81話 束の間の休息
ナエの専用装備を受け取るため、城内をアーロンさんについて移動していた。
トランスヴァールでもそうだったけど、大事な物は地下に閉まっておく決まりがあるものなのか、下へ下へと降りていく。
アーロンさんの魔力反応で、開閉されていく扉、複雑な紋章が描かれた結界を、解除しながら進む道の奥にナエの専用装備はあった。
「これが、初代ルーデウス皇帝がハーディーンと戦う際にも使用した装備品。名は、至高のローブ、調節の腕輪、収束の杖と呼ばれる物だ」
白を基調とした生地に、彩り鮮やかな明るい青、ピンクの線が入ったローブ。
白色の鉱物に赤色の紋章が刻まれた腕輪、明らかに年数が経過している木材に、特殊な魔力反応がする金属加工された杖が、アーロンさんからナエの小さな手に渡された。
「うわぁ! ちょっと大きいけど、可愛いの。この色も好きなの!」
見たところ、ナエが装備するにはサイズがちょっと大きいが我慢してもらおう。
クララさんが、また鍛冶職ができる様になった時には、改めて調整してもらえばいい。
まぁ、ナエが気に入ってくれてるみたいだからいいか。
鑑定スキルで見ると。
ローブは耐物理、耐魔法、状態異常に極めて強い魔力付与が施されている。
腕輪は、収束スキルの魔力をオートアシストする機能がついている。
杖は、単純な魔法の威力を跳ね上げ、魔素を収束する効果も倍にする。
性能は、破格で申し分ない。間違いなくナエを強化してくれる物だ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、どうかな? 可愛い? 似合ってる?」
受け取った専用装備を嬉しそうに身につけて、クルリと周り皆に見せる。
「ナエちゃんとても似合っていて、可愛らしいですわ!」
「とても可愛いですね! 白色は、ナエちゃんに似合います」
お姉ちゃんズが、ナエを囲って可愛いを連呼している。
それでナエの機嫌は、上昇気流の様にぐんぐんと上がっていく。
しばらくぶりに場が和む感じ。
昨日は死にかけたから、こういうのは本当に癒される。
「気に入ってもらえたならば、初代も喜ぶだろう。是非、邪神軍討伐の為に、役立ててほしい」
「アーロンおじいちゃん。ありがとう!」
「はっはっは。その笑顔が見られただけで、渡した甲斐があるな。
子供の笑顔は、いいものだ。
わたしにも、孫がいるがこの状況で避難させているから、しばらく顔も見れていない。早くこの大戦を終わらせなければな」
アーロンさんは、ナエの頭を撫でながら、孫の事を思い出しているのか遠くを見つめる眼差しをしていた。
「そうですね。早くアイツらを倒して平和にしましょう」
「その為にも、もう一踏ん張り年寄りも頑張るとするか。
さて、装備は渡したから後は。
酒は奴等の襲撃に備えて出すことが出来ないが、料理は作らせるから竜王国に行く前に食べていかないか? こんな時でも、少しばかり気を抜くことも大切だろう。どうだ?」
アーロンさんから会食の誘いを受けた。
ドレアムもまた何か企んでるし、本当は急いだ方がいいんだろうけど……。
「ぐぅ~」
お腹の音が地下に響き渡った。
確か前にも同じ事があって、その時はシズクだったけど。
今回もか? とシズクを見ると、首をブンブンと物凄いスピードで横に振っていた。
「あっ。お腹の音が鳴っちゃったの。もうお昼なの」
お腹の音の主は、ナエだった。
「確かに腹減ったな。ナエも育ち盛りだから食事はしっかりと摂らないとな」
「育ち盛りなの。たくさん食べてジャギより大きくなるの」
「と、言うことなのでお願いします」
「はっはっは! 子供は正直でいい。料理人に最高の物を作らせる。楽しみにしといてくれ」
地下を出る前にアーロンさんに念話カードを渡しておいた。
また何かあれば、すぐ駆けつけられるように。
一階に戻ってきてからは、食事の用意が出来るまで城の中庭で休ませてもらうことにした。
ちょうど四人用のベンチがあり、そこに腰を下ろす。
