいいかな?」


「その心配はいらないよ。どうぞ、入ってくれたまえ」


「失礼します。若月先生から聞いて来ました」


 校長室に入ってきたの矢島だった。


「さあさあ矢島さんも宏樹の横に立って」


「な、なんで宏樹がいるの?もしかして怒られに来たの?」


 矢島は驚いた様子で聞いてくる。


「こっちのセリフだ!矢島こそ怒られに来たんだろ?そ、そうだ、お、俺は褒められに来たんだよ!そうだよな栄輔伯父さん」


「まあまあ二人とも落ち着いて。怒るつもりもないし褒めるつもりもないよ。矢島さん今から話すことは内密にしてね」


「は、はい。わかりました。だれにも言いません!」


「口軽いやつがなに言ってんだよ」


「宏樹よりは軽くないし。むしろ重いし!」


「二人とも、話が脱線してるよ」


 栄輔伯父さんは俺たち二人を宥めてきた。


「あ、すみません」 「ごめんなさい」


「それであの大学が提示してきた条件は朝話したよね?」


「二年間クラス委員を務める、だっけ?」


「実はその下にもう一文書いてあったんだけど、その内容が問題なんだよ」


 栄輔伯父さんは困ったような顔をしている。


「なんて書いてあったんだ?」


「簡単にいうと"お悩み相談"をして、その悩みを極力解決するってことかな」


 "お悩み相談"?


「それって一組とかのクラス委員もやるのか?」


「これはクラス委員は関係なく、各学年の代表一人だよ。つまり"クラス委員を二年間務める"かつ"お悩み相談役になる"というのがあの大学が提示してきた条件ということになるね」


 俺は一つ気になることがあった。


「"お悩み相談"って誰から相談を受けるんだ?」


「前例がないからなんとも言えないんだよね。だから対象は"クラスメイト"みたいな小さい規模でやると何があるがわからないから"学校にいる人"でいいかな?

 相談する人自体少ないから大丈夫だと思うけど」


 いくら少ないとはいえ"学校にいる人"ということは同級生だけでなく上級生、職員その他からも相談を受ける可能性がある。


「栄輔伯父さん少なからず上級生からも相談される可能性があるってことだろ?俺一人で"お悩み相談役"なんてできる自信ないよ」


「だからここに矢島さんがいるじゃないか」


「「え?」」


 俺は思わず驚いてしまった。矢島の様子を見る限り矢島も初耳だと思う。


「正直、僕も宏樹一人じゃ荷が重いと思っててね。そこで同じクラス委員の矢島さんにサポートに回って欲しいんだ。矢島さん、宏樹の手伝いをしてくれないかな」


 栄輔伯父さんは椅子から立ち上がり、矢島に向かって深々と頭を下げた。頭を下げる栄輔おじさんの姿を、俺は初めて見た。


「ち、ちょっと校長先生、頭上げてください。私なんかに頭を下げる必要なんてないですよ」


「ということは、宏樹のサポート役を引き受けてくれるってことかい?」


「私なんかでよければ引き受けますよ。"同じクラス委員として"ですけどね」


「宏樹、もう一度だけ聞くよ。矢島さんの手伝い有りで"お悩み相談役"引き受けてくれるかな?」


 俺に選択肢は最初から無かった。答えはもう決まっていた。矢島が手伝おうが手伝わなかろうがそんなのは関係ない。


「ああ、勿論引き受けるよ。矢島も手伝ってくれるしね」


「引き受けてくれて良かったよ。けど表向きに活動するのは少し難しくなる」


 よく考えてみれば身内贔屓し過ぎでは?"クラス委員"といい、"お悩み相談役"といいこんな情報漏らしてもいいのか?


「だから宏樹と矢島さん。君たち二人には文芸部に入ってもらう」


「なんで文芸部なんだ?」


「文芸部は三年前から部員がいなくて休部しているんだ。だから君たち二人が"文芸部の活動の一環'でたたまお悩み相談をしていたという事にすればいい。たまたまお悩み相談をしていて、二年間クラス委員をやっていた人は宏樹だけになる」


「俺はいいとして矢島だって入りたい部活があるんじゃないか?」


 俺がそういうと栄輔伯父さんは矢島の方を向き


「確かにそうだね。矢島さん、宏樹と"二人きり"の文芸部に入るかい?」


 矢島は迷う様子もなく口を開いた。


「是非、入らせてください!」


「矢島さんからの許可もあったし、これから二人は文芸部員でいいよね?」


「はい!」 「うん」


「それじゃあ今日は解散としようか。明日の放課後に文芸部の部室を教えたいからもう一度ここに来てね」



 ☆


「「失礼しました」」


 校長室を出た俺と矢島は一緒に帰ることとなった。


 俺も矢島も徒歩で通っている。俺の家の方が学校に近く、俺の家から十分もたたないうちに八島の家がある。


「本当に文芸部でよかったのか?お前中学の時、運動系の部活に入りたいって言ってたじゃん」


「ま、まあ心変わりしたんだよ。運動系はちょっと子供っぽいかなって」


「矢島は今でも子どもだぞ。学校内で迷うくらいだし」


「なんで忘れようとしてるのにそういうこと言うのかなー?宏樹だって中学のとき迷ったんでしょ?」


 矢島は頬を膨らませ、俺の顔をしたから見つめ上げるように見てくる。


「中学生まではいいんだよ!高校生からはダメだ!」


「なにその謎理論。あと、なんでクラス委員になったの?もしかしてだけど校長先生が関係してる?」


「まあそんなところだな。取り敢えず二年間クラス委員やることになった」


「宏樹にできるのー?わたし三年間やってきたけど大変だよー」


「お前ができるなら俺も当然できる」


「それだと私が宏樹より下ってことになるじゃん」


 中学の時から矢島とはこんな馬鹿みたいな会話しかしていない。けどこういう会話も悪くない。楽というか気を使う必要がないというか。


「もう宏樹の家じゃん。じゃまたあしたねー」


「俺のせいで遅くなったから送ってくよ」


「昼前だから大丈夫だよ」


 中学の時から何度か"送っていくよ"と言ったが、毎回断られる。


「そうか。じゃあまた明日な」


 こうして高校生活初日は閉ざされた。

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