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私は入学式に出席する

 今日は第一高校の入学式だ。


 私はこの日を待っていた。


 中学二年の時に変わった日常を元に戻すため、この高校を選んだ。正直、私ならもっと頭の良い高校に進めたと思う。現にこの高校でも入試成績は一番で、新入生代表として挨拶しなければならない。


 この高校を選んだ理由はたった一つ。


 西谷宏樹。宏くんが行くからだ。


 中学二年の時、私は宏くんに告白された。


 私たち二人は所謂、幼馴染みである。家も隣の隣で、保育園に入る前から一緒に遊んでいた。好きなものは互いに勧め、共有した。勿論、喧嘩もたくさんしたが、次の日には必ずどちらかが謝っていた。


 そんな中私が宏くんに唯一勧めたもの。


 ラブコメ


 小学二年の時、私はお母さんが読んでいた本の表紙が目に入った。昔から私は多くの本を読んでいたがそれらは全て子ども向けの本。子ども向けの本しか読んだことない私にとって、その表紙はとても惹かれるものだった。子ども向けの本とは違い、鮮やかな色で繊細に描かれている少女。中にはどんな内容が書いてあるのか幼い私にはとても気になった。


「ねえねえ、お母さん」


「なに?」


「その本読み終わったら、栞里に貸してー」


「栞里にはちょっと難しい本だから、読めないと思うよー」


 私は意地を張り、お母さんが読んでいる途中なのにもかかわらず、本を奪い自分の部屋に走った。


 早く中を見てみたい。


 子どもの好奇心は計り知れない。


 当時の私ではお母さんが読んでいる本をカテゴライズすることはできなかった。


 おそらくお母さんが挟んだ栞が挟まっているが、それを地面に投げ捨て、表紙をめくった。


 初めて見た時、私はとても驚いた。


 子ども向けの本より分厚いので、一文字一文字が大きく書かれていると思っていたが違った。逆だった。一文字一文字がとても小さく、隅から隅までびっしりとその小さな文字が並べられていた。それが三百頁程ある。おまけに見たことのない漢字、聞いたことすらない語句。


 私は読み切ることができないと悟った。読み切る以前の問題だ。この時私は初めて、世界の広さを知ったと思う。自分で見たものが全てではない。自分が見たことの方が少ない。


「いくら栞里でもこの本は少し早いよー。あと三年は必要だよ」


 私は負けず嫌いだ。この本を読まないのは負けだと思った。


 その日から私は少しずつこの本を読み始めた。読むというより解読というべきのかもしれない。知らない言葉は国語辞典で調べた。お母さんたちには何一つ聞かなかった。一人でやるからこそ価値があると思っていた。


 最後のページを解読したのは小学四年の時だった。


 解読した文章を噛み砕き、自分が理解できる言葉に置き換え、ノートにまとめた。


 次はそのノートを見ながら、再び本を読んだ。


 その時この本のカテゴリーがわかった。この本は学生が恋愛する話。ラブコメディだと。


 二回目では内容が変わったように思えた。


 最初は文章に意識が向いていたが、改めて読むと内容に意識が向いた。


 読む速度も速くなり、一年かかって読んだのを二回目では一週間、三回目では半日で読み終えることができた。


 三回だけでは足りないと感じ、二十回近く読んだ。


 この本が私の価値観を変えてくれたと思った。この本みたいに、私も好きな人に告白してみたい。この本みたいに恋愛をしてみたい。この本みたいにデートしたい。この本みたいに……


