92話 真相
トランスヴァールをめちゃくちゃに破壊し、俺の大切なアルフィンを泣かせたこのクソヤローをぶっ飛ばした。
たっぷりと魔力を込められた拳を叩きつけられたドレアムは、盛大に城外へと飛んでいく。
アルフィンに城の事を任せて、クソヤローを追いかけていた。
「――――ぐうぉぉーー!!」
自分でも良い一撃だと思う拳の威力は凄まじいらしく、ドレアムは建物を貫通しながら街を飛び越えて、平野まで飛んでいった。
「あ……やばい。やり過ぎた」
建物に誰も居なかった事を祈りつつ、心の中で謝罪しながら追いかける。
吹き飛んでいった先には、地面にぶつかった際のクレーターの中心に膝をつき、顔を抑えているドレアムがいた。
「……貴様のその力。見違えるようだぞ」
「お前らを倒す為に死ぬ思いで修業した。お前らの好きなようにやらせない為に。だけど……」
せっかく力を手に入れたのにこんな状況になってしまった……。
「トランスヴァールをめちゃくちゃにしやがって。今までの分も含めて、てめぇがやった報いを受けさせてやるな。ただ、その前に俺の質問に答えろ」
「フン……いいだろう。今日は善き日だ、愚かなる者からの質問も神は赦してくださるだろう」
その見下した偉そうな態度。
本当に腹立つな。
早くぶちのめしたいけど情報を聞き出すまで我慢だ。
「ずっと気になっていたんだ。ユグドラシルの力でこの大陸にお前達は近づけない筈なのに、どうやってトランスヴァールに侵入できたのか。まして結界を破壊するなんて」
「貴様がいうとおり、忌々しいユグドラシルの力で俺は近づけなかった。だからこそ、その代わりを担い、結界を解く存在が必要になる。……そこで役立ってくれたのが」
ドレアムはそこで、俺の顔を見るとニヤリと邪悪に笑う。
「貴様らが助けた……ハーブ村だったか? その村の村長らは大いに役立ったぞ」
「……マーマンさん達に何をした」
「その者と村の人間を洗脳し、トランスヴァールに行かせ、国王と数人も洗脳し、結界を解除させた。……その後の事は……貴様も知っていよう」
国王と他の人にも洗脳を……。
確かにユルゲン陛下は様子がおかしかった。
「……ユグドラシルの光が弱くなったのも、お前がやったのか? そもそも、あの聖樹の力でお前達は近づけなかったんだ。今のあの状態もお前が関係してるんじゃないのか?」
「……そこまで、教えてやる義理はない」
そこで、ドレアムは「ニタァ」と不気味な笑顔を浮かべた。
「だったら、お前を倒して確認しにいくだけだ」
今、俺の他に確認に行ける人はいない。
まだ皆は、戦闘中みたいだし。
そう言えば。洗脳されていたなら、トランスヴァールにいるはずなのに、街中にはマーマンさんの魔力反応はなかった。
……まさか。
「マーマンさんは……どうした?」
「もう用済みだからな。とっくに、連れてきた魔物の血肉となっていよう」
「お前! そんなことの為にマーマンさんの命を!」
「偉大なる神の復活の一助となったのだ。くだらぬ命にも使いようはあるというものだ。お陰で、我等の勝ちが決まったようなもの。あとは貴様を殺して、この祝祭に華を添えさせてもらおうか」
アルフィンの泣き顔を思い出す。
目の前のこのクソヤローが、彼女の生まれ育った大切な街を蹂躙し、家族とも言っていた城のメイドや使用人を殺して、涙を流させた。
アルフィンの悲しみが、苦しみが、怒りが俺の力になっていく。
感情が昂れば、昂るほど体内の魔力核は熱くなっていく。
自然と体から魔力が荒れ狂い、周囲を吹き飛ばす程の暴風とかした。
「……この魔力の上がりかたは……」
「お前は俺の宝物を傷つけた。悲しませた。泣かせた。だから死を持って償え!!」
「……フン。この前俺に殺される寸前だったことを忘れたか? 忘れたなら今度こそ刻み付けてやろう。貴様の死でな」
倒すべき相手の顔を見る。
向こうも俺を見て視線が交差する。
今日、ここで殺すべき相手を見据え動き出した。
「「限界突破ー!!」」
お互いに最初から全力を引き出し、強大な魔力圧力を解放する。
二人の魔力がぶつかり合い、突風を巻き起こす中。
同時に、正面から激突した。
「オラァッ!!」
「はあぁ!!」
俺の顔面を狙う左腕を、右手で受け止め拳をドレアムの右胸に打ち込み甲冑を叩き割った。
「ぐふぅ!」
甲冑を突き抜け、右胸の骨をへし折る。
続けて、ドレアムの顔、腹に連続して拳を叩き込む。
「ごあぁ! おのれ!」
ドレアムが背後に回り込み、鋭い右足で蹴りを放つ。
それを左側に体をずらしてかわした後、体を空高くに蹴り上げ、空へ浮かした。
「ぐおあっ!」
俺も空に浮き、そのまま両腕、両足に魔力を集めて空中で、ひたすらに殴り、蹴る。
ドレアムは、防御をしようとするが。
「やらせねぇよ!」
反応出来ない速度で、空中を飛び交い様々な角度から滅多打ちにする。
両腕に魔力をこめて思い切り地面に叩き付けた。
大きな陥没の中心で、息も絶え絶えに倒れたドレアムのマウントを取り、顔面をひたすらに殴り続ける。
両腕を盾に、攻撃を防ごうとするがその上から殴りつけてやる。どんどんと甲冑と顔面はボロボロになっていく。
顔からは血を流し、ガードした両腕は骨をへし折る。
「人間なめるなよ。お前ら何様のつもりだ!」
喋りながらも、殴る手は止めない。
「お前らの狂った邪神のせいで、どれだけ犠牲が出たと思ってんだ! なぁっ!」
「……くっ! 予想以上に……力をつけていたとは……仕方あるまい……うおぉぉーー!!」
ドレアムが限界突破以上の魔力を解放した。
体を眩しい程の光が包み、進化する。
正真正銘の最大限の力を引き出したドレアムの魔力が爆発をおこし、その余波で俺は吹き飛ばされた。
「まさか。進化までさせられるとはな……」
今まで与えた傷は、治りHPも回復していく。
纏う魔力圧力も、数倍にまで膨れ上がった。
ムクッと起き上がり、はじめて構えを取った。
「なんだよ。前のときには構えも取らなかったくせに」
「フン。貴様の実力を認めてやると言うことだ。だが、これで貴様は終わりだ」
「お前が勝つって勝手に決めんなよ。それに、負けるのは俺じゃない、お前だ」
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