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90話 不安

よろしくお願いします!

 



 シーゲル陛下から連絡が入った。

 その内容はトランスヴァール皇国が襲撃されたというものだった。



「……トランスヴァールが……そんな……」



 アルフィンがその悲報を聞いて、顔面蒼白になる。

 自国の危機を聞かされ、体も震えてしまっていた。



「アルフィン様。お気持ちをしっかりと持ってください」



「アルフィンお姉ちゃん、大丈夫?」



 シズクとナエがすかさず、アルフィンの側に寄り添いその震える両手を握った。



 俺はその三人の様子を見ながら、この状況を考えていた。

 どうなってるんだ。

 バラガン公国と、トランスヴァール皇国への同じタイミングでの襲撃なんて。

 しかも、その兆候もなかったという。

 それに、何でユグドラシルの加護があるのに近くまで近寄れるんだ?


 幾つもの疑問が生まれる。



 《俺も急遽軍を率いて、トランスヴァールの救助に向かっている所だ。正解な情報は分からないが……斥候からの報告では、かなりの被害が出ているらしい……》



 魔物の他にドレアムと四天王がいるなら、他の人では無理だろう。



 《アーロンさん。俺達は、トランスヴァールに行きます。あそこには最後の石碑もある。それは必ず死守しないと」



 《ああ、その方がいい。ドレアムの相手ができるのは、タクトお前だけだ。至急連合軍からも割ける人員を援軍として送る」



 《お願いします。それでは》



 念話を終えて、気持ちを切り替える。

 俺が最優先にやるべきことは。



「リューガ。トランスヴァールへ大至急向かってくれ。ドレアムを抑える」



「もう向かっている。飛ばすぞしっかりと掴まっておけ」



 リューガがトランスヴァールへと翼をはためかせて、飛行する速度を上げた。



「トランスヴァールにまで攻め込めるということは……ユグドラシルが狙われるのも、時間の問題です。

 ですが、邪な魔素を持つ四天王や魔物は、ユグドラシルの浄化能力で、近づけないはずです。当然直ぐ近くにある、トランスヴァール皇国もです。それがどうして……」



「シズクの言うとおり、本来ならばそうなる筈なんだ。

 多分それを無効化するために、何かをやったんだろう。それが何かは分からないが……」



 いまだ震えているアルフィンの側に寄り、肩を抱いた。



「アルフィン大丈夫だ。俺が何とかするから」



「……タクトさん……わたくし……」



 可哀想なぐらいに、不安な顔で震えている。



「大丈夫だから。ね?」



「はい……。申し訳ありません。取り乱してしまいました」



 頭を撫でると少し落ち着いてくれた。

 アルフィンには、大丈夫だと言ったが最悪の状況は想定しておいた方がいいだろう。


 こんな形でアルフィンの嫌な予感が的中してしまうとは。

 どうか。

 ユルゲン陛下、ヨーク公、アルド殿下、レスターさんや、両国の皆が無事であるように。

 今は、祈ることしか出来ない。




 アーロンさん達との念話を終えてから、空を飛ぶこと十分ちょっと。

 トランスヴァールがある、南大陸へと到着した。




「見えたぞ、トランスヴァールだ」



「……これは」



「……そんな……」



「煙がたくさん出てるの……」



「街が炎上しています……」



 上空からトランスヴァールを確認できた。

 ここから、見えたのは。

 この世界最大の国が大火に包まれ、黒煙が空高くまでもうもうと燃え盛っている。

 美しく、伝統のある街並みが、赤色と黒色で染め上げられていた。

 

 くそ。ここまで徹底的に……。

 ドレアム!



「これから、どうするのだ?」



「……ドレアムの魔力反応がトランスヴァール城の近くからするから、石碑を破壊しようとしているのでしょう。だから、俺とアルフィンで城まで乗り込む。それとゲラルドとジャギの反応が街中からするから、シズクとナエはあいつらを頼む」




「任せてください。ゲラルド……今日こそ引導を渡します」



「ジャギの相手は、やるの」



「分かった。それぞれの場所に降ろしていく。ワレは魔物共を一掃しよう」



「皆頼む。ここを護りきれるか、どうかが勝負の分かれ目になる。よし、いこう」




 それぞれが戦う相手の確認をして、トランスヴァールへ乗り込んだ。


 近づくにつれ、街の状況が鮮明に確認できた。

 街を囲っていた三層もの結界を破壊され、街を警護する戦士達は肉の塊となっていた。



「……皆。国を守ろうとして……申し訳ありません……」



 アルフィンが、涙を溜めて犠牲になった人達をみていた。



 城門は破壊され、敵から街を守る頑強な外装は、役目を奪われ、外敵を排除する為の、魔法兵器も粉々に砕かれている。

 被害を拡大させる真っ赤な炎は、商業区も、住宅区、貴族区、冒険区とこの街を四つに区切るエリアを燃やして建物を崩壊させていく。


 城下町には、どれだけの数の魔物がいるかも分からない程の魔物も徘徊して国民を食い殺し、押し潰す。

 街の警護隊も、冒険者も魔物の駆除と、民の避難に乗り出しているけど、魔物の数に対して数があまりにも足りない。


 四天王までいるのであれば、とても対抗できる戦況ではなかった。



 魔物を排除しながら城へと向かっていくと、ゲラルドとジャギの魔力反応が近くに感じられた。



「タクトさん。ゲラルドの魔力反応を探知しました。この落とし前をつけさせてきます」



「ああ。バッサリとやってやれ」



「はい。では」



 シズクは、破魔を発動させながらゲラルドの魔力反応がする方へと駆け出していった。



「お兄ちゃん、あたしもジャギを懲らしめにいくの」



「今のナエなら大丈夫だと思うが、気をつけてな」



「うん。おとしまえをつけさせてくるの」



 ナエも、魔力を高めながら走っていった。

 皆、アルフィンの為にも頼む。



 シズクと、ナエを街中に降ろしてトランスヴァール城へと飛んでいく。



 上空からは聖樹ユグドラシルが見えた。

 前に見た時は、目映い光と圧倒的な存在感を放っていたが、ここからでも見えるユグドラシルは、光が弱く普通の樹木の様に静かな存在感しか感じられなかった。



 やっぱり。

 ユグドラシルに異変があったから、ドレアムや魔物がこんな所まで攻め込めたんだ。


 城へと近づくとともに、この前俺が殺されそうになった強大な魔力が大きくなっていく。

 最奥に位置する金色に輝き美しかった王宮は、穴だらけに壊されていた。


 城門に到着すると、中からはユルゲン陛下とドレアムの魔力反応を感じる。



「ユルゲン陛下が心配だ。急ごう」



 俺は今度こそ、ドレアムを倒す。

 その為に厳しい修業も乗り越えたんだ。

 もう、絶対に負けない。

お読み頂きありがとうございました!

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