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86話 想いの光

よろしくお願いします!

 




「甘い! 甘いぜー!! そんなんじゃ失格だ!」



「ぐうあああっ!」



 地面へと思いきり叩きつけられる。

 戦いが進む毎に黒がその強さを増していくようになってからは、ひたすら殴られ、蹴り飛ばされ叩きつけられるのを繰り返していた。


 黒の攻撃を俺は防ぐことができず、俺の攻撃は黒に見切られる。

 ありとあらゆる手を使おうとも、効果がなかった。

 ドレアムと戦った時の絶望感と同じ物を感じる。

 目の前の黒は、パワー、スピード、テクニック、魔力と全てが俺よりも数段上だった。




「このままだと……くっ! 限界突破!!」



 対抗するには、もうこれしかないと限界突破を使用して黒に突撃をかけた。



「お、なんだよ。もう使っちゃうのかよ? お前の奥の手をよ」



 無理やり黒に対抗できるレベルまで、身体能力を強化して仕掛ける。



「はあぁぁ!!」



「お、速いな」



 自分に出せる最速で接近し、黒の顔面にハイキックを叩き込むが、それを黒は片腕で軽くガードする。


 ほんの数秒動きを止めた隙をついて、右拳に魔力を集中する。



崩拳(ほうけん)!」



 魔力を大量に纏った拳を黒の腹に当てて打ち抜こうとした。



「無駄だって」



 俺のその右拳に魔力を纏った黒の左拳がぶつかる。

「ビリビリ」と周囲に高密度の魔力がぶつかりあった際の高音が鳴り響いた。



「これならっ! ノーザンフリギッド!!」



 一旦距離を取ってそこから氷属性魔法を放つ。



「へえ。ノーザンフリギッド!」



 黒は俺と同じ魔法をぶつけた。

 超絶な極寒の冷気どうしがぶつかりあったエルネギーが周囲を凍りつかせていく。



「……悉く(ことごとく)はね返される。どうすれば……」



 俺にとってまさに奥の手である、限界突破を使ってやっと動きについていけるようにはなった。

 だけど、それでも俺の攻撃は通用しない。

 今のように、格闘も、魔法も無効化される。

 ドレアムと戦った時に目覚めたスキルも、条件を満たしていないのか何でかまた使えなかった。


 だから、他の部分で何とかしないといけない。

 何とか活路を見いだそうと、普段あまり使わない戦法も織り混ぜながら黒に攻撃していく。

 超スピードで撹乱して、大量の魔力を身に纏った攻撃を黒はまたもや完璧にガードする。



「クソッ! これならどうだ!」



 風属性の特級魔法を拳に装填して、拳打と一緒に叩きつける。



「いいじゃん。考えてるね。だけど――」



 それも予測済みだったのか、俺の腕を掌底で、軌道を反らし何もない所へ放出させる。そのまま腕を掴み俺の腹に、片腕で拳打を連続で打ち込まれた。



「ぐふっ! ごあぁぁぁぁ!」



「やるならこれぐらいはやらないと、さあ!」



 秀逸な魔力操作でたっぷりと魔力を込めた右腕を、腹に叩き込まれ、地面に倒れこんだ。



「……強い……」



 コイツに勝てる想像ができない。

 ここまで、力の差があるなんて。


 黒は倒れ伏した俺を見下ろすように、近寄ってきた。



「お前さ……本当にこの世界を救いたいと思ってんの?」



「……どういう意味だ」



 頭だけを黒に向けて聞き返した。



「本当はこの世界なんて、どうでもいいんだろう?

 所詮生まれ育った世界じゃないし? みたいな?」



 片膝をついて、なんとか体を起こす。



「……だから、どういう意味だ」



「つまりさぁ。前の世界だって、親とか友達だとか巻き込まれたくないからとかさ、女神から(ギフト)もらったけどさ?

 お前はもう、死んでるんだし関係ないわけじゃん? そんな自分の命をかけてまで、護るもんでもないんじゃねぇの?」



「分かったような事を言うな!」



 その余計な事を喋る口を閉ざしたくて、三個の魔法を作り出し放った。



「だから、こんなの効かないってば」



 両腕に魔力を集めると、俺の魔法を殴り飛ばした。



「大体さ。前の世界だって人助け? ばっかりやってたけどさ。

 結局お前に、何か返ってきたわけ? 挙げ句の果てには、てめぇの命を失なってさ。ははっ! くっだらねぇの」



「…………」



「強くなりたいのだって世界を救いたいとか、大切なあの女達を守りたいからだろ? その為にも俺に勝ちたいって? そんなことして何になるわけ? あの女達なんてどうなってもいいじゃん」



