91話 我慢
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トランスヴァールを蹂躙する魔物を排除しつつ城の前に到着した。
美しかった外壁は面影を残こしておらず、城から宮殿にかけてボロボロに破壊されている。
城内からは、ユルゲン陛下とドレアムの魔力反応がする他に、悲鳴が響き渡っていた。
「アルフィン。おそらくこの先には目を背けたくなる光景があると思う。辛かったならここに残っていてもいいよ」
「……いいえ。わたくしも行きます。お父様と、城内で助けを求めている人達もいるかもしれません。それに、わたくしは……トランスヴァールの王女なのです。辛くても逃げるわけには参りません」
自分が生まれ育った所を破壊され、家族までも危機に晒されている状況に、冷静でいられる人はいない。
強がりを言っているなら、無理矢理にでもここに残ってもらおうと、アルフィンの顔を見た。
まだ震えは止まらず、目元には涙も溜めているけど、アルフィンが言うとおり、王女としての決意をした顔つきだった。
これなら、大丈夫だろうか。
「分かった。よし、行こうか」
「はい!」
アルフィンと、城に入っていくと、中はもっと悲惨な状況になっていた。
身の回りのお世話をしてくれたメイドや、色々と力になってくれた使用人だった人達の死体が無数に転がっている。
顔が潰されている人、体の半分が消失している人、心臓を一突きにされている人もいる。
そのどれもが、苦痛と恐怖、絶望の表情を浮かべながら死に絶えていた。
殺された人達の気持ちを考えると、怒りが沸き起こる。
右手を思い切り握り締め、この場の怒りを何とかやり過ごした。
怒りに任せる前に、まずはユルゲン陛下の身の確保と、魔物を倒しながら城内の生き残りの人達を助けるのが先だ。
それが済んだら、ドレアムのクソヤローをぶっ飛ばす。
心の中で犠牲になった人達の冥福を祈りながら、城内を走りユルゲン陛下を探す。
城内を半分ぐらいまで進んだ先で、男性が魔物に襲われていた。
「はあッ!」
瞬時に魔物に近づき、魔物を光の粒子に変える。
男性の体は傷付き、血も出てるけど命は大丈夫そうだ。
「あ、あなたはタクト様!」
傷付いた右腕を抑えながら俺を見て近くに寄ってきた。
「マードック! 無事で良かった。怪我は大丈夫ですか?」
「あ、アルフィン様も! よくぞ御無事で!」
マードックさんは命が助けられた事に対して安堵の顔と、アルフィンの無事な姿を見られたことにホッと一息を吐いた。
「マードック。これは、何があったのですか?」
アルフィンが治癒魔法を使いながら、質問する。
マードックさんなら、この城の詳しい状況も分かるはずだ。
何か情報も持っているかもしれない。
「はい。大量の魔物が街の前に次々と現れ、突撃をかけてきました。ですが、結界が魔物の攻撃を防ぎ一度は落ち着きましたが……ですが、その結界が突然壊され、そこから魔物の大群と四天王が瞬く間になだれこみ、城下町を蹂躙していきました」
結界は強力な物だった。
いくらドレアムでも、そんな簡単に壊せないはずだ。
「警備隊も、近衛隊も出動しましたが四天王の前に返り討ちにあうだけでした。せめて陛下だけはと、城に防衛の陣を敷き、籠城しましたがそれも易々と突破されてしまい、レスター隊長が陛下をお守りしています。恐らく謁見の間の多重結界に逃げられているかと思われます」
ドレアムが相手ならレスターさんだけでは、戦いにすらならない。
急がないと二人とも殺されてしまう。
「分かりました。マードックさんは、隊の生き残りと連携して、街の人達の避難を進めてください。アルフィン謁見の間へ行こう」
「はい。マードックよろしくお願いしますね」
「畏まりました。アルフィン様……どうか御無事で」
急ぎで動き出した。
魔力を探ると、二人とも一緒にいるみたいだ。
ただ……ドレアムの魔力もまた同じ場所にあるのが気になる。
急がないと間に合わなくなる。
謁見の間は、扉に刻まれた紋章で侵入者が入れない様になっている仕組みだったのが、扉はひしゃげていた。
そして、その扉前にも近衛隊の戦士達が見るも無惨な姿で横たわっている。
ここまで来るまでに助けられた人は、一桁だけ。
本来この城には、かなりの数の人がいたのに、それのほとんどの命が散らされていた。
「クソッ! 好き放題暴れやがって……!」
「……皆をこのような目に、絶対に許しません!」
走る勢いを止めないまま、謁見の間へと入った。
そこには。
右腕と左腕が胴体から切り離され痛みもがくレスターさんと、ユルゲン陛下の隣に立つドレアムがいた。
「御父様! レスター!」
「……あ、アルフィン様。タクト殿も……いけません……この男には、勝てない。早く逃げてください……」
レスターさんは自分の方が苦しいにも関わらず、俺達の心配をしてくれる。
ユルゲン陛下は、目が虚ろでボーッと立っているだけで、アルフィンの姿が見えても、反応がない。
「来たな……貴様が来ることは分かっていた」
「まるで、俺が来るのを待っていた様な言い方だな」
「罪深き人間の割には頭が回るではないか。その通り、俺は貴様が来るのを待っていた。だからこそ、この者等を殺さず生かしておいた。この後の祝祭の為に」
「お前は、石碑を破壊しに来たんだろうが?」
「今日はいつになく頭が回るな。その通り貴様らの目の前で、石碑を破壊し、偉大なる神の復活を成す」
「何で、たくさんの人を巻き込んだ」
「偉大なる神の復活を祝う祭りには、華が必要。
非力で罪深き人間の命にも、役立てる事があって良かったではないか?」
これ以上は、もう我慢できない。
「アルフィン。陛下とレスターさんを頼む」
俺は。
「てめぇ! よくも俺の宝物を泣かせてくれたな! 許さねぇ!」
「――――なっ!!」
ここまで抑えていた怒りを解放して、ドレアムに最速で接近し、膨大な魔力を纏った右拳で顔面を殴り飛ばす。
爆発の様な轟音と共に城の外壁に大きな穴を開けて、クソヤローは外へと勢いよく飛んでいった。
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