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文芸部の新入部員候補

 栞里が部室を出て行き部室には俺と矢島の二人となった。


「愛の巣って本当……?」


 矢島は顔はほんのりと赤くなっており、指で短い髪をくるくるとからめさせている。


「本当ってどういうこと?」


「だから……文芸部が私と宏樹の愛の巣なのは本当?」


「断るための口実にしただけだから、愛の巣だなんて思ってないよ……」


 思い出すだけで死にたくなってくる。愛の巣だなんてよく言えたものだ。


「そ、そうだよね。断るために言ったんだよね……」


「「……」」


 部屋の中には沈黙が流れている。''愛の巣''と言って悶絶している俺と、何故か落ち込んでいる様子矢島。お互い話しかけにくい状況が続いている。


 すると、その沈黙を破る為のかのように、扉からコン、コン、コンと音が鳴った。また誰か来たようだ。


「どうぞ……」


「昨日ぶりかな、宏樹。それと矢島さん」


 入ってきたのは栄輔伯父さんだった。


「あ、栄輔伯父さん。何しに来たの……?」


「どうしたんだい宏樹?なんか元気がないように見えるけど。それと矢島さんも」


「ま、まあ色々とあったんだよ……」


 親戚の前で''愛の巣''だなんて単語を出すわけにはいかない。俺はさっきまで栞里が座っていた椅子に案内する。


「もしかして宏樹が文芸部は矢島さんとの''愛の巣''って言ったから気まずい雰囲気になってるのかい?」


「「え?」」


「なんで知ってるの?」

「なんで知ってるんですか?」


 たまたま''愛の巣''という言葉で気まずくなったなんてわかるわけがない。


「もしかして外で聞いてた?」


「最初から最後まで全部聞いてたよ」


 どうやら栄輔伯父さんは栞里との会話を全て聞いていたらしい。


「僕が図書室の前を歩いているときに、三井さんがこの部屋に入っていくのを見たから、外で聞いてたんだよ。けど''愛の巣''って宏樹もなかなか大胆なこと言うようになったね」


「栄輔伯父さん、も、もうそれ以上言わないでくれ……」


 矢島はずっと黙って椅子に座っている。顔はさっきよりも赤っぽい。


 これは黒歴史確定だ。今度親戚の集まりがあったら、言いふらされるに違いない。てか、今頃''愛の巣''だなんて言葉使う人いるのか?


「まあそれはいいとして。永岡さんの悩みは解決してくれたのかな?」


 本題は永岡さんの悩みだったようだ。


「それなら解決したと思うよ」


 栄輔伯父さんは微笑している。


「まあ、知ってたけどね」


 なら聞くんじゃねぇというツッコミはせず、話を続ける。


「わざわざそれを聞きに来たんじゃないんだろ?」


「それだけだよ」


「え?他になんか言いたい事とか聞きたいことがあるんじゃなくて?」


「宏樹の口から聞きたかったんだよ。まあ、ここに来たことによって新たな用事もできたけどね」


「新たな用事ってなに?」


 普通、ここに来たことでできる用事なんてないだろう。


「三井さんのことだよ」


 栄輔伯父さんからその名前が出てくるとは思わなかった。


「栞里がどうかしたのか?」


「外で聞いてたら、三井さんは文芸部に入りたいそうじゃないか」


「そう言ってたけど、''お悩み相談''のことがあるから入れれないでしょ?」


「宏樹、あくまでも表向きは文芸部なんだよ。だから入部拒否なんてことはできないのが現実なんだ」


 文芸部はあくまでも高校の部活動だ。だから入部拒否なんて出来るわけがない。それこそ栄輔伯父さんが拒否したら権力乱用となってしまうだろう。


「た、確かにそうだけど……」


「だから三井さんを入部させてあげるのはどうかな?三井さんは頭も良いから宏樹の手助けになるんじゃない?」


「それとも''愛の巣''だから誰も入れられないのかな?」


「うっ……」


 ''愛の巣''を話に出されると承諾するしかなくなってしまう。俺は切り札を使った。


「や、矢島はどう思う?」


 切り札とは矢島のことだ。矢島が断れば、栄輔伯父さんもそれを無視することはできない。


「わた」


「宏樹。これはさっき自分で言ってたけど、宏樹の問題なんだ。矢島さんに頼っていちゃいけないよ」


 切り札は不発に終わった。矢島が口を開く前に俺はとどめを刺されてしまった。


「わ、わかったよ。栞里を入れれば良いんだろ」


「じゃあ、明日からよろしくね」


 栄輔伯父さんはそう言い残し、扉の方へ歩いていった。


 出ようとした時、栄輔伯父さんは振り返って、俺と矢島の方を見てきた。


「''愛の巣''は今日までかも知れないから、楽しんでね」


「「……」」


 栄輔伯父さんは部室から出て行き、扉が閉まる音がした。


「や、矢島。今日はもう帰ろうか……」


「う、うん……」


 俺と矢島の会話はぎこちなくなってしまった。


 ぎこちなくなった理由は俺が''愛の巣''と言ったからに違いない。


 俺と矢島は何一つ話す事なく、校舎を二人で出た。


 空は昨日よりは明るく、まだ様々な部活が練習をしている。


「西谷君、あ、あやかー」


 後ろから名前を呼ばれたので振り返ると永岡さんがいた。


「どうしたの永岡さん?」


「き、今日も一緒に帰りたいなって思って……。迷惑だったかな?」


 矢島と二人きりは気まずいと思っていたから丁度よかった。


「全然迷惑じゃないよ。なあ矢島」


「う、うん。梨紗、一緒に帰ろう……」


 やはり俺のあの失言のせいだろうか、矢島は永岡さんに対してもどこかぎこちない。

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