「黙れ!」



 黒に近づき、殴りつける。

 それをかわしながら、黒はその口を止めない。



「どうなってもいいじゃん? こんな世界なんてさ。俺にボコボコにされて痛いだろう? 苦しいだろう? もう楽になれって。諦めちまえよ。な? お前じゃ俺に勝てないって」



「黙れ! 黙れ!」



 これ以上余計な事を喋らせないように、痛む体に鞭を打ち、特級魔法を片っ端らから撃って撃って撃ちまくる。


 それすらも無意味だと、黒は全て防いでしまう。



「所詮、てめぇが一番可愛いんだよ。他の奴等なんて死んだっていいんだよ」



「黙れ……黙れ……黙れーー!!」



 もう目の前のコイツを黙らせたくて、しゃにむに駆け出した。



「おっと。まだ諦めないのか? それなら」



 黒が腕を「だらん」とすると、魔力を急激に高めていくのが分かった。

 上がり続ける魔力の中、俺を更に絶望に追いやる言葉を吐いた。



「限界突破~」



 魔力を爆発的に放出し、更に俺との力の差を広げた。

 さっきまでよりも更に、圧倒的な力。



「もう、飽きてきたし本気でいくよ」



 圧倒的な力の差に、なすすべもなく蹂躙される。



「があっ! ぐふっ! がはあっ!」



 ひたすらに、なぶられるが抵抗できない。

 何も反撃が出来ずにサンドバッグの様に殴られ続ける。

 俺にはただ立つ事しかできない。



「しぶとさは合格だ。でも……これで終わりかもな」



 黒が体の周りに、特級魔法を幾つも作り出し俺へと撃つ。

 俺にできる精一杯のレジストをするが、気休めにしかならない。

 一発、一発が致命傷になりかねない程の魔力の暴風を一身に受ける。

 これを受け続ける事のみが俺に許された行動のように、無慈悲の魔法を浴びた。



 爆発の余波で、周囲を煙が包むなか体に力が入らず前のめりに倒れこんだ。




「……がふっっ……」



 体中から血が吹き出している。

 全身が真っ赤に染まっていた。

 力が入らない。

 もう駄目だ……起き上がれない。



 大量の血が流れ、体中に激痛が走り意識が朦朧としてくる。


 はっきりしない意識の中で、黒に言われた事を考えていた。

 黒が言うように、俺にはそもそもこんな世界を救うなんて、大それた事だったんじゃないのか。

 この世界を救うなんて、心の底では望んでなかったんじゃ。


 俺ではアルフィンをシズクをナエを護り抜くなんて……。

 もうやめてしまおうか。

 俺では駄目なんだろう。



 もう……いいかな。

 ごめん皆。

 帰るって約束したけど……約束守れそうにないや。



 体が深い闇の沼に、「ズブズブ」と沈んでいく。

 重石もつけていないのに、面白いぐらい勝手に沈んでいく。

 息苦しさと、目の前の現実に意識を手離してしまいそうになる。


 もう駄目だと、もう諦めてしまおうと沈む意識の中で。



 声が聞こえた。




「タクトさん。必ず帰ってきてくださいませ」



 アルフィンの声が。



「タクトさん、自分に負けないでください」



 シズクの声が。



「お兄ちゃん、負けたら駄目なの。これからも一緒に遊ぶんだから」



 ナエの声が。




 俺をいつも想ってくれて癒しを与えてくれる声が。

 皆の笑顔、温もり、共に過ごした日々と思い出が光となって俺の体に吸い込まれていく。

 諦めるなと、負けるなと、目の前のもう一人の俺に勝てとの声が俺に届いた。


 そうだ。

 何でこんな大切な事を忘れていたんだろう。

 俺はこんな所で負けたら駄目なんだ。

 皆、ごめん。俺は弱くて諦めちゃう所だった。

 だけど、皆と一緒に居たいから。

 皆ともっと生きていきたいから、俺頑張るよ。

 だから皆。俺にもう一度戦う為の力を!! 




「駄目だったか。今回のはユーリ・ライゼ・トランスヴァールと似た空気を持つから、期待したんだけどな。

 ……はぁ。しょうがな――――何だ……光があいつの体を照らして……」



「ドウンッ」と何かが決壊したような音がなったとかと思うと。

 倒れ伏している体から、天井にまで届きうる程の光が溢れだした。




「何だかんだ言って俺は覚悟出来てなかったんだ。口だけだったんだよ。世界を救う事は確かに本当の本意じゃなかったかもしれない。でも、アルフィン達を護りたいと、護り抜く力が欲しいと思った事は、嘘なんかじゃない」



「……あれだけ痛めつけたのに……まだ」



「俺は決めた。

 アルフィン達と一緒にいられるなら他に何もいらない。

 俺のこの力は……彼女達の為に。

 俺はお前を乗り越えて、必ず力をつけてここから出る!!」


お読み頂きありがとうございました!

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