 この本が私の人生の教科書だと思っていた。


 この本だけでなく、お母さんが持っているラブコメをたくさん読んだ。お母さんのスマホを勝手に使い、色々なラブコメの本があると知った。


 その年のお年玉は全てラブコメ作品に注ぎ込んだ。


 小学5年になった私は宏くんにもラブコメを勧めた。


 "ラブコメのような恋愛をしたい"。この気持ちを宏くんと共有したいと思った。


 私が最初に宏くんにあの本を貸した。


 宏くんもハマったのかどうかわからないが、本を持っているのなら、できるだけ多く貸してと言ってきた。


 私は嬉しかった。私と宏くんは学校でも家に帰った後もいつも二人でラブコメについて語り合った。そんな日々が楽しかった。それは日常となりつつあった。


 私たちが中学生になってもそれは続いた。休み時間だけではなく、強制だった部活も何かしらの理由をつけてサボり、語り合った。


中学生になった時から私は宏くんの事を意識し始めたと思う。保育園児くらいの時の記憶は鮮明には覚えていないが、昔から一緒にいると考えるとドキドキした。


 これは私を変えたと言っても過言ではない本と同じ展開なのではないかと思った。


 私たちは二年生となったが、それはまだ続いた。休み時間も本を読んでいるので、私に話しかけてくるのは宏くんか矢島さんというクラス委員の人だけだ。


 二年生も中盤に差し掛かった頃、毎日登下校を共にしている宏くんから公園に寄らないかと誘われた。


 これはあの本と同じ展開だ。


 あの本では下校中に主人公の少年に公園に誘われたヒロインの少女が、時計の下で告白をするという展開だ。


 主人公がヒロインに告白をするのではなく、ヒロインが主人公に告白をする。


 公園に着いた途端、宏くんが話しかけてきた。


「栞里!」


「なに?」


「お、俺と付き合ってください!昔から一緒にいたけど、中学生になってから意識し始めて、好きだと気付いたんだ!」


 この台詞。あの本と同じだ。


 しかし何回も読んだ私ならわかる。タイミングが違う。この台詞は本来、ヒロインである少女が告白をし、それを承諾した主人公の少年が照れながら"本当は俺から告白したかったんだよ"と言った後に言う台詞だ。


 私は私に世界の広さ教えてくれたあの本に憧れている。あの本のように好きな人と恋愛をしてみたい。それが私の心からの願望。


 だから私は伝えたかった。"私から告白したい"と。


 告白"される"ではなく、"したい"と。


 もう一度言う、"される"ではなく"したい"と。


「宏くんからの告白は受けられないの。だけどわ・・」


 宏くんは走ってどこかに行ってしまった。


 また明日話せばいいかと思っていたのが杞憂だった。


 次の日の朝、宏くんの家まで迎えに行っても、なかなか出てこなかった。仕方なく一人で学校に行くと、教室で友達と話している宏くんの姿があった。

 一緒に下校しようと思っていると、宏くんは颯爽と教室をあとにした。


 あの日以降、私と宏くんは一言も話させなかった。何故かわからないが話をしようとしても避けられてしまう。近ずくと磁石のように宏くんは遠くに行ってしまう。何故か矢島さんは近づいてくる。私がS極で、宏くんもS極。矢島さんはN極。


 正直矢島さんはどうでもいい。"クラス委員だからみんなと仲良くしたい"って言ってたけど株を上げるために決まっている。


 宏くんと話したいのに話せないそんなことが一年近く続いた。


 ⭐︎


「なあ、宏樹はどこの高校行くんだ?」


「第一」


「俺と同じじゃん!」


「お前と同じならやめようかなー」


 どうやら宏くんは第一高校に行くらしい。この辺りの高校では賢い高校だと思う。私は選択を迫られた。自分のレベルに合わせ、第一より良い高校に行くか、宏くんと同じ、第一高校にいくのか。


 結論から言うと、一切悩まなかった。

 普通に考えたらわかることだ。誰でもそうする。


「それで、三井さん。進路どうするの?」


 今日は担任の先生と面談をする日だ。


「私は第一高校に行きます」


「うーん、第一か。三井さんなら県外の高校狙もえると思うんだけどね」


「まぁ色々と事情がありまして」


「そうか。まあ第一も悪い高校じゃないし、いいんじゃないかな。勉強できるからって気を抜くと痛い目に合うから、しっかりと勉強しておくんだぞ」


「はい、わかりました」


 ⭐︎


 新入生代表の言葉も無事に言い終え、第一高校の入学式が終わった。


 今から各クラスで自己紹介をするらしい。なんと宏くんと同じクラスだった。


 入学式が行われた体育館から新入生がぞろぞろと出ていく。私は宏くんを探した。


 体育館を出て少ししたところに校長先生と一緒にいた。その後宏くんは校長先生と二人で何処かに消えてしまった。


 私は宏くんにあの日の出来事を弁明しなければならない。当時は宏くんがなんで話の途中で帰ってしまったのかわからなかったが、今ならわかる。私はなんて酷いことをしたのだろう。


 しかしどうやって償えばいいのか、それはいまだにわからない。

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