「今日は良い天気ですね。風も気持ちいいですわ」
「たまにはこうして、ゆっくりするのもいいですね」
「昨日は、大変だったからね。余計にそう思うよ」
「タクトさん、お身体の調子は大丈夫ですか? 昨日はゆっくりと眠れたと言われておりましたが」
「疲れも取れたし、怠さも抜けたから大丈夫だよ。魔力はまだ半分ぐらいかな回復したのは。全開まではもう少し時間かかりそうだよ」
「それだけ強敵だということですよねドレアムは。規格外の魔力量を持つタクトさんが、魔力切れを起こすなんて」
俺の全てを出し尽くしたからな昨日は。
それでも勝てなかったけど。
「それでは少し休まれた方が良いでしょう。わたくしの膝をお使いくださいな」
アルフィンが膝をポンポンと叩いて、頭を乗せるように言ってくれた。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
頭をアルフィンの膝に乗せると、優しく頭を撫でてくれる。
真下から見上げるアルフィンの顔は、とても美しく慈しんでくれている眼をしていた。
優しく見つめてくれながらの膝枕は、最高に気持ちいい。
アルフィンの甘い香りと、ツヤツヤな肌は天国だ。
「後で私の膝も使ってくださいね。私の膝もタクトさん専用ですから」
シズクもニコッと微笑みながら、言ってくれる。
こんな超絶美少女の二人に、ここまで想ってもらえるなんて、
あ~俺は幸せものだ。
「ありがとう。後でお願いするよ」
俺を大切にしてくれる皆に感謝して、蝶々を追いかけ回すナエを観ながら、二人にたっぷりと甘えさせてもらい少し眠った。
会食の準備が済んで、少し遅い昼御飯を頂く。
酒は飲めなかったけど、それでも食堂の雰囲気は明るい。
やっぱり、危機を乗り越えて生きている喜びを味わうだけで、ご馳走も、酒もなくても楽しくなるもんだ。
ジェクトさんの豪快で、陽気な性格が場を盛り上げる。
「ガッハッハ! そりゃいい! 前の世界の話はおもしれぇな!」
少し話しただけで、ジェクトさんと、バハムートとも仲良くなった。二人ともタイプがまるっきり違うけど、人格者で色々と、この世界の面白い話しもしてくれた。お返しに俺の前世の話しをすると、えらく気に入ってくれて、今はその話しで盛り上がっていた。
「そうかヨーク公は元気か。アルド殿下も守ってくれたと、ラカンから聞いている。助かった」
「いえ。めちゃくちゃなダンジョンでしたけど、皆が無事で良かったです。ヨーク公から聖剣も貰えましたし、色々としてくれたので感謝ですね」
「エクソードアークを装備できる者が現れるとはな。シズクとも剣士として、剣術の話しがしたいな。いいか?」
「はい、シズクも喜ぶと思います」
クラウドさんとは、これからの戦いの事や真面目な話しが多かったけど、様々な話をさせてもらい、愛する女性を大切にする方法等、アドバイスを貰った。
隊長達も、副隊長達も本当にいい人ばかりだ。
食堂の一角に、一際大きい竜王国の人達がいる場所でナエが食事をしていた。
リューガと、他の竜王国の戦士達にも挨拶をと向かうと。
「バハムートだから、バーちゃんなの」
「ワレは、バハムートだ」
デジャヴかな。リューガとのやり取りを思い出させる。
「バーちゃんは、バーちゃんなの」
「いや、だから――」
「バハムートよ。諦めた方が賢明だ。ワレもリューちゃんになった」
「リューちゃんは、リューちゃんなの。バーちゃんは、バーちゃんなの」
「……バーちゃんでいい……」
ナエは、大きな友達が二人もできて、とても嬉しそうだ。
アルフィンは、アーロンさんと王族としての話をして、シズクはクラウドさんと、剣術の話をしていた。
それぞれに、有意義な時間を過ごし、美味しい料理も食べて、英気を養わせてもらった。
これでまた、頑張れる。
一日も早く、世界を平和にして酒を飲みながら、本当の宴会をしたいな